サプライチェーンに深く入り込むコイオ(Koio)は、リジェネラティブ農業(環境再生型農業)の領域へと参入することになった。現在は、ラグジュアリーなスニーカーブランドとして初となるリジェネラティブへの完全移行を、2025年までに達成しようと計画している。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
サプライチェーンに深く入り込むコイオ(Koio)は、リジェネラティブ農業(環境再生型農業)の領域へと参入することになった。現在は、ラグジュアリーなスニーカーブランドとして初となるリジェネラティブへの完全移行を、2025年までに達成しようと計画している。
高級スニーカーブランドのオペレーションに、リジェネラティブなシステムを後から組み込もうというアイデアは達成不可能に思えるかもしれないが、コイオはそれが可能であることを実証しようとしている。スニーカー業界は年間売上高が2025年までに950億ドルを超えると予測され、成長を遂げている。循環型ファッションやサステナビリティへの消費者の関心も高まっている。一般的にスニーカーは、カーボンフットプリント(商品のライフサイクル全体でのCO2排出量)が多い産業の一つだ。多段工程の生産システムや、プラスチック製のさまざまなパーツが原因となって、世界のCO2排出量の1.4%を占めるためだ。しかし、多くのスニーカーには革などの天然素材が、いまも用いられている。リジェネラティブ農業は化学合成肥料を使用せずに土壌の有機物を増やすため、リジェネラティブを促進する製品は実際に地球環境をより良く変えていく。
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リジェネラティブはサステナビリティに次ぐビッグウェイブ
しかし、コイオが示そうとしているのは、革やゴムなど従来からのスニーカーの素材であっても、正しい方法で使えば再生可能で生分解性を備えることができるということだ。1月20日にはスニーカー「カプリ(Capri)」のリジェネラティブモデルを先行発売した。「高級靴業界でこれをできたところは無い」とコイオの共同創設者であるヨハネス・クオット氏は語る。「サステナビリティの次のビッグウェーブとして、リジェネラティブは話題になっている。そしてLVMH、ケーリング(Kering)、ラルフ ローレン(Ralph Lauren)など多くのラグジュアリー企業がリジェネラティブ農業を検討しているが、どこも製品を市場に出すことはできなかった」。コイオは完全にリジェネラティブなコレクションを4月に発表を予定しており、価格は男性用と女性用のどちらも328ドル(約3万7千円)からでの提供となる。
コイオは2015年の創業以来、D2Cブランドのなかでも卓越したスニーカーを作るべく、品質や熟練した職人の技で凌駕することに集中してきた。すべての靴には、完成までに42名の職人が携わる。同ブランドは2019年に、ファウンダーズ・ファンド(Founders Fund)のシリーズAラウンドを900万ドル(約12億2456万円)でクローズした。ファウンダーズ・ファンドは以前、スペースX(SpaceX)、パランティア(Palantir)、エアビーアンドビー(Airbnb)、ストライプ(Stripe)、フェイスブックなどにも投資している。
最近では、アディダスやLVMHなどファッション企業の革のサプライチェーンがアマゾンの森林破壊に加担していると、草の根の環境保護団体「スタンド・アース(Stand.Earth)」のレポートは指摘していた。2011~2020年の間にブラジル・アマゾナス州の森林は約670万ヘクタールも失われている。また、牛の放牧によって破壊された森林は、世界の年間CO2排出量の約2%を占める。とくに環境に多大な負荷をかける皮革産業のような分野において、広く実践されているリジェネラティブ農業の基準を満たすようシステムを進歩させるには、サプライチェーンの各プロセスを理解し、追跡することが非常に重要になる。
ブランドたちはコイオの後に続くことができるか
リジェネラティブモデルのカプリの発売に伴い、コイオでは2025年までにすべての製品をリジェネラティブに切り替える計画を始動させている。オハイオ州立大学炭素管理・隔離研究センターのセンター長、ラタン・ラル博士が実施した調査によると、リジェネラティブ農業は温室効果ガスの年間排出量の10~15%を削減できる可能性がある。これは農工業全体のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量を実質的にゼロにすること)の達成に匹敵する。ただし、リジェネラティブ農業には、副産物の恩恵を受ける産業からの投資が必要だ。
スニーカー業界で用いられる動物の革の多くは、畜産農家から仕入れており、リジェネラティブ農業によって生物多様性や排出量削減が促進されれば、リジェネラティブな皮革製造の体制が構築される。皮革はいまでも、もっとも耐久性と適応性を備えた手の届く材料であり、石油由来の物質でコーティングを施さなければ完全に生分解される。コイオの靴はすべてイタリアで手作りされており、これがブランドの高品質さを維持している。新作のリジェネラティブな皮革は、スイスアルプスのスルセルヴァ地方にある農場で生産されている。植物タンニンで2色に鞣された革は、有機農業の認定機関「ビオスイス(Bio Suisse)」から認証されている。
このスニーカーの発売によって、ほかのブランドもこの分野へと参入し、リジェネラティブ農業に関する普遍的な認証が必要であることも浮き彫りになった。「リジェネラティブのトピックが大きな話題になるにつれ、グリーンウォッシュのリスクも高まる」とクオット氏。「規制がなければ、一部の企業はすぐに基準を曲解し、表現をグリーンウォッシュするだろう」。
[原文:Exclusive: Koio tackles regenerative agriculture with sneaker launch]
ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:田崎亮子/編集:山岸祐加子)