ファッション業界では、各ブランドが大量レイオフの期間から脱してリモートワークにも慣れてくるにつれ、新たな組織モデルが生まれようとしている。各社は、これまでのように特定の役割毎にフルタイムワーカーを雇うのではなく、代わりに専門知識を持った人材や、外部の専門家とのコラボを積極的に行うようになってきている。
ファッションブランドたちは、従業員をできるだけ拘束しない働き方を採用する方向へ舵を切っている。
ファッション業界では、各ブランドが大量解雇を余儀なくされた時期から脱し、リモートワークにも慣れてくるにつれ、新たな組織モデルが生まれようとしている。各社は、特定の役割ごとにフルタイムワーカーを雇うのではなく、代わりに専門知識を持った人材や、外部の専門家とのコラボレーションを、積極的に行うようになってきている。その結果、そうした企業では組織の流動性が高まり、全体として達成できることも増えているという。
サステナブル志向のファッションブランド、パンゲア(Pangaia)のバイスプレジデント兼最高パートナーシップ責任者のジャスミン・ミュラー氏は、同社のチームについて「とても流動性が高い」と述べる。「素晴らしい素材に出会ったとき、我々は『これをさらに開発するために誰と手を組めばいいか? この素材を本当に上手く見せ、ワクワクする方法でそれを伝えられるのは誰か?』ということから考える。たとえば、アーティストとコラボレーションすることも選択肢のひとつだ。仕事の進め方はひとつではない。だからこそエキサイティングなのだ」。
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「グローバル共同体」
パンゲアは同社のブランド資料で、自らを科学者と技術者とデザイナーの「グローバル共同体」と表現している。パンゲアの創業は2018年で、現在フルタイムの従業員は94人。これまで同社は、現代美術家の村上隆との取り組みや、俳優のジェイデン・スミスとともにローンチした紙容器入りのミネラルウォーター「ジャスト・ウォーター(Just Water)」をはじめ、数多くのラボや研究者とのコラボレーションも展開してきた。パンゲアは、こうした協業の詳細を明かすことは避けたが、「相互に有益なもの」だと述べている。ブランド広報担当者によると、こうしたパートナーシップは、「投資と商品開発、研究活動のスケールアップ」の3つの機会をもたらすという。
同社の最高インパクト・コミュニケーション責任者であるマリア・スリバスタバ氏は、「パンゲアは、世界中のさまざまなラボがもたらす、イノベーションのための傘だ。我々は常に未来を考えている。多くの人々に、パンゲアの取り組みに賛同してもらいたい」と語る。
同社は、自社のアパレル製品を販売するだけでなく、B2Bビジネスも展開。その中身は、ほかの企業に対し自社の技術や素材を提供するというものだ。たとえば、2019年に発売されたガチョウやアヒルの羽毛に代わる、より安全かつ動物に優しい「フラワーダウン(FLWRDWN)」、洗濯した衣類の鮮度を長持ちさせるといわれているトリートメント剤「ペパーミント(PPRMINT)」、海藻から作られた繊維「シーファイバー(C-Fiber)」などの独自素材などが挙げられる。
パンゲアはまず、新しい技術を自社のサプライチェーンに統合し、既製品として顧客に紹介する。その後、他社向けにオープンソース化するのだという。「ファッションやアートといったクリエイティブな業界は、ほかの業界にインスピレーションを与え、彼らをリードすることができる」と、スリバスタバ氏は述べる。
大きなチャレンジを伴う
前出のミュラー氏は、バレンティノ(Valentino)やボッテガ・ベネタ(Bottega Veneta)といったラグジュアリーブランドで勤務していた。スリバスタバ氏も過去、バーバリー(Burberry)に10年在籍している。ミュラー氏はその経験から、ファッションのイノベーションは、より新しく、動きの速いブランドからもたらされることが多いと話す。「長年続いている企業には、変化を起こすことが難しい」。
さらに同氏は、以下のように付け加える。「我々は、自身の取り組みを前進させるために、パートナーと協業している。我々のパートナーシップは、常に大きなチャレンジが伴う」。
2020年5月に発表された村上隆とのコラボレーションはその良い例だ。パンゲアはこのコラボレーションで、村上隆を象徴する花と、ミツバチのイラストがあしらわれたコレクションをリリース。それと並行して、スウェーデンの慈善団体であるミルクワイヤー(Milkywire)とともに、絶滅危惧種のミツバチの保護を目的とした団体、ビー・ザ・チェンジ・ファンド(Bee the Change Fund)を設立している。
多様なメンバー構成
2020年10月に創業し、東京をベースに活動するエクストラレス(Extraless)もまた、従来からのサイロ化されたファッションブランドの構造を考え直しはじめている。創業者のバデ・ファトーナ氏は、米DIGIDAYのメールの取材に対し、大量消費の背景にある、大規模ファッションビジネスの「悪習」を是正するための取り組みを進めつつ、「未来にあるべき企業」の青写真を描いていると答えた。
「企業は、自らが存在する世界の現実に、しっかり向き合う必要がある。企業は、世の中の変化に俊敏に対応しなければならない」と、ファトーナ氏はいう。「エクストラレスは、『共同体』的な組織として運営されており、各々がさまざまな意思決定プロセスに参加することができる。この組織体制が、アイデアを活性化し、全員が目的にコミットし続けることにつながっている。6人からなる我々のチームは、小売ビジネスやアート、写真、ファッションなど、さまざまなバックグラウンドを持つ、クリエイティブなメンバーで構成されている」。
デザイナーのジャン・トゥイトゥ氏が、1987年に立ち上げたフランスのブランドA.P.C.(アーペーセー)など、「共同体」的アプローチをとっているブランドはほかにもある(APCは、アトリエ・ドゥ・プロダクション・エ・ドゥ・クリエイション[Atelier de Production et de Creation]の略で、生産と創造の工房を意味する)。ニューヨーク発のブランド、セオリー(Theory)は2017年、セオリー2.0(Theory 2.0)を立ち上げ、部門の垣根を超えて編成されたチームで、カプセルコレクションを開発できるような体制を構築している。
パンゲアのこれから
パンゲアは今後も、「共同体」というコンセプトに忠実であり続けるようだ。ミュラー氏によると、2021年には新たなパートナーシップを、多数結ぶ予定だという。それは、ニューヨーク近代美術館(MOMA)で販売する製品ベースのコラボレーションから、サプライチェーンの再考、実店舗での実験、新素材の共同開発に焦点を当てたパートナーシップまで多岐にわたるという。その一環として同社は、2020年12月、100%バイオベースで堆肥化可能な素材を製造する、キントラ・ファイバー(Kintra Fibers)への投資を発表している。
なお同社は2020年を皮切りに、2021年も四半期ごとにインパクトレポートを発表し、7つのカテゴリー別に成果を報告することになっている。最初のレポートでは、2020年の全期間を通じて、「人間の潜在能力を高める」というカテゴリーにおいて、同社の従業員の多様性、つまり「共同体」的要素を強調。彼らの出身国は35カ国にのぼり、19の言語を話す。また、そのうちの76%が女性となっている。
[原文:Fashion brands are abandoning traditional org charts in favor of ‘fluid’ teams ]
JILL MANOFF(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:村上莞)
Illustration by IVY LIU