Facebook Shops がもたらす、D2Cブランドの機会と疑念

この1年、Facebookはeコマースに対する野望を少しも隠そうとしなかった。昨年3月、同社はインスタグラムチェックアウト(Instagram Checkout)のベータ版をリリースし、ユーザーがインスタグラムのアプリから離脱することなく、参加する小売企業から商品を購入する仕組みを構築した。さらに12月、パッケージド(Packagd)というスタートアップ企業を買収し、QVCのようなショッピング専門のライブ動画を配信できるようにした。

5月19日、Facebookは「Facebook Shops(フェイスブックショップス)」というカスタマイズ性の高い、オンラインストアの開設機能を開始すると発表したが、この発表も当然、驚きではなかった。同社の狙いは、買い物をする人に「新しい商品を探すなら、Facebookとインスタグラム」と思わせることで、Facebook Shopsもこの試みの一環という。

Facebookがめざすのはeコマースプラットフォームへの転換だ。小売企業に、GoogleやAmazonではなく、Facebookで広告費を使いつづけてもらうためには、どうしても必要な取り組みである。小売企業としては、顧客の行動データをもっとも多く保有しているプラットフォーム、あるいは自分たちの顧客が新しい商品を探すときは必ずそこに行くというプラットフォームで広告費を使いたい。

だが、Facebookの新しいeコマースツールの恩恵にあずかるD2Cブランドは、同時に、顧客関係に対するコントロールを失う危険もある。Facebookが新しい商品を探すのに最適の場所ならば、わざわざひとつの企業のウェブサイトに行かずとも、Facebookに出店する何百ものショップを見てまわれば良い。確かに、新規顧客を低価格で獲得できる点はセールスポイントになるかもしれない。だがFacebookは、精魂込めてブランドサイトを作りあげてきた小売企業たちに、Facebook Shopsは彼らからトラフィックを奪い取るものではないと納得させる必要がある。

Shopifyとの連携

このため先の発表でも、FacebookはShopify(ショッピファイ)、BigCommerce(ビッグコマース)、WooCommerce(ウーコマース)らと密接に連携しながら、Facebook Shopsを本格展開すると述べている。Facebook Shopsでは、小売企業は顧客に自社のウェブサイトで商品を購入させることもできるし、インスタグラムチェックアウトを有効にしている場合は、Facebook側のチェックアウト機能で決済させることも可能だ。

Facebookの発表後まもなく、Shopifyもプレスリリースを出して、Facebook Shopsの展開に果たす自らの役割を強調した。Shopifyは、Facebook Shopsの本格展開にともない、同社の事業とFacebookをより簡単につなげるための、新しいチャネルを開設するとも述べている。また、この機能を試してみたい小売企業を対象に、インスタグラムチェックアウトも提供するとしている。

一般的にShopifyはD2Cブランド御用達のeコマースプロバイダーと目されており、結果的に、いまのところFacebookが進めるeコマース事業へのテコ入れから、もっとも恩恵を受けている。だが、FacebookがShopifyの事業ともっと直接的に競合するようなサービスに乗り出せば、状況は変わりうる。オンラインストア機能の本格展開を開始したからには、数年後にはフルフィルメントサービスへと触手を伸ばすかもしれない。

FacebookとShopifyは、もちろん、互いに競合関係にはないと言っている。「このパートナーシップは、買い物客を集め、Facebook Shopsの加盟店に客の存在を示すものだが、加盟店の事業の中核を担うのはShopifyだ」。こう語るのは、Shopifyで製品責任者を務めるザブリナ・フセイン氏だ。一方、Facebookの広報担当者によると、Facebook Shopsに限らず、Shopifyと連携しながら、「Facebook Marketplace(フェイスブックマーケットプレイス)やインスタグラムチェックアウトなど、エンドツーエンドのショッピングエクスペリエンスを提供している」という。

Facebookの各種のショッピング機能をもっと多くの買い物客に使ってもらうために、少なくとも短期的に必要なことは、ユーザーが関心を寄せるブランドや小売企業をより多く集めることだ。現状、これを実現するために、Facebookにとって一番手っ取り早い方法は、多くの小売企業を顧客に持ち、その顧客基盤を取り込むことのできる、Shopifyのようなパートナーと連携することにほかならない。

「顧客を取り込むバックエンドの機能に関しては、Facebook固有のツールはお世辞にも優秀とは言えない」。そう指摘するのは、Facebookの元プロダクトマーケティングマネジャーで、現在はグラムスクアッド(Glamsquad)で成長担当のバイスプレジデントを務めるモニッシュ・ダッタ氏だ。「オンラインストアの開設に必要なバックエンドの作業には力仕事が多いが、それはShopifyの専門分野でもある」。

Facebook Shopsを活用すれば、Shopifyで開設したブランド側のECサイトに購入者を誘導できる点を訴求すれば、自社の顧客データをFacebookに引き渡すことに消極的な小売企業に対しても、その懸念を和らげることができるかもしれない。

D2Cを躊躇させるもの

インスタグラムチェックアウトの試験運用で参加ブランドを集める際にも、データはひとつのネックとなってきた。あるD2Cブランドのマーケターが、今年、米DIGIDAYの姉妹メディアであるグロッシー(Glossy)に匿名で語ったところによると、インスタグラムチェックアウトの導入を断念した理由のひとつはデータの問題だった。当時、インスタグラムがこのD2Cブランドに提供していたデータは、顧客が注文した商品のフルフィルメントと配送に必要な顧客データに限られ、配送や注文の確認メールは、このブランドではなく、インスタグラムから送信されていた。

「顧客へのマーケティングをさせてもらえないなら、もはや我々の顧客ではなく、インスタグラムの顧客だ」と、このマーケターはグロッシーに語った。

1年経っても、Facebookは、インスタグラムチェックアウトは依然ベータテストの最中で、数百程度のブランドが利用しているにすぎないとしている。チェックアウト機能の主なユーザーとして同社が常に名を挙げるのは、ユニクロ、H&M、ZARA(ザラ)など、比較的大きな小売企業である。

対照的に、Facebook Shopsでは、Shopifyのような定評のあるバックエンドパートナーと連携していることから、訴求対象はむしろ中小規模の事業者なのだろう。今回取材したD2Cの幹部たちにとって、Facebook Shopsの一番の魅力はその広告機能だ。調理器具ブランドのキャラウェイ(Caraway)で成長戦略の責任者を務めるジョッシュ・ノップマン氏は、長期的な視点でFacebook Shopsに大きな期待を寄せる理由について、「商品の購入傾向や、効果的な画像タイプなど、分析の側面にたいへん興味がある」と述べている。

ノップマン氏の見立てによれば、究極的には、小売企業が自社の製品に関心を持つ潜在顧客を特定し、広告費の削減や、より価値の高い顧客の獲得につながる広告を、従来よりも正確に配信できるようになるという。

反面、スタートアップのD2C企業が手持ちのチップを全額Facebook Shopsに賭けるようなことをすれば、それはリスクともなりうる。Facebookでの広告の最適化は、まるでもぐらたたきだ。どの企業も顧客獲得コストを抑制するために、新しい入札戦略を次から次へと考案するが、競合他社がこぞって追随すれば、広告コストは再び上がる。

さらに、Facebook Shopsで獲得できる顧客のタイプについても注意する必要がある。「低額の商品を扱う企業にとっては、Facebook Shopsのような仕組みは非常に効果的だ」と、ハンドバッグのD2Cブランド、カーラ(Caara)のアーロン・ルオ最高経営責任者(CEO)は指摘する。「平均的な注文額が300ドルや400ドルともなれば、購入前にそのブランドや商品について下調べする必要がある。Facebook Shopsはそのようなエクスペリエンスを顧客に提供できるのだろうか」。

とはいえ、今回取材したD2CブランドのすべてがFacebook Shopsの試験的な運用に前向きだった。少なくとも、この機能でどの程度のコンバージョン率が期待できるのか、評価することはできる。さらに、Shopifyなどのeコマースプロバイダーとの連携により、商品カタログをアップロードする手間が省けるため、Facebookへの出店も容易になるだろう。

Facebookがスムーズなショッピングの妨げとなる要因を排除するのに最適と考えるものと、Shopifyが顧客である小売企業の成長を助け、Shopify自身のパートナーたちの満足度を維持するのに最適と考えるものの間には、やがて葛藤が生じるにちがいない。けれども、ストアの開設が容易で、D2Cブランドが顧客データを手放す必要がないかぎり、彼らはこぞってFacebook Shopsの試験運用に乗り出すだろう。

Anna Hensel(原文 / 訳:英じゅんこ)