[ 1分まとめ ]なぜ小売業者は「 事業中断保険 」をめぐって戦っているのか?

新型コロナウイルスのパンデミックに伴い、事業中断保険が小売業者の新たな頭痛の種となっている。

ニューヨーク市に本拠を置くデパートチェーンのセンチュリー21(Century 21)が先ごろ破産を申請した際、同社はその理由として事業中断保険の保険金が支払われなかったことを挙げた。保険会社の対応に不満を抱いている小売業者はセンチュリー21だけではない。世界的ブランドのラルフローレン(Ralph Lauren)や地域に根差した人気アパレルブランドのオークランディッシュ(Oaklandish)も、加入する事業中断保険の契約に基づく補償を行っていないとして保険会社を提訴している。

事業中断保険では通常、ウイルスやパンデミックを補償対象となる事象とは明示していない。そのため小売業者やその他の事業者は保険契約の残りの文言に目を向け、パンデミックに適用すべきだと主張できそうな箇所がないかチェックしている。

事業者にとっては数千万ドルのかかった問題であり、それがあるかないかでパンデミックを生き残れるかが決まるかもしれない。裁判では多くの場合、保険会社に有利な裁定が下されているが、それでも原告、被告ともに最初の裁定を不服として上訴している。すなわち法廷闘争が年単位とはいわないまでも数カ月は続く可能性があるわけだ。

「これは白黒はっきりつけられる問題ではない」と、B・ライリー・セキュリティーズ(B. Riley Securities)の再編担当責任者および投資銀行業務の共同責任者を務めるペリー・マンダリーノ氏は話す。「白黒はっきりつけられるのは、保険契約に『これはパンデミックをカバーしている』と指摘できるような文言があるかどうかだ」。

世界中で何百件もの訴訟がいちどに進行しているため、パンデミックに伴う補償金額について小売業者が保険会社との話し合いに決着をつけられるのは数年先になりそうな気配だ。

そもそも事業中断保険とは何か

事業中断保険は、予見不可能な事象によって失われた収益、および必要となった追加費用を補償するタイプの保険だ。一般的にこの保険では、ハリケーンや竜巻、火事などの事象が補償対象となる。

ほとんどの事業中断保険は、補償対象を事業者の財産に物理的損害をもたらす事象のみに限定している。新型コロナウイルスによる収益損失を理由に、保険会社から支払いを受けるのに苦労している小売業者が多いのはそのためだ。しかも保険によっては、新型コロナウイルスの影響に伴う収益損失に対する保険金の支払いには一切応じない可能性もある。ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)の記事によると、ミシガン州のあるレストラン経営者が加入する事業中断保険では「いかなるウイルス、細菌、疾患を原因とする損失または損害も補償しない」ことが契約で定められているという。

一方で、保険によっては不可抗力条項が存在する可能性もあり、その場合は予見不可能な事象によって事業者が被った損失が補償されるが、このような条項の多くは、物理的な損害や損失を事業者にもたらす事象のみを補償対象としている。

小売業者にとっても保険会社にとっても、事業中断保険は大きな出費だ。センチュリー21は3億5000万ドル(約366億円)の事業中断保険に加入しており、うち1億7500万ドル(約183億円)の支払いを保険会社に求めている。しかし、米国損害保険協会が4月に発表したデータによると、政府命令による休業が従業員100人以下の事業者にもたらしている損失額は、月に2550億~4310億ドル(26兆7000億~45兆1100億円)に上り、保険会社の支払い能力を超えているという。

小売業者の法的立場は?

ウォールストリート・ジャーナル(Wall Street Journal:以下、WSJ)が報じたところでは、事業中断保険をめぐって現在1000件を超える訴訟が起こされている。保険の補償対象が物理的な損害をもたらす事象に限られていることから、判事の多くはこれまでのところ保険会社に有利な裁定を下している。

しかし8月には、ミズーリ州の連邦判事が、ヘアサロンとレストラン事業者のグループがシンシナティ・インシュアランス・カンパニー(Cincinnati Insurance Company)を相手取って起こしていた訴訟を進めることを認める判断を下している。原告らは、新型コロナウイルスのウイルス粒子は物理的な実体であり、それによって所有財産が使用不可能となったことなどを理由に、新型コロナウイルスが財産に損害を及ぼしたと主張していた。また、あるフロリダ州のカクテルミックス製造業者が提起した訴訟は、加入している事業中断保険が「行政機関の行為」を補償対象としていることを理由に、訴訟を進めることを認められた。

しかし小売業者の場合は、それほどうまくいっていない。センチュリー21はより迅速な裁定を得るため、自社の損害保険会社に対する訴訟を破産裁判所に持ち込もうとしているが、WSJが取材した弁護士たちは、破産裁判所がこの訴訟を受け入れる可能性は低いとの見解を示している。

なかには州議会が自分たちの言い分を取り上げてくれることを期待する事業者もいる。ニューヨーク州議会では、「新型コロナウイルス感染症に伴う特定の危険を事業中断保険で補償することを義務付ける」法案を一部議員が提出しているが、法案はまだ可決されていない。

しかし、裁判所がどのような裁定を下しても、またどのような法案が可決されても、小売業者と保険会社の双方ともが決定に不服を申し立てるだろう。「いまから3~5年後に、最高裁判所まで進む訴訟が出てきたとしても驚かない」と、マンダリーノ氏は述べている。

小売業者が保険契約に追加してほしい条件とは

一部の保険会社が多額の保険金を支払うことになったSARSの流行後、パンデミックによって失われた収益は補償しないとの条項を追加する動きが保険会社に広まった。ワシントン・ポスト(The Washington Post)によると、たとえばホテルチェーンのマンダリン・オリエンタル・インターナショナル(Mandarin Oriental International)はSARSのアウトブレイクに伴い保険会社から1600万ドル(2003年当時のレートで約18億4000万円)の保険金を受け取った。したがって、新型コロナウイルスのパンデミックが終了しても、保険会社がこの条項をすすんで撤廃するとは考えにくい。

マンダリーノ氏が聞くところによると、事業中断保険の契約でも、買収合併契約でも、行政機関から休業を命じられた場合の対応を定めた条項の追加を希望する事業者が増えているという。しかし、それを地方政府、州政府、連邦政府のいずれに適用するかで、どうしても決着のつかない部分は出てくるだろう。

「何をもって政府命令による休業とするかは、定義が曖昧になりうる」と、マンダリーノ氏は指摘した。

[原文:Explainer: Why Retailers are battling over business interruption insurance

Anna Hensel(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:長田真)