個人情報保護法改正がブランドの選択する販売チャネルミックスに与える影響について取り上げる。Appleのプライバシーに関する最近のiOSアップデートによって、ブランドは卸売チャネルでの販売を重視する傾向があることが、業界関係者との会話や最近の決算報告会でのコメントなどからわかったが、そう単純な話ではないようだ。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
今回は、個人情報保護法改正がブランドの選択する販売チャネルミックスに与える影響について取り上げる。
Appleのプライバシーに関する最近のiOSアップデートによって、ブランドはますます卸売チャネルでの販売に向かうようになるのではないかという点に興味を持ち、さらに深く探ってみた。業界関係者との会話や最近の決算報告会でのコメントなどから、実際にそうした傾向があることがうかがえる。だがわかったことは、そう単純な話ではないということだ。
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小売業者は、自分たちのウェブサイトや店舗での販売、また広告物への掲載を希望するブランドの数がかなり増加しているのを実際に目にしている。これはパンデミックの初期に起きた、店舗を閉鎖した小売業者がブランド注文をキャンセルし、ブランドが販売チャネルを自社に頼る方向に切り替えるという転換とは対照的だ。プライバシーポリシーの変更がこのトレンドの一因となっている(前出の記事にあるように、ブランドがダイレクトメール、SMS、Snapchatなど、広告ミックスを多様化する動機にもなっている)。しかし考慮すべきほかの要因が少なくとも3つある。
デジタルマーケティングは効率的ではなくなっている
「たしかにD2Cブランドにしてみれば、AppleとGoogle Androidの変更によって(広告の)ターゲティングと測定が(かつてのように)強力ではなくなったため、デジタルマーケティングはあまり効率的ではなくなっている」と話すのは、マーケティングおよびクリエイティブエージェンシーのベラルディ ウォン(Belardi Wong)の社長ポリー・ウォン氏だ。「しかしブランドは、リテーラーに頼るようになっている。なぜなら、あらゆるチャネルでのマーケティングコストが大幅に上昇しているからだ。それに人々は店舗に戻りつつある」。
ウォン氏によると、ベラルディ・ウォンの50~100店舗を持つクライアントは現在、前年比30~100%の収益増を達成している。また彼女は、小売総売上の80%以上、アパレル売上の3分の2が依然として店舗での販売であるという統計も指摘した。さらに、新規顧客獲得のコストは、デジタルよりも卸売チャネルの方がはるかに安価だという。
リテーラーの多様なマーケティング手法を頼るブランド
そもそもこの話題に興味を持ったのは、リボルブ(Revolve)の共同創業者で共同CEOのマイケル・メンテ氏と交わした会話がきっかけだった。パンデミックの最中、ブランドは直販に力を入れるようになったが、それがリボルブに与えた影響について尋ねたところ、メンテ氏はいまはその逆だとはっきり答えた。つまりプライバシーポリシー変更が広告のルーティンを一新させた結果、ブランドはますますリボルブとその多様なマーケティング手法に依存するようになっているのだという。
その日行われた同社の第4四半期決算発表の場で、メンテ氏はその手法の成功について詳しく説明した。「当社のマーケティングチャネルの多様性は、Appleの最近のiOSプライバシーアップデートによるマーケティング上の逆風を切り抜けるのに役立った」と彼は投資家に語った。「実際この第4四半期には、2020年の第4四半期と比較した場合、純売上高に対するマーケティング効率は1ポイント以上を実現している」。
第4四半期中、リボルブはサプライチェーンの課題を軽減するために、在庫投資を2900万ドル(約33億5900万円)増やし、1億7100万ドル(約198億円)とした。現在、リボルブの売上の80%はサードパーティブランドが占めている。
独自のリテールプラットフォームでブランドとの関係を強化
ブランドが小売業者のもとに集まってきているという考えをさらに後押ししたのは、3月2日に行われたノードストローム(Nordstrom)の第4四半期決算説明会だった。社長でチーフブランドオフィサーのピート・ノードストローム氏は、同社は2021年に「選択肢の数」を50%増やして成長し、「過去最高の品揃え」で2022年を迎えることができたと述べている。同社は1年間で300の新しいブランドを取り込んだ。
その理由の少なくとも一部は、3月2日に公表された同社の広告プラットフォームであるノードストローム・メディアサービス(Nordstrom Media Services)に負うところが大きいと、CEOのエリック・ノードストローム氏は指摘している。同社によると、このプラットフォームによって、ブランドはノードストロームの3200万人の顧客に直接対応することができ、トラフィック、売上、エンゲージメントを促進できるという。このプラットフォームでは、スポンサードの商品広告やブランドページのほか、有料のソーシャル広告やディスプレイ広告、YouTube動画、アフィリエイトキャンペーンなどのメニューアイテムが提供される。ノードストロームが所有するデジタルチャンネルには、年間20億のユニークビジターが訪問していると報告されている。
「当社が多くの新進気鋭のブランド、特にデジタルネイティブなブランドのソフトパートナーとなることができる重要な理由のひとつは、ほかの方法ではそのブランドに出会えなかった多くの人々にそのブランドを紹介できるという点である」と、エリック・ノードストローム氏は決算会議で述べた。
また従来の卸売り契約だけでなく、ドロップシッピング、コンセッション、レベニューシェアなどを含む、ブランドとのパートナーシップモデルを最近追加したことも要因のひとつとして挙げられている。
ブランド側は卸売パートナーを認知度アップや顧客獲得に活用
多くのD2Cブランドの経営者たちに、プライバシーポリシー変更の直接的な結果として、より多くの小売業者への展開を進めているかどうかを聞いてみることにした。しかし、明確に「はい」と答えた企業はひとつもなかった。
「マーケティング・ミックスの一環として、私たちは常にノードストロームのような力のある特定の小売業者と、マーケティングミックスの一環として連携してきた」と話すのは、ダグネドーバー(Dagne Dover)のCEOメリッサ・マッシュ氏だ。「私たちのeコマースビジネスが成長していくなかで、Facebookが何をしようが関係なく、ブランドの継続的な露出をサポートするために、卸売を通じてビジネス全体における安定して一貫した部分を引き続き行っていきたい」。
また彼女はこうも述べている。「しかし、多様な小売業者のグループを通じて販売することが、Cookieがなくなりつつある世界においてオンラインとオフラインの両方で顧客の前にありつづけることを支援してくれると思っている」。
グッドライフ(Goodlife)の卸売戦略も、プライバシーポリシー変更を通じて一貫している。共同創業者でCEOのクリス・モルナー氏はノードストロームを重要なパートナーと呼び、「我々は常にオムニチャネル・リテールと顧客獲得のための卸売パートナーの活用を信じてきた」と言った。「ノードストロームの店舗網と全国的な顧客基盤は、ブランドの認知度を高めることによる顧客獲得コストの維持に役立っている」。
興味深いことに、ノードストロームでの成功に基づき、現在グッドライフは買収を目的とした実店舗を展開している。
コマースはかつてないほど融合しつつある
インテリジェントマーケティングプラットフォームのスカイ(Skai)で戦略およびコマースのジェネラルマネージャーを務めるニック・ワインハイマー氏は、「ブランドと小売業者が両端にあり、D2Cがその中間のどこかにあるという『コマースの連続体』は、かつてないほど融合しつつある」と述べている。「D2Cは究極のスケールのために、デジタル顧客獲得や販売チャネルを超えて、実際のリテール環境を含めてマーケティングを多様化する必要があることに気づきつつある」。
ノードストロームとしては、利益率の高い広告ビジネスのローンチは「コマースの連続体」における同社の足跡を拡大するだけでなく「同社の存続を脅かす最大の存在であるAmazon」に対抗する競争力を高めることにもなる、とワインハイマー氏は指摘した。
Amazonを含むすべての小売業者でもそうなのだが、ノードストロームの広告に掲載されるには、ブランドは高い料金を支払わなくてはならない。しかしそれによって、露出だけでなくセルスルーデータへの新たなアクセスも可能になるとウォン氏は言う。ノードストロームの広報担当者は、「当社ではブランド全体の成長とキャンペーン固有のパフォーマンスを測定し、ブランドパートナーのニーズに合わせたレポートを作成している」と述べた。そしてデータの需要が高い一部のブランドには、それ自体がセールスポイントになるかもしれない。
[原文:Fashion Briefing: Are new privacy laws driving DTC brands to third-party retailers?]
JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)