これまで、AmazonやeBay(イーベイ)、エッツィー(Etsy)は、あくまで自分たちはプラットフォーマーであり、プラットフォームを利用するセラーが欠陥品を販売することについて、責任は負わないとする立場をとってきた。しかし今後は条件付き、または無条件で責任を追求される可能性が出てきている。
Amazonは2021年から、取扱商品について重大な責任を負わされる可能性がある。
これまで、Amazonに代表されるプラットフォーマーたちが、サードパーティセラーが売買する欠陥品や偽造品について、責任を問われることはほとんどなかった。また、AmazonやeBay(イーベイ)、エッツィー(Etsy)は、あくまで自分たちはプラットフォーマーであり、セラーが欠陥品を販売することについて、責任は負わないとする立場をとってきた。しかし今後は条件付き、または無条件で責任を追求される可能性が出てきている。
米連邦裁判所は2020年9月、Amazonのプラットフォームを介してサードパーティが販売した欠陥品のノートパソコンのバッテリーについて、同社が責任を負うよう判断を下している。これは、Amazonが自社の倉庫を使い、自社のフルフィルメントネットワークを通じ、商品の梱包を行っていることによる部分が大きい。
Advertisement
また、10月にホワイトハウスはプラットフォーマーが扱う偽造品に対する取り締まりを強化する法律について言及。これを受け、法律の制定には至っていないものの、国を挙げて、或いは州レベルで取り締まりに向けた動きが加速する形となった。そして2021年も、この動きが活発化することが予想される。eコマースプラットフォーム勢のなかでも、圧倒的な優位を維持するAmazonを対象とした法案と、これに対する同社の対応を解説する。
新法案の中身
専門家のあいだではいま、主にふたつの法案が注目を集めており、いずれの法案もeコマースプラットフォームにおける、偽造品の取り締まりを目的としている。なお、これらの法案が実現すると、Amazonのようなプラットフォーマーたちが責任を回避するには、セラーに対し、より厳しい審査を行わなければならなくなる。ブランドの偽造品に関する訴訟を多数扱うサイドマン&バンクロフト(Sideman & Bancroft)の弁護士、アンジェラ・M・ヒー氏は、「いずれの法案も、政局が不安定な傾向にある現在の米国議会において、政党の壁を超えて支持を得ている」と語る。
その法案のひとつは、3月に米議会で提案されたショップ・セーフ(SHOP SAFE:購入安全法)。これは、AmazonやeBayに対し、より厳格な偽造防止対策を実施するよう求める法案だ。同法案は、プラットフォーマーが、今後も欠陥品について責任を負わない条件として、より積極的な防止策を取ることを求めている。同法案が施行されると、プラットフォーマーは全セラーの住所、氏名、連絡先、商品の出所を積極的に確認しなければならず、かつ欠陥が発覚した場合、司法当局の指導に従うことへの同意を求められる。さらに、偽造品を3回以上販売したセラーの永久追放、商品画像の正確性の証明など、さまざまな条件が盛り込まれている。
ふたつ目が、インフォーム・コンシューマー・アクト(INFORM Consumers Act:消費者通知法)だ。これは、ショップ・セーフの求める透明性をさらに突き詰めた、より具体性のある内容となっている。同法案の規制対象は、12カ月間以内に販売した製品が200品以上か、総売上が5000ドル(約52万円)を超えるセラーが対象となっており、これらのセラーは利用するeコマースプラットフォーマーに対し、自らの身元証明を求められる。Amazonの販売業者のうち、月間の売上が500ドル(約5万2000円)に満たない業者が15%に過ぎないことを考えれば、同法案が施行されれば、Amazonのほぼ全業者が対象となる。
また、このふたつ以外にも、特異かつ通過する可能性が高いのが、カリフォルニア州で提出された、AB 3263法案だ。これは、セラーが販売した不良品に対し、プラットフォーマーが責任を負うことを定めている。この法案が施行されれば、プラットフォーマーは小売実店舗と同様の責任が求められ、彼らが盾にしてきた「中立性」という主張は、もはや通用しなくなる。また、欠陥品が見つかった場合は、プラットフォーマーが訴訟を受ける可能性も生じることになる(同法案が定める適応対象は非常に広く、広告を販売するメディアすら範疇に含まれるという)。
Amazonの対応
Amazonは当初、同法案が「自分たちのみ」を施行対象としているのではないかという疑念から、AB 3263法案に激しく反対していた。しかし、施行対象はAmazonに限らないことが明確になり、Amazonは立場を変え、現在は同法案を支持する側に回っている。
これは同社が、セラーの販売する製品に対して責任を負うことを認めたと取って差支えない。米DIGIDAYの姉妹サイト、モダンリテールが以前報じたように、Amazonは広大なフルフィルメントネットワークを展開しているがゆえに、商品について販売業者として責任を問われやすい状態となっている。一部の議員からも、Amazonが商品の保管、出荷、包装を担当する場合は実際に販売業者と見なすべきという見解が出ている。
エッツィーもまた、法の介入によって競争力を失うことを危惧している。Amazonが法案の支持に回ったことを受けて、エッツィーのCEOのジョシュ・シルバーマン氏は、「複雑で遵守が難しい法律を自らだけが認めることで、Amazonは競合他社を一掃しようとしているのではないか」と述べている。Amazonは、製品の責任に関する訴訟や和解がしばしば発生したとしても、それらを対処できるだけの体力がある企業だ。しかしほかのプラットフォーマーは、相当な資金がない限り対処は難しい。
これらの法案が2021年に議会を通過する可能性
これまで紹介した3法案に関する審議は、現在行き詰まりを見せているが、2021年には再び動き出す可能性がある。サンタクララ大学の法律教授、エリック・ゴールドマン氏は「特に、カリフォルニア州の法案が通過すれば、法案を支持しているAmazonが全米でそれを遵守する可能性がある」と語る。
もちろん、実際に法案が通過するかどうかわからない。しかし、プラットフォーマー各社は、すでに変化に対応するための準備を進めている。厳しい法案から身を守れるよう、動きはじめているのだ。
インフォーム・コンシューマー・アクトへのAmazonの備えを紹介しよう。3月に提出された同法案は、Amazonに対し、セラーがどういった企業なのか、その透明性を現状より高めることを求めている。インフォーム・コンシューマー・アクトの策定に携わる、上院議員のディック・ダービン氏(民主党、イリノイ州選出)は、「消費者が、セラーに関する情報を手に入れられる仕組みを作るべきだ」と述べている。この発言の時点では、米国を含む世界中の地域において、Amazonセラーは、完全に匿名のままでも販売が可能だった。しかしAmazonは、9月上旬に新たな指針を導入。これにより米国内のセラーは現在、事業名と住所をAmazonのサイト上で公開することが求められるようになった。
Amazonが導入したこの指針は、ダービン氏が指摘するように、インフォーム・コンシューマー・アクトやショップ・セーフの求める基準には、まだ至っていない。たとえばAmazonは、正確な商品画像を求める規則や、3回以上偽造品を販売した業者を永久追放する規則には、対応していないのだ。
また、ヒー氏もモダンリテールに対し、「実際、不正な住所を使用しているセラーがいることはわかっている。しかし、Amazonが事前にそうした不正を確認しているかは、不明なままだ」と述べている。だからこそいま、米議会の2法案に象徴されるような、「法的な介入が必要なのだ」という。
先回りすることで競合よりも優位に
2020年Amazonは、規制当局から身を守るための方策として、多数の訴訟を起こした。11月には、TikTokの利用者2人とセラー11人を訴えている。また、イエティ(YETI)と協力し、イエティの偽造品を輸入している業者に対しても、訴訟を起こしているという。かつて、ビルケンシュトック(Birkenstock)やナイキ(Nike)といった大手ブランドがAmazonにおける偽造品の横行を受け、同社との提携を打ち切った際のAmazonの対応を考えれば、大きな方針転換だ。さらに、ショップ・セーフが提案されて間もない今年6月、Amazonは捜査官や元検事らで構成される「偽造犯罪対策チーム」の発足を発表した。同チームは、Amazonのサイト上で違法な偽造品を販売するセラーを排除することを目的としている。
同社のこうした動きは注目を集めているが、ヒー氏によると「Amazonにおける偽造品の流通に関して、いまのところ大きな変化は見られない」と指摘している。
またゴールドマン氏は、企業が法規制から身を守るために、自ら行動を起こすことは珍しくないと語る。「たとえ法案が成立しなくても、規制対象となる企業は、議員らの発言、一挙手一投足を常に監視している。法案に適応できるよう、先手を打って他社より優位に立とうとしているのだろう」と同氏は語る。
eBayも準備を進める
eコマース最大手のAmazon以外にも、同法案の影響を受ける企業は存在する。つまり、対策を進めている企業はAmazonだけではないことだ。たとえば10月にeBayは、同サイトで流通する靴の偽造品を排除するため、100ドル(約1万400円)以上で販売されている全スニーカーについて、本物かどうかの認証を行なうと発表。さらに、2000ドル(約20万8000円)以上で販売される腕時計についても、認証を行うとしている。
このように各社は、法の力に比べれば小さなものかもしれないが、防御策を講じている。こうした動きからは、仮に法案が施行されなくても責任を一切問われずには済まないだろうという、各社の意思が見て取れる。
[原文:Explainer The high-profile 2021 bills that may change Amazon’s business model]
MICHAEL WATERS(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)