マクドナルドがシカゴにオープンしたの旗艦店は、遠くから見るとApple Storeと間違えてもおかしくない外観をしている。ガラス張りの箱のようなデザインと風通しのいいミニマルなルック&フィールが現代調のイスやテーブルと相まって、そのデザインのインスピレーションが何なのかを物語っている。
マクドナルドがシカゴにオープンした1万9000平方フィート(約1765平方メートル)の旗艦店は、遠くから見るとApple Storeと間違えてもおかしくない外観をしている。ガラス張りの箱のようなデザインと風通しのいいミニマルなルック&フィールが現代調のイスやテーブルと相まって、そのデザインのインスピレーションが何なのかを物語っている。マクドナルドが「未来を体験できる」店舗と呼ぶこの旗艦店は、昨年4500店舗を対象に行われたリノベーションにインスピレーションを与えたフォーマットであり、同社はそのコンセプトの拡大を計画している。
Appleのストアモデルからインスピレーションを引き出しつつあるのは、マクドナルドだけではない。Appleは他社も流用できる一種の「小売のテンプレート」を構築した。つまり、パーソナライズされたサービスや顧客体験を提供し、イベントやワークショップを開く、こざっぱりとしたミニマルな店舗だ。それはいまや、ストアデザイン大改造の「初期設定」となっている。テスラは2010年11月、かつてAppleで不動産担当バイスプレジデントを務め、前年にマイクロソフト(Microsoft)で働いていたジョージ・ブランケンシップ氏を自社に迎え入れた(2013年にテスラを退社)。
「テスラのショールーム1号店がオープンしたとき、同社小売部門の代表にインタビューした。Appleでも小売を担当していた人物だ」と語るのは、Appleの小売モデルを10年以上にわたって研究してきた著述家のカーマイン・ガロ氏だ。「『Apple Storeを思い出すよ』と私がいうと、彼は身を乗り出して、こう言ったんだ。『これはApple Storeなんだ。テスラが売るのは車だがね』と」。
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サムスンやウォルマートも
Appleのやり方をまねているのはシリコンバレーだけではない。Apple Storeの要素を取り入れる小売業者のリストは長くなっていく一方だ。いまやそこには、サムスンやAT&T、ベライゾンなどのブランドも名を連ねるようになっている。さらには、コールズ(Kohl’s)やウォルマート(Walmart)などの大規模小売店もそこに加わるようになっており、昨年のホリデーシーズンにAppleスタイルのセルフチェックアウトを各店舗で本格展開した。
ニューヨークとロサンゼルス、マイアミに店舗を構えるデジタルファーストの美容ブランド、グロッシアー(Glossier)は各店舗を体験型ショールームとしてモデリング。照明や展示にも十分な注意を払い、すっきりとしたオープンスペースに商品を並べて見やすくしている。
「グロッシアーのデザインや顧客体験を考えるときには、Appleを意識するようにしている」と、同社の創業者で最高経営責任者のエミリー・ワイス氏はニューヨーク・タイムズ紙のなかで語っている。
生活を豊かにする
世界に506店舗あるApple Storeは、小売のサクセスストーリーとして称えられてきた。商業用不動産調査会社のコスター(CoStar)が2017年に発表した調査によれば、Apple Storeの1平方フィート(約0.09平方メートル)当たりの売上は、5546ドル(約61万6000円)だという。Amazonや、オンラインコマースの成長、トラフィックの低下に直面する古い店舗などに圧迫されている小売業者にとって、Apple Storeの要素の流用は、実店舗を生き返らせるための手段のひとつだ。細心の注意を払ってきれいに並べられた商品群や、ホテルのコンシェルジュのようなヘルプセンター、イベントやワークショップのためのスペース、キャッシャーレスの精算システムなどは、小売業者がまねしようとしている要素の一部だ。その共通点は、各社とも、グリッチ(支障)のない簡単な顧客体験に基礎を置く、小売へのアプローチを成功させようと努力しているということだ。
「すべてが考え抜かれている」とガロ氏は語る。「人々の生活を豊かにするのは、どんなストアなのか? きれいで、整っていて、魅力的なストアだろう。なかに入るや、すぐに歓迎してくれるストアだろう」。
Appleの小売担当シニアバイスプレジデントだったアンジェラ・アーレンツ氏が今年2月に退職した。同氏の退職により、Apple Storeの勢いに陰りが見えてくるのではという懸念も一部から持ち上がったが、Appleと長年仕事してきたある消息筋によれば、むしろそれは、Apple Storeというテンプレートはしっかりした足場の上に成り立っており、ほかのコンテキストへも容易にエクスポートできる一種の公式であることを示すサインだという。
「すでにアーレンツ氏はフレームワークをほとんど築いていた」と、同消息筋は語る。「Apple Storeは売上を伸ばすモデルとしてデザインされたわけではない。そのような意味では、Appleに店舗など必要ない。そこに、はっきりと打ち出されているのは、教育的ミッションだ。Apple Storeは単にスマホの使い方や直し方を教えるための場所ではないのだ」。
Appleはすでに次の一手
ますます多くの小売業者がインスピレーションを得ようとApple Storeに目を向ける一方で、当のAppleはApple Storeをさらによくするための次の一手を考えはじめている。同社は2016年、初期の案を足場とする「次世代」のストアモデルをローンチし、現在は各店舗のアップデートを着々と進めている、刷新された店舗には、商品を紹介するためのインタラクティブウインドウや、木が立ち並ぶ広々としたGenius Bar(ジーニアスバー)改め「Genius Grove(ジーニアスグローブ)」、ビデオウォール隣のイベントスペース、フリーWiFi接続のパブリックスペース、トレーニングセッションのための会議室などが設置されている。
しかし、Apple Storeの要素を取り入れようとする動きは業界内にあるものの、従来型の小売業者はその美的要素を部分的に取り入れるだけにとどまっているのが現状であり、Apple Storeというモデルは必ずしもすべての大規模小売店に適用できるものではないと、一部の観測筋はいう。
「Apple Storeの成功はその見た目によるものだと思い込んでいる人が多い」と語るのは、ニューヨークに拠点を置くクリエイティブデザイン会社のオーナーで、リテールストアデザイナーのセルジオ・マンニーノ氏だ。「Apple Storeは。Appleだからこそ成功しているのであって、転換できるものではない。Apple StoreはAppleというブランドの理念を完璧なかたちで象徴する存在なのだ」。
顧客体験という無形要素
多くの小売業者が見落としているのは、その美学の背景にある顧客体験という無形要素だと、同氏は指摘する。オンラインファーストの小売業者の多くが今日実践していることと似て、Appleは商品を売らなくてもいいストアをつくった最初のブランドのひとつだった。
「皆がまねしないのはこれだ。いるとしても、このことを理解しているのはごく一部だ」とマンニーノ氏は語る。「今日のストアとは、ブランドを活性化し、ブランドの理念を示すための場なのだ」。
Suman Bhattacharyya (原文 / 訳:ガリレオ)