2019年夏、水着のD2C(direct-to-consumer)ブランド、アンディー・スウィム(Andie Swim)は広告看板デビューを飾った。 2017年春に創業したアンディー・スウィムは、2019年6月から7月に […]
2019年夏、水着のD2C(direct-to-consumer)ブランド、アンディー・スウィム(Andie Swim)は広告看板デビューを飾った。
2017年春に創業したアンディー・スウィムは、2019年6月から7月にかけて、ニューヨークとシカゴの地下鉄駅と広告看板に出稿した。同社にとってはじめての屋外キャンペーンだ。ブランドサービスエージェンシー、ウォーン・クリエイティブ(Worn Creative)とともに「Suit Yourself(「自由に振る舞おう」「水着を着よう」の2つの意味を持つ)」というコンセプトを考え、アンディーの水着でダイビングやサイクリングに興じる女性たちを描き出した。
バーク(Bark & Co)でブランド体験部門を率いた経歴を持つアンディーの創業者兼CEOメラニー・トラビス氏によれば、アンディーはマーケティングミックスの拡大を図っているところで、屋外キャンペーンはその次なる一歩だという。ディスプレイ、ペイドサーチ、Facebook、インスタグラム(Instagram)、Pinterest(ピンタレスト)などのダイレクトレスポンス広告からはじめ、その後、ポッドキャスト広告を展開したアンディーは、2018年11月、はじめての屋外キャンペーンの計画に着手した。
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「まるで社交界へのデビューだった」と、トラビス氏は振り返る。「会社が成長したら、ファネルの底部を担うダイレクトレスポンス広告だけでは不十分で、さらに手を広げる必要がある。ファネルの上部を満たすことができなければ、底部のコストが上昇し、その価値を超えてしまう。正当性の問題もある。いろいろな場所でブランドを目にしなければ、本物のまともなブランドだと思わない層がいるためだ」。
大部分がベンチャーキャピタル(VC)の出資を受けているD2CブランドはFacebook、インスタグラムなどのパフォーマンスマーケティングプラットフォームで顧客を獲得してきたが、現在、従来型のチャンネルに手を広げている。ソーシャルメディアでブランド広告に出くわす可能性がないオーディエンス、Facebookでしか見ることのないオンラインブランドから購入したいと思わないオーディエンスを獲得するためだ。Facebook、Googleなどの顧客獲得コストが上昇し続けていることも、D2Cブランドがテレビのような従来型のチャンネルに投じる予算を増やしている一因だ。動画広告協会(Video Advertising Bureau)の調査によれば、2018年、上位125のD2Cブランドを合わせると、前年比60%増の38億ドル(約4067億円)がテレビ広告に投じられている。
顧客獲得コストにはターゲットオーディエンス、カテゴリー、タイミングなど、さまざまな変動要因が存在するが、競争コストは確かに上昇している。あるマットレスブランドによれば、Googleでは「最高のマットレス(best mattress)」といった検索語の1クリック当たりのコスト(CPC)が15ドル(約1600円)に達しているという。1年前は10ドル(約1070円)だった。家庭用品ブランドのパラシュート(Parachute)は2019年に入ってからマットレスを発売したが、Facebookだけで1カ月に2万ドル(約214万円)を使ったと見積もっている。その結果、リーチできたのは、メディアミックスの多様化によってリーチできる数と同等だった。
ブランドはこうしたコスト上昇にうんざりし、ほかのチャンネルを検討しはじめている。そうすれば、幅広い層にリーチできるチャンネルのトリクルダウン効果を享受し、結果的に、コストを下げることができる。
eコマースプラットフォームを提供するプロダクツアップ(Productsup)のCEOマーセル・ホラーバック氏は、「デジタルファースト、パフォーマンスマーケティングから始めた企業はいま、屋外に飛び出せば、オンラインキャンペーンがより有益になるという現実を目の当たりにしている」と話す。「インターネットを閲覧している人が、Googleで既知のブランドの広告を見るという状況をつくれば、CPCは結果的に下がる。そして、マーケティング全体の効果が上がり、コストは下がる」。
つまり、従来型のチャンネルへの移行は必然ということだ。ただし、店舗を持ったり、量販店に商品を置いたりしている目的がそうであるように、D2Cブランドはこれらのチャンネルにデジタルブランドらしい現代的なひねりを加えようとしている。データが豊富なプラットフォームで商品を直販し、大量の顧客情報やインサイトを手中に収めたD2Cブランドには、アナログなチャンネルでのアプローチを刷新するチャンスがある。
実店舗や卸売りでは、顧客体験を見直すこと、小売企業とともに、データの共有方法やブランドの見せ方を考えることができた。しかし、マーケティング戦略を変更し、幅広い層に周知できるチャンネルに進出した場合、アトリビューションに関するインサイトや顧客情報をほとんどあるいはまったく得ることができない。そのため、思春期のようなぎこちない成長期を送ることになり、リソースの再配置、パートナー探し、新たな追跡手法、新たな顧客に対応するためのバックエンドの準備が必要となる。つまり、あらゆる広告チャンネルを股にかけた複雑な舵取りが必要ということだ。いまだブランド立ち上げの障壁は低いと思い込んでいるブランド創業者は覚えておいた方がいい。Facebookだけではブランドを構築できないということを。
リソースの再配置
デコーデッド・アドバタイジング(Decoded Advertising)の創業者兼CEOマット・レドナー氏は「これらのブランドはもっと早くチャンネルミックスを多様化すべきだった」と語る。「D2Cブランドはファネルをひっくり返した。まずFacebookからはじめ、その後、テレビに参入しようとしている。しかし、D2Cブランドの進路は狭く、多くのライバルが広告をマネようとする。そのため、ブランドは素早くこれらのチャンネルに移行しなければならない」。
最初の障壁は予算だ。ホラーバック氏によれば、ブランドは年間100万ドル(約1.07億円)前後をパフォーマンスマーケティングに投じ続け、知名度を十分に上げてから、屋外広告やテレビ広告などを検討すべきだという。これらのチャンネルに手を出すと、すぐに1カ月の予算が10万ドル(約1070万円)を超えるためだ。
トラビス氏によれば、屋外キャンペーンを成功させるには約10万ドルの初期投資が必要だが、5000ドル(約535万円)のポッドキャスト広告やわずか5ドル(約535円)のFacebook広告よりはるかに賢明な選択だという。この初期投資によって、テレビ広告や屋外キャンペーンの資金を出す余裕があるブランドとして、そうでないブランドと差別化を図ることができ、急成長しているブランドという人々の心に残るアドバンテージを得ることができる。ウォーン・クリエイティブの共同創業者キャロリン・ラッシュ氏は、(ともにキャンペーンを行った)アンディーはリソースを賢く使ったと評価する。
「D2Cブランドにとって、巨額の予算がかかる屋外キャンペーンは、手の届かないものに感じられる。アンディーは賢明だった。我々は(ニューヨーク市地下鉄の)レキシントン・アベニュー/59丁目駅をジャックし、ウィリアムズバーグのベッドフォード・アベニュー駅は回避した。その代わり、ブルックリンの街に壁画広告を出した。これが予算の大幅な節約になった」と、ラッシュ氏は語った。
広告購入のコストだけではない。新しいブランドが不慣れなプラットフォームで大規模なキャンペーンを展開するとなれば、人材や専門知識などのリソースも必要だ。アンディーや(家庭用品ブランドの)パラシュートのようなブランドは、すべてを社内で賄うことに慣れている。それがアンディーは屋外キャンペーン、パラシュートはダイレクトメール(DM)、テレビ、ラジオ、屋外という未知の領域に踏み込むことになった。
パラシュートのCMOルーク・ドロレス氏は「我々はテレビキャンペーンの制作に必要なツールキットを持ち合わせていない。それでエージェンシーを頼ることにした」と話す。「我々は社内チームを増強し続けているが、外部のエージェンシーと仕事をすれば、社内チームが先例をつくる助けになる。また、ブランドを見つめ直すという思考プロセスにも役立つ」。
見えないデータの追跡
ブランドの広告看板を見たあと、ブランドのショップを訪れた人の数を測定するのは不可能だ。また、複数のチャンネルが一緒に購入を後押しした場合、アトリビューションも厄介な問題になる。D2Cブランドにとって、測定不能なマーケティングチャンネルに身を投じることは、成果の追跡方法を再考しなければならないことを意味する。
オンラインスタイリングサービス、スティッチ・フィックス(Stitch Fix)は2019年に入ってはじめて、テレビ、屋外、OTT、メディアパートナーシップ、ソーシャルを組み合わせたブランドキャンペーンを展開した。同社のマーケティング担当バイスプレジデント、リゼル・ウェルデン氏によれば、成長チームとアルゴリズムチームが全チャンネルを対象としたインクリメンタリティテストを実施し、顧客登録、注文といった指標への影響を測定したという。ブランドキャンペーンに関しては、「ブランド・ヘルス・トラッカー」でファネル上部の指標を追跡した。その目標は、(顧客が)さまざまなタッチポイントで最初のオーダーをする前に、キャンペーンのコンセプトでより多くの顧客を獲得することであり、それによって解約者の減少につなげることだ。
「このブランドキャンペーンをはじめたことで、総合的な認知度、親近感、エンゲージメントを高める能力に自信を持つことができている」と、ウェルデン氏は話す。
アンディーのトラビス氏も、屋外キャンペーンでは実用的な顧客データをあまり得られないが、「効果的かどうかは、はっきりわかる」と述べている。たとえば、キャンペーン後、インスタグラムで過ごす時間が短い年代の目に触れるようになったことで、顧客の年齢層が少しずつ上昇している。さらに、デジタルチャンネルの顧客獲得コストも下がっているという。
パラシュートのドロレス氏は、次のように述べている。「オフラインマーケティングの方がオーディエンスは大きいが、すぐにFacebookをやめると宣言するつもりはない。つまり、点と点を結ぶことができているということだ。両者がブランドを強化し、パフォーマンスを高めてくれている」。
切迫した状況
大規模なブランドマーケティングを展開し、多くの顧客にリーチできたスタートアップは、その結果として、切迫した状況に追い込まれることがある。レント・ザ・ランウェイ(Rent the Runway)やスティッチ・フィックスのようなサービス型スタートアップの場合、社内システムが整い、新規顧客の流入に対応できるようになるまで、マーケティングキャンペーンのペースを調整する必要があった。トラビス氏によれば、アンディーも6月にキャンペーンを開始してから、需要を満たすため、カスタマーサービスと倉庫の担当者を急いで補充したという。
「マーケティングを開始してから、在庫と経費がギリギリの状態だ。業務に支障が出ることもある」と、トラビス氏。パフォーマンスが予想を超えているため、後方支援が必要な状態になっていると同氏はいう。「倉庫では水着が飛び交い、カスタマーサービスは後手に回っていた。私は『大変だ。人員を増やさなければ』と思った」。
成長期の苦しみは、苦しみに違いないが、歓迎すべき問題だ。若いブランドはあらゆる場所に存在することで、あるいは、少なくともインスタグラム以外の場所に存在することで、顧客を安心させることができる。そして、それがライバルをたたきのめす助けになる。特に、マットレスや水着といった飽和状態のカテゴリーでは。
トラビス氏は、次のように語っている。「インスタグラムには水着を売るブランドがあふれ返っており、その多くが標準以下の直販ブランドだ。こうした状況が拡大するにつれ、そのようなブランドのひとつではないこと、本物のチームであることを示すことが重要になる。屋外キャンペーンはその助けになった」。
Hilary Milnes(原文 / 訳:ガリレオ)