米国と中国のあいだでの貿易戦争が激化し、中国からの商品にかけられる関税が追加されるなかで、ベトナムやカンボジアといったほかの国々が、ブランドたちにとって魅力的な場所になりつつある。しかし、商品に付けられた「メイド・イン・チャイナ」はかつてネガティブな連想を生んだが、そういった時代はすでに終わった。
商品に付けられた「メイド・イン・チャイナ」はかつてネガティブな連想を生んだが、その時代は終わった。いま、ブランドたちが製造を中国の外に移転しようとしているのは、まったく別の理由だ。
現在では、多くのハイクオリティな商品が中国で製造されている。ファストファッションからハイラグジュアリーまで、ファッション分野でも製造における大きなハブとして機能しているのだ。しかし、米国と中国のあいだでの貿易戦争が激化し、中国からの商品にかけられる関税が追加されるなかで、ベトナムやカンボジアといったほかの国々が、ブランドたちにとって魅力的な場所になりつつある。移転には困難もあるものの、為す術もなく関税法にビジネスをコントロールされるよりはマシだと、製造拠点をこういった国々に移しているブランドたちが現れはじめた。
今年6月、トランプ大統領は中国からの商品に対する新しい関税を設けた。その動きと連動するように、バングラデッシュの海外への商品売上額は今年、400億ドル(約44億円)にまで増えた。これは、2017年の同数値、290億ドル(約32億円)と比較すると、大幅な増額といえるだろう。マレーシアとベトナムも同様の増加を見せている。
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「関税は、靴に影響を与えている。カテゴリー全体に影響を与えることになるだろう」と、チャンピオン(Champion)のグローバル・クリエイティブディレクターであるトム・ベイカー氏は言う。「多くの会社が財務報告を出すなかで、関税によるマージン損失が大きな話題となるはずだ。長いあいだ、人々は中国の外へと移転をしてきた。台湾やベトナムが移転先だ。コストが比較的低いソースを探している」。
関税を避けるための手法
これらの国で製造をすることは関税を避けるための手法として、アメリカのブランドは捉えている。チャンピオンが靴製造をライセンス契約しているBBCインターナショナル(BBC International)は、これまで中国での製造を行ってきたが、最近では他国でのパートナーを探している。
「BBCはまだ、中国での製造を続けているが、移転をしつつある」と、チャンピオンのアクティブウェア部門シニア・ライセンシング・マネージャーであるクラーディ・パラシオス氏は言う。「中国では全員が中国の外へ移転する方法を決めつつある。中国とほかの場所を比べたときに、靴はプロダクト製造のクオリティが異なってしまうため、靴分野では少しハードルが高いかもしれない。しかし、靴に限られた話ではない。我々のカバン分野のパートナーは、カンボジアに移転せざるを得なかった。カンボジアは多くの製造の移転先となっている」。
ベトナムの製造業者にとって、アメリカは最大の衣服マーケットとなっている。アメリカの次は、EUだ。今年前半、ベトナムはEUとEUーベトナム自由貿易協定(EU-Vietnam Free Trade Agreement)を結んだ。これは両地域間の衣服輸出における関税を削減する、ベトナムにとって非常にビジネスに有効な貿易取引となっている。中国とアメリカのあいだでの貿易戦争は、アメリカのパートナーとの取引を増やしたいと考えているベトナムのビジネスオーナーたちにとっては、有り難いチャンスとなっている。アメリカのブランドたちにとって、ベトナム輸出品に対する比較的低い関税は魅力的だ。
「数多くのブランドを販売するラグジュアリー・リテーラーたちは、関税のかからない国で製造しているブランドを含むことで、値段の調整をし、提供ブランドを拡大することができる」と、リテール・ソフトウェア企業エンヴィスタ(enVista)のリテール・マーケティング部門バイスプレジデントのデーヴィッド・ノーマン氏は言う。
移転のネガティブポイント
しかし、中国から生産を移すことには、欠点がないわけではない。まず、中国には信じられないほど強固な製造インフラがある。つまり、中国で製造される商品の品質だけでなく、地域の製造業者が擁する専門知識のレベルは、どちらも高いのだ。関税とは独立して、仕事のクオリティが高まることでコストはすでに上がりつつある。2019年における中国の時間ごとの労働力コストは平均で5.78ドル、ベトナムではたったの2.91ドルだ。ほかの国は、中国が抱えているレベルの製造クオリティを持っていない。
「ビジネスモデル、パートナーの工場、国の経済状況やその他の要素によって変わってくるが、一般的に言って、中国の外に移転すれば関税や輸出入のコストは下がる可能性が高い」と、中国とフィリピンでの製造を行うハンドバッグ・ブランドであるダグネドーバー(Dagne Dover)のファウンダー、ジェシー・ドーバー氏は言う。「製造インフラストラクチャーは、比較的開発が進んでいない。全体的な効率やプロダクトのクオリティはまだ中国に追いついていない」。
また、製造インフラが整備されていない国では、労働環境に対する倫理基準が低くなるという問題もある。これが2015年に設立されたレース・トゥー・ザ・トップ(Race To The Top)のような団体の設立につながった。このグループは、ベトナムに倫理的な製造プロセスを根付かせることに専念するステークホルダーで構成されている。特に、多くのファッションブランドや小売業者が、ベトナムに生産のために集まってきているからである。
留まる判断をしたブランドも
しかし、コストが上がっても、中国の製造パートナーとの契約を継続することに意義を見出すブランドもある。
「関税が理由でより高額になった輸入コストを相殺するために、製造の一部を東南アジア諸国に移転させたが、プロダクトの品質が一番の優先事項だ」と、ドーバー氏は言う。「ビジネスオーナーとして直面する経済的な変化を通じてともに成長し、適応する形でパートナーをサポートすることが重要だと、我々は信じている。プロダクトの種類によって、異なる種類の専門家や職人が必要になる。そういった要素がロケーションの決定要因となるケースがある」。
製造をするために新しい国に参入するには、高額のコストがかかることがもうひとつの問題だ。小規模なサステイナブル・ファッションブランドであるアウターノウン(Outerknown)は、中国、タイ、ベトナムを含む6つの国で製造を行っている。ソーシングとサステナビリティ部門ディレクターであるメグ・ストーンバーナー氏は製造ラインに新しい地域を加えることで、非常に巨額のリソースが必要となると語った。
「極めてリソース集約的だ。私たちのケースは特にそうだ。我々はサステナビリティにフォーカスしているため、すべての施設を訪問し、素材をチェックし、それらがどこから来ているかをチェックする。大きなブランドにとっても大変だ。彼らの場合は巨大なボリュームのプロダクトを移動させないといけないからだ。資本だけの問題ではない。人的リソースも必要だ。スタッフを世界中に送り、プロダクトのサンプルをチェックしてブランドの水準を満たしているか、チェックするわけだ。これらすべてをやりくりするのは非常に難しい」と、彼女は言う。
予測不可能な関税の動き
少なくともここ数年のあいだ、関税は非常に予測不可能な動きを見せている。そのため関税を避けるためにサプライチェーンを完全に再調整した結果、数カ月後にまた状況が根本的に変わってしまう、ということもあり得る。ほかの地域には、いまの時点で魅力的な点が存在していても、それぞれまた、短所や困難を抱えている。製造、関税、国際貿易の世界を切り抜けることは、ファッションブランドたちにとって苦しい体験となっている。
Danny Parisi(原文 / 訳:塚本 紺)
Photo by Shutterstock