この2年間でファッション業界関係者が学んだことがあるとするなら、それは予想外の事態に備えるということだ。だが、成功するファッションブランド創業者たちの傾向も含め、ファッションが次にどこに向かって進むべきかという指標はある。それを物語っているのが、創業者たちが自らの会社以外に時間や資金を投入しているという点だ。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
今回は、ファッションブランドの創業者の投資ポートフォリオと、そこから読み取れる業界の方向性について探る。
この2年間でファッション業界関係者が学んだことがあるとするなら、それは予想外の事態に備えるということだ。だが、成功するファッションブランド創業者たちの傾向も含め、ファッションが次にどこに向かって進むべきかという指標はある。それを物語っているのが、世界的な災害の脅威にもかかわらず、創業者たちが自らの会社以外に時間や資金を投入しているという点だ。
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消費者、サブスク、クリエイターエコノミーの分野で革新的な企業に注目
ファッションスタイリストからファッション界の大御所へと転身を遂げたレイチェル・ゾー氏は、15年以上にわたってひそかにアーリーステージ・ベンチャーキャピタルであるレイチェル・ゾー・ベンチャーズ(Rachel Zoe Ventures, RZV)を運営している。同社は、11月下旬にふたつめのファンドを発表した。この新たに設立されたアクセス・ファンド(Access Fund)は、リミテッド・パートナー(第三者投資家)が四半期ごとに年間合計少なくとも10万ドル(約1135万円)以上を拠出すると、RZVの次の投資に参加することができるというものだ。
レイチェル・ゾー・ベンチャーズは、全般的に消費者、サブスクリプション、クリエイターエコノミーの分野における技術プラットフォームや革新的な企業に注目している。RZVの取引には、資本金とあわせて、ゾー氏の所有する事業や業界関係者の幅広いネットワークを通じて、ゾー氏個人の専門知識や補完的なリソースへのアクセスも含まれている。
これまで企業に対して行った賭けという意味では、ゾー氏にはよい実績がある。彼女のアクティブなポートフォリオには、2020年に売上高3億ドル(約340億5600万円)に到達したファブフィットファン(FabFitFun)が含まれている。一方、RZVの投資後にイグジットした企業に、ニューオーダー(NuOrder)、ポッシュマーク(Poshmark)、ピンタレスト(Pinterest)などがある。2020年半ばに展開されたRZVの最初のファンドの投資先12社には、今年の第2四半期末までに3年間で9000%近い成長が見込まれていると報じられたプロバイオティクスに特化したシード(Seed)や、公共安全アプリのシチズン(Citizen)などが含まれている。ゾー氏は、投資を検討する前からそのアプリを使っていたと話す。
投資戦略について彼女は、「自分が共感できるものを支持している。個人的に使うことができるものか、あるいはビジネスに価値をもたらしてくれるだろうと思うものだ」と語った。自分のポートフォリオのためにブランドを探したことは一度もないとも述べている。むしろ彼女が投資してきたのは、さまざまなチャネルやコネクションを通じて彼女に売り込まれてきたものだ。
ポップカルチャーのトレンドになりそうなアイデアを重視
2000年代後半に名前が知れ渡るようになって以降、ゾー氏はかなりのネットワークを構築してきた。彼女はセレブリティ・スタイリストとしてキャリアをスタートさせ、その仕事はブラボー(Bravo)でリアリティ番組として放送された。その後、彼女は複数の会社を立ち上げている。そのなかには、オンラインスタイルマガジンの「ザ・ゾーレポート(The Zoe Report)」、ラグジュアリーショッピングメンバーシップ企業キュラトゥール(Curateur)、自身の名を冠したライフスタイルブランド(既製服、アクセサリー、ホームインテリアなどを展開)などがある。
個人的に便利なものを考えるだけでなく、彼女は自分のトレンドの知識を活かして投資を行っている。「その会社のアイデアが、人々が我を忘れるほど夢中になるポップカルチャーのトレンドとなりそうだったら、私は興味を持つ」と彼女は言う。
アクセス・ファンドに確定している3社のうち、ザ・リスト(The List)は、ラグジュアリーファッションやライフスタイル製品をキュレーションして提供するグローバルなeコマース・マーケットプレイスだ。「私はこれに夢中。私が大好きなものすべてからいいところだけを組み合わせて、これまでなかったものが生まれている」と話す彼女は、「一部はファーストディブス(1stDibs)で一部はファーフェッチ(Farfetch)、一部はザ・リアルリアル(The RealReal)」だと説明した。
その反面、「企業のコンセプトがあまりにも複雑すぎると、私は逃げてしまう傾向がある」と彼女は言う。
クリエイターエコノミーの進化と一致した新たなビジネスモデル
レイチェル・ゾー・ベンチャーズは6人のチームで構成されており、ゾー氏の夫で長年のビジネスパートナーであるロジャー・バーマン氏がマネージングパートナーを務める。バーマン氏には、ニューヨークで10年近い投資銀行の経歴があるとゾー氏は言う。彼の「金融とビジネスの知識」と彼女自身の「現場での経験」こそ、ある意味、RZVが成功しそうなブランドを正確に狙うことができる秘訣である。そのおかげでRZVは資本だけに価値を置くのではなく、戦略的な取引を確保することもできる。
これは、クリエイターエコノミーの進化と一致した新たなビジネスモデルである。そして、RZVの最初のファンドの受益者である、設立1カ月のイントロ(Intro)にも完璧に合致していた。イントロは、アドバイスを求める人がその分野の専門家と1対1のビデオ通話を行うことを容易にするというプラットフォームだ。イントロにはさまざまな領域の専門家や戦略家であるスター級の投資家がずらりと揃う。ゾー氏のほか、サードラブ(ThirdLove)の創業者でCEOのハイディ・ザック氏、起業家で美容ブランドのメリット(Merit)やバースト(Versed)のCEOキャサリン・パワー氏などがいる。また、NBA選手のケヴィン・デユラント氏やコメディアンのティファニー・ハディッシュ氏も名を連ねる。そしてアンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz)が、1000万ドル(約11億3500万円)のシード投資を主導した。
「セレブリティやインフルエンサーは、自分のブランドや露出に対してお金をもらうことに慣れている。しかし、宣伝や投稿にお金を払えるような10億ドル(約1600億円)規模の企業ではない(エキサイティングな)会社の一員になりたいと思うなら、別のゲームをしなければならないということに気づいている」と話すのは、イントロの創業者であるラード・モブレム氏だ。「だからそうした人々は今、有名人というよりもまるでテック投資家のように振る舞いながら、企業が自分たちのブランドを活用することを可能にしている」。
イントロの資金調達戦略について、モブレム氏は次のように語る。「我々は、当社のビジネスの成長を助けてくれる戦略的投資家だけでなく、他者への驚くようなアクセスや影響力を持つ人々からも資金を調達している。そうした人たちは、信頼できる方法でブランドに貢献している価値ある著名人だ。最終的には会社を築き上げるというこの困難な道のりにおいて、もっと気を楽にできるだろう。少し長いゲーム・アプローチだが、その見返りは、通常のブランド取引よりも規模は大きい」。
ゾー氏はただ「オーディエンスを広げているだけでなく、彼女の住所録も広げて」イントロに関わってくれる人々をリクルートしており、これまでイントロに対して並外れた貢献をしているとモブレム氏は述べた。
キーワードはコミュニティ
ゾー氏は、ブランドの「クリエイティブ、ブランディング、マーケティング、ユーザーエクスペリエンスに貢献する」ことに情熱を傾けているため、単なる資本投資家ではなく「戦略的パートナーとしてゲームに参加したい」と常に考えている。
そして、彼女は自分が支援する創業者にも同じレベルの情熱を求めている。「成功する傾向にある人は、自分たちがやっていることに対する情熱に非常に突き動かされている」と彼女は指摘している。「目の輝き、元気な足取り、声の熱いトーンなどにそれを見出すことができる。そうした人々は、勝つべくして勝っている」。
そしてこうも付け加えた。「私たちのような人はいい時はいいし悪い時は悪いので、この業界ではすぐにお互いに気づく。神経が図太くなくてはならないし、それにサポートが必要なときに頼れるコミュニティがなくてはならないのだ」。キーワードはコミュニティだ。
3つの質問:サードラブのハイディ・ザック氏が語る投資戦略
ブラジャーとベーシックのブランドであるサードラブの共同設立者でCEOのハイディ・ザック氏は、いくつもの女性主導の消費者向け企業にエンジェル投資を行っている。その中には、エムエムラフルアー(M.M.LaFleur)、バーディーズ(Birdies)、ディップシー(Dipsea)、オリーブ&ジューン(Olive & June)、ザ・ウェディングショップ(The Wedding Shop)、アノマリー(Anomalie)、クラウンアフェア(Crown Affair)、スティックス(Stix)、アワープレイス(Our Place)、ヘルシールーツ(Healthy Roots)、ケイデンス(Cadence)、イントロ(Intro)、ヘイママ(Hey Mama)、チェアマンマム(Chairman Mom)などがある。以下、ザック氏が投資戦略について語った。
投資に値する創業者とは?
「私自身、事業よりもその人物に賭ける投資をたしかに何度か行ったことがある。そうしたタイプの創業者を『ハスラー(やり手)』と呼んでいる。なぜなら、そうした人たちのエネルギーには、ビジネスを構築するために必要なことなら何でもするという意思が感じられるからだ」。
エキスパートアドバイスプラットフォームであるイントロへの投資の原動力となったのは?
「現代社会では、ほとんどあらゆる人がこれまで以上に人とのつながりを強く求めている。イントロはこのニーズに基づいてプラットフォームを作り、誰もが多くの分野の専門家とつながることができるようにした。(創業者たちは)真にパーソナライズされた方法で(人々が)リアルタイムにインプットを行ったり、ガイダンスやフィードバックを得たりできるような空間を作っている」。
サードラブを成長させた経験は、ファッション投資にどのように活かされたか?
「ブランドを一から築き、規模を拡大することがいかに大変なことか身をもって知っているので、具体的で現実的な顧客ニーズを解決する事業と、すばらしいエネルギーに多くの気概のある創業者を探している」。
[原文:Fashion Briefing: Brand founders’ investment portfolios point to the future of fashion]
JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)