欧州委員会は3月30日、「欧州グリーン・ディール」の一部としてサステナブルな製品イニシアチブ(SPI)を発表した。これにより、低品質でトレンド重視の衣料品を過剰に生産しているファストファッションのビジネスモデルは責任を問われるかもしれない。
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欧州委員会は3月30日、「欧州グリーン・ディール」の一部としてサステナブルな製品イニシアチブ(SPI)を発表した。 欧州グリーン・ディールは、気候中立(温室効果ガスの排出量をゼロにすること)を、欧州が世界に先駆けて2050年までに実現することを目指す、2019年12月に発表された成長戦略で、施行による影響は大きいとされる。よりクリーンな環境、手ごろな価格のエネルギー、よりスマートな交通、雇用の創出、そして全体的なクオリティー・オブ・ライフの向上を目指していく。
SPIはヨーロッパ大陸における気候中立目標の、きわめて重要な部分になる。エネルギー消費量や温室効果ガス排出量を削減しつつ、製品のデザイン要件の設定や、未販売製品の廃棄の抑制などに重点を置いており、マイクロファイバーの生産を制限することや、すべての製品にデジタルパスポートを導入することも視野に入れる。さらにはEUや英国で大きな問題になっているグリーンウォッシング(見せかけの環境配慮)を防ぐため、EUが認定するラベルの導入促進も議論されている。これまでは、特定の環境標準を満たす製品には、1992年に制定されたEUエコラベルが用いられてきた。
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英公正取引委員会(CMA)は、マーケティング活動がグリーンウォッシングであると昨年批判されたファッションブランドを現在調査中だ。チェンジング・マーケット・ファウンデーション(Changing Markets Foundation)の最近の調査から明らかになったのは、英国およびEUでさまざまな業界の主要12ブランドについて寄せられたグリーンウォッシング関連のクレームの約6割が、根拠が示されていないもの、あるいは誤解を招くものだったということだ。
SPIは国際市場にも影響
2017年にロサンゼルスでファッションブランド「センツァ・テンポ(Senza Tempo)」を立ち上げたクリステン・ファナラキス氏によると、英国やEUで製品を販売する国際的なブランドはこのイニシアチブの影響を受けるという。「もしカリフォルニア州でサステナブルについての基準を導入した場合には、カリフォルニアで販売するブランドは(その新しい基準を)全面的に準拠する必要がある」と例を挙げながら述べる。
ウルトラファストファッションのブランド「シーイン(Shein)」が1,000億ドル(約12.5兆円)の企業価値評価でプレIPOラウンドを検討していると報じられていることからも明らかなように、すぐに実現はしないだろう。ファストファッションは世界中で、低品質ですぐに時代遅れになる、トレンド重視の衣料品を提供している。
サステナブル事業の戦略を手掛けるエコ・エイジ(Eco Age)のサステナビリティー・コンサルタント、フィリッパ・グローガン氏によると、この新しいイニシアチブはまだ十分に進んでいない。EUはこの戦略をもっと定量化して実施し、ブランドが衣料品の過剰生産に戦略的に対処できるようにするべきだと語る。「ブランドは、どんなリサイクルシステムでも対処できないほど、衣料品を過剰に生産している」と同氏。「それが消費者に、衣料品はまるでティッシュのように使い捨てるものという印象を与えている。これはシーインのモデルにも非常によく合致している」。欧州環境機関(EEA)によると欧州では、衣料品の使用による環境や気候変動へのインパクトは食品、住居、輸送に次いで4番目に大きい。
しかし、欧州のファッションブランドはエネルギー価格の高騰やウクライナ侵攻が引き起こした課題に対処しており、サプライチェーンには緊張が走る。イニシアチブはこの一部に影響を与えるかもしれない。既に生産されている衣料品を重点的に活用し、追加生産を抑制することで、ロシアへのエネルギー依存度を下げることにつながる可能性があるのだ。
求められる新しい役割
EUは他にもサステナブルな循環型繊維製品戦略や、新たなグリーンウォッシングを禁止する規則を発表した。ブランドは製品の分別やリサイクルなどバリューチェーンに対する責任を明確にするための対策を実施する必要があると、社会起業家の支援団体「ファッション・インパクト・ファンド(Fashion Impact Fund)」でエグゼクティブ・ディレクターを務めるケリー・バニガン氏は語る。また、耐久性やリサイクル性に重点を置いたエコデザインのフレームワークも作成する必要があるという。
「ブランドがまず確認すべきなのは、この移行のためのインフラが整っているかだ。必要に応じて労働者に新しい能力を習得させ、誰も取り残さないようにするためには、(脱炭素社会に向けた)公正な移行はきわめて重要だ」と同氏。「このグリーン・ディールが優先しているのは雇用の創出だ。基準を常に順守できるように支える新しい役割が、ファッション業界でも求められるだろう」。
責任を金銭的に負担すべき
このイニシアチブはブランドに、生産と耐久性についての責任を負わせるものになる。ただし、各製品群に具体的にどのような要件を設けるかはまだ定まっておらず、ブランドと共に定義を進めれば内容が希薄化するかもしれない。
センツァ・テンポのサプライヤーですら、製品の厚さや品質が低下していくのを目の当たりにしたファナラキス氏は、たばこ業界や化学業界が環境負荷に応じて重い税を課せられたのと同様、ファストファッションのブランドは自分たちの製品に対する責任を金銭的に負担するべきだと語る。
「このイニシアチブによって、ファッションによる環境破壊の根源である低品質と過剰生産という問題に、ようやく対応できるかもしれない」と同氏。「ファストファッションのビジネスモデルや、化石燃料を大量に消費して大量生産されたファッションの、外部費用を誰も払っていない。拡大生産者責任が導入されると、廃棄物や汚染物質はそれを排出した工場の責任となって製品価格が上昇し、安価な衣料品の責任を企業が負担することになる」。
この問題は、今後の法規制によって対処され得る。EUは2023年に改訂する予定の廃棄物枠組み指令(WFD)で、繊維製品の生産者の責任を拡大する予定だ。さらに欧州委員会は現在、繊維廃棄物の再利用やリサイクルの目標を正確に定めるため調査を実施中で、これがEUにおける衣料品業界の取り組みの基準になっていく。
SPIはレンタルや、改修・修理などの関連サービスを開発し、新しいサーキュラー(循環型)な事業モデルを推進していくことに力を入れる。ハイエンドなリテーラーは新たな収益源として、このようなサービスを立ち上げている。
ニーマン・マーカスは改修・修理プログラムを最近発表し、バーバリーなどのブランドも修理サービスを開始した。だがファストファッションブランドにとっては修理にかかるコストが服自体の安い価格を上回るため、提供がむずかしいものになるだろう。
[原文:Why fast-fashion brands in the EU could be held accountable for wasteful processes]
ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:田崎亮子、編集:黒田千聖)