2021年5月20日、マック(MAC)はエスティーローダー(EstéeLauder Companies)傘下のブランドとしてはじめて、スナップチャット(Snapchat)のARショッパブルレンズの利用を開始した。
エスティーローダー(EstéeLauder Companies、以下ELC)が、Snapchatの新機能である、ARショッパブルレンズに期待を寄せている。
2021年5月20日、マック(MAC)はELCが抱えるブランドとしてはじめて、SnapchatのARショッパブルレンズの利用を開始した。Snapchatがパーフェクト(Perfect Corp.)との提携で開発したこのテクノロジーを活かし、マックは合計20種類の口元、および目元用のコスメ製品を紹介している。これにより、ユーザーは各製品のさまざまな色合いをテストできるほか、マックのD2Cサイトで製品を購入することができる。また、同じくELCが抱えるトゥーフェイスド(Too Faced)やボビーブラウン(Bobbi Brown)、スマッシュボックス(Smashbox)といったブランドも、今後数カ月のうちに独自のショッピング技術をひっさげて、Snapchatでデビューする予定だ。
「新型コロナウイルスで我々が目にした現象のひとつは、消費者が時間を費やす場所が大きく変化したことだ。人々は以前より、ソーシャルメディアに時間を費やすようになっている。我々ブランドも、そこ(オーディエンスが時間を費やす場所・プラットフォームに)に赴く必要がある」。ELCのオンライン部門、グローバル消費者獲得・維持部門のシニア・バイスプレジデントであるサリーマ・ポパティア氏はこう語る。
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魅力的な購買体験を実現
ELCがSnapchatのショッパブルレンズを採用するのは、マックの導入事例がはじめてだ。他社では2020年12月、ロレアル(L’Oréal)傘下のNYXコスメティックス(NYX Cosmetics)が、SnapchatでARトライアルとバーチャルショッピング機能の活用をスタートしている。
なお、Snapchatがパーフェクトと提携した目的は、パーフェクトが提携している「数百のブランド」にリーチし、「ARを介した購買という昨今のトレンドをリードする」ことにあると、SnapchatのAR部門 グローバル・プロダクト主任であるキャロライナ・アルゲレス氏は述べる。「我々はSnapchatでの体験を、リアルでの購買と同じように、ただボタンを押すだけで行えるような簡単なものにしたい」。なお同氏は、昨今のパンデミックが、ビューティブランドによるこうしたテクノロジーの導入を「加速させている」と付け加えた。
パーフェクトの最高経営責任者、アリス・チャン氏は電子メールで、「ブランドたちは、ソーシャルプラットフォームを通じて我々のテクノロジーを導入していただくことで、ユーザーが時間を費やすところにリーチし、かつ楽しく魅力的な購買体験を提供することができる」と述べた。「また、Snapchatとのパートナーシップを通じて、ブランドたちはリソースを追加投資することなく、シームレスにSnapchatのコミュニティに、ブランド体験を届けられる。そして、もっとも価値のある消費者グループのひとつである、Z世代にリーチすることも可能だ」。
AR技術の成長ぶり
現在マック・コスメティックス(MAC Cosmetics)は、Snapchatの機能以外にも、D2Cサイト、および実店舗でAR技術をテストしている。ELC全体では昨年度、同社D2CサイトにおけるARトライアル機能は620万回使用され、1億5000万件のエンゲージメントがあったという。ポパティア氏によると、北米ではARを利用したユーザーがサイト上で過ごす時間は平均13分で、これは平均的なユーザーの3.5倍だという。なおこれらのユーザーのうち、80%がモバイルでこのツールにアクセスしている。
AR技術は、過去4年間で「大幅に改善された」とポパティア氏は述べる。現在ELCの担当部門は、実際の製品を装着した写真とARでの画像を比較するテストを実施しているが、同氏は「今、(ARで)試着してみると、かなり進歩している。本当にすごい。(ARかどうかの)違いさえ分からない」と、その改善ぶりを強調する。
SnapchatのAR機能を活用する利点は、「製品のトライアルと購買時にユーザーが得られる満足度を組み合わせ、相乗効果を生み出せる点にある」とポパティア氏はいう。
コンバージョン率は1.5倍
また、ARトライアル機能は、オンライン販売の増加にもつながっている。ELC傘下のブランドサイトで、ARトライアル機能を利用したユーザーは、ほかのサイト訪問者の1.5倍のコンバージョン率を誇っている。なかでも、特に注目すべき製品はリップスティックだ。実際、ブランドサイトのリップセクションをクリックした訪問者の10%以上が、サイト上でAR機能を利用しているという。
Snapchatによると、ソーシャルメディアにおけるAR活用の成否は、ショッピング機能を兼ね備えているかどうかがポイントだという。
「Z世代(ミレニアル世代の若年層)は、デジタルがすでに身近な存在になった時代に育った。デジタルで何かを見つけて、クリックする、ということを行って育ってきたのだ。彼らは、(見つけたものに対して)すぐにアクションを起こせる状態を好む」とアルゲレス氏は述べる。
ブランドたちの期待
新型コロナウイルスのパンデミックが続くなか、店舗に足を踏み入れること、製品をテストすることが難しくなったため、バーチャルテクノロジーに頼るブランドが増えている。
「パンデミックが、ブランドたちの戦略をデジタルファーストな方向に推し進めていることは確かだ。そのことで、eコマースの重要性はさらに高まっている」とチャン氏はいう。
米国のCOVID-19の感染者数が減少し、買い物客が実店舗に戻ってきているにもかかわらず、プラットフォーム企業もビューティ企業も、長期的な戦略として、ショッパブルARの力に賭けている。Snapchatがデロイト(Deloitte)に委託して実施した調査によると、2021年と比較して、2022年には94%の人が買い物の際にARを同じ程度、もしくはそれ以上利用することが予想されるという。
「今後パンデミックが収束したあとも、AR活用がなくなるとは思わない」とポパティア氏は語る。同氏によると、マックはパンデミックが発生する前から、顧客に何十色もの口紅の色を一度に試してもらう、という課題を解消するために、AR技術の開発を進めていたという。「Snapchatなどのソーシャルメディアの活用は、技術に付加価値を与えることができる。それは『驚きと喜び』だ」。
[原文:Estée Lauder Companies bets on Snapchat AR commerce]
LIZ FLORA(翻訳:塚本 紺、編集:村上莞)