スティッチ・フィックス(Stitch Fix)の決算のなかに、同社のアクティブクライアントあたりの売上(Revenue Per Active Client:以下、RPAC)が9%成長したという統計がありました。デジタルマーケティング関連の新語を解説する「一問一答」シリーズ。今回は、このRPACを取り上げます。
オンラインスタイリングサービスのスティッチ・フィックス(Stitch Fix)が2019年10月1日に発表した決算のなかに、純収益やアクティブクライアントのような数字や指標に埋もれて、同社のアクティブクライアントあたりの売上(Revenue Per Active Client:以下、RPAC)が9%成長したという統計が挙げられていました。
この測定値は、メディアや電気通信事業と関連していることが多いのですが、ブランドのあいだでサブスクリプション型サービスの提供がブームになっていることを受け、ファッション業界でも使われるようになっています。会員制サービス、すなわち定額制料金を徴収しているブランドにとって、これは意味のある指標です。
デジタルマーケティング関連の新語を解説する「一問一答」シリーズ。今回は、このRPACを取り上げます。
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ーーまず、RPACとは、ひと言でいうとなんですか?
RPACは、ARPU(Average Revenue Per User)とも呼ばれ、電話やインターネット通信のような定額制サービスにおいて1ユーザーがもたらす売上総額を計測するためにもともとは電気通信事業者が使っていた指標です。顧客生涯価値(Lifetime Value:LTV)と並行して用いられますが、会員制やサブスクリプション型のビジネスモデルにより特化した言葉です。ファッションブランドにとっては、顧客から集めている会費やその他の購入代金を組み合わせた売上を追跡するうえで有用性を増しています。
たとえば、衣装レンタルブランドのレント・ザ・ランウェイ(Rent the Runway)は、月額159ドル(約1万7343円)のサブスクリプションサービスを提供しています。ですが、それ以外に、顧客は借りた洋服の一部を割引価格で購入することもできます。毎月決まった額である会費収入と、そのときによって変動する購入代金をひとつにまとめて、RPACとなります。
ーーつまり、サブスクリプションの売上指標ということ?
サブスクリプション売上と取引による売上、両方あるファッションブランドが必ずしも同じ割合で売上を得ているわけではありません。スティッチ・フィックスはスタイリング料金を比較的低めに設定しています。同社の売上の半分以上は、顧客による実際の買い物から来ているのです。
「スティッチ・フィックスは会員制サービスの形をとっているが、彼らの実際のビジネスは衣類の販売だ」と語るのは、男性向けファッションブランド、スコッチ・アンド・ソーダ(Scotch & Soda)の最高経営責任者(CEO)であるアリ・ホフマン氏です。スコッチ・アンド・ソーダは2019年8月に「スコッチ・セレクト(Scotch Select)」というサブスクリプション型のレンタルサービスを開始しました。「我々にとってもっとも重要なものはサブスクリプションだ。我々の月額料金は99ドル(1万799円)で、これが主たる売上になっている。借りた服を購入するユーザーもなかにはいるが、それは会員の10%程度でしかない」。
ホフマン氏は、スコッチ・アンド・ソーダにとっては、サブスクリプションベースの増加が目下の最優先事項であり、スコッチ・アンド・ソーダの現在の会員にレンタルしたスタイルをより多く購入してもらうことではないと話します。
バーチボックス(Birchbox)のCEOを務めるカティア・ボーシャン氏は、米DIGIDAYの姉妹サイトであるGlossy(グロッシー)に対して、サブスクリプションモデルは前菜(意欲をそそるもの)だと思うと語りました。「サブスクリプションは、人を乗り気にさせ需要を生み出す手助けをする方法になりそうだ。それはトランザクションではない。トランザクションが生まれるのは、人が気に入ったものを見つけ、それを買うときだ」と、同氏は述べています。
ーーなるほど、RPACでは、アクティブユーザーの増加にこそ、価値があるということでしょうか?
レント・ザ・ランウェイは2019年9月、ロジスティクスの問題で消費者へのレンタル品の配送が遅れるという事態を招きニュースになりましたが、こうした企業にとって会員の増加は、現段階のビジネスにストレスをかけることになるので必要ではないといえます(この件に関して、レント・ザ・ランウェイからのコメントは得られませんでした)。アクティブユーザーの増加は、企業のロジスティクスやリソースをさらに圧迫することも意味します。安定期であれば、これは大した問題にはなりませんが、レント・ザ・ランウェイが経験したような種類の問題を悪化させる可能性もあります。
RPACは、顧客のためにいくら費やし、彼らのどのような行動を奨励・刺激したいのかをブランドが見るのに役立つものです。
ホフマン氏はこう話します。「レンタルした品を毎回購入するような極端にアクティブなユーザーがいることが良いとは限らない。我々は中庸な、平均的ユーザーの割合が増えることを望んでいる。利用が多すぎると、発送やクリーニングを月に8~9回しなければならなくなるので、儲けが少なくなる。だが一方で、それほどサービスを利用しない人には、利用をやめてしまうリスクがある。極端にアクティブなユーザーを維持できれば嬉しいには違いないが、彼らは大きな利益につながるものではない」。
ーー少しわかってきました。高いRPACは、アドオンにフォーカスする場合には良いのですね。
ホフマン氏は、スコッチ・アンド・ソーダのレンタル会員からの売上の90%はサブスクリプションによるもので、これを維持したいと述べています。一方スティッチ・フィックスは、収入のほとんどをトランザクションから得ており、その分野での毎年9%の成長が最新決算での成功報告を可能にし、純収益を29%増加させ15億8000万ドル(約1723億円)にすることに貢献しました。会員制サービスをはじめたばかりのブランドにとっては、安定とオーディエンスの拡大がもっとも重要な数字で、サービスが確立されたあとにRPACの重要性が増してきます。
Danny Parisi(原文 / 訳:ガリレオ)