昨今、インフルエンサーマーケティングがさまざまなシーンで注目されている。だが、残念ながら、マーケターのあいだで本質的な理解が浸透しておらず、そのメリットを活かしきれていない事例も多い。ーーUUUM株式会社 執行役員 石橋 尚也氏による寄稿。
本記事は、インスタグラム(Instagram)に特化したインフルエンサーマーケティングプラットフォーム「LMND(以下、レモネード)」を提供するUUUM株式会社 執行役員 石橋 尚也氏による寄稿となります。
昨今、インフルエンサーマーケティングがさまざまなシーンで注目されている。だが、残念ながら、マーケターのあいだで本質的な理解が浸透しておらず、そのメリットを活かしきれていない事例も多い。
Advertisement
インフルエンサーマーケティングは宣伝活動の中でも、広告ではなく、パブリックリレーションズ(PR)の領域といえる。インフルエンサーという存在は、情報媒介としてはメディアの役割を果たすかもしれないが、それ以上にひとりの顧客であり、オピニオン形成者でもあり、つまり社会の一部となる。つまりインフルエンサーの活用は社会とブランドとの関係づくりという事になる。
よくあるマーケターの勘違い
それにも関わらずインフルエンサーを広告と捉え、その投稿を「広告枠」と見なすマーケターは、後を絶たない。たとえば、次のような悪手は散見される事例だ。
1.拡散を目的とする
たとえば、話題化や拡散が難しい、単純なプレゼントキャンペーンなどの情報を、ただ投稿させるだけのインフルエンサーマーケティング事例はいまだに多い。既視感のある単純なキャンペーン情報で拡散を実現させたいという与件が多い。戦略PRのような話題性のある企画なら成功するかもしれないが、単純なキャンペーン情報だと再現性が低く、成功させる難易度が高い。
2.コンテンツを操作する
まるで純広の出稿のように、ブランドが用意した宣伝素材をそのままインフルエンサーのアカウントで掲載させるという、コンテンツが操作されている案件もある。クリエイティブの縛りがあり、全インフルエンサーが同じ構図と文言で投稿する案件もある。インフルエンサーが自ら共感を示す形で投稿をしなければ、コラボレーションする意味がない。
3.コンバージョンを指標にする
インフルエンサーマーケティングとアフィリエイトは相性が悪い。成果報酬は、売れれば売れる程に収益を得られることから、お金を得るためにコンテンツに嘘や誇張が含まれやすくなるからだ。いわゆるステルスマーケティングを誘発しやすくなる。その先にあるのは、ブランドイメージの失墜だ。
成功に導くティップス
そもそもソーシャルメディアにおけるユーザーの投稿は、アドサーバーから配信されるものではない。あくまでもUGC(ユーザー生成コンテンツ)だ。CPM観点で見たら、アドサーバーから配信される広告の方が単価は安いことの方が多いだろう。しかし、それ以上のメリットがインフルエンサーマーケティングには存在する。だからこそ、いま注目されているのである。
インフルエンサーマーケティングを成功させる上で最も重要なティップスは、インフルエンサーとブランドとの良好な関係性を構築することにある。マーケターは、この点を理解しておかないと、上記のような間違いを犯す。
長く宣伝活動に従事してきた方であれば、インフルエンサーマーケティングは記者に向き合うPR活動と同じだと理解されるのではないだろうか。関係を築く対象が、記者からフォロワーの多い生活者に切り替わった施策だと。つまり、インフルエンサーマーケティングの成功ポイントとなるのは、やはり「影響力のある人に対して、いかにブランドを好きになってもらうか」ということになる。
欠くことのできない前提
すでにインフルエンサーが、ブランドの熱狂的な信者であればベストだ。しかし、まだブランドとの接点を持っていないインフルエンサーもいる。新商品の場合は、特にそうだろう。そんなときは、まずブランドを深く認識・理解してもらい、共感や好意を持ってもらえるように働きかけることからスタートしなければならない。それがファーストステップであり、インフルエンサーマーケティングの本質でもある。
生活者であり、将来の顧客でもあるインフルエンサーは、基本的に「まだ自社やブランドに対する共感を得ていない」。そういう前提に立つ必要があり、それなくして、オリエンテーションを強行すると、インフルエンサーのコンテンツには「やらされ」感が漂ってしまう。リアリティや共感性が生まれないのだ。特にデジタルネイティブ世代やソーシャルメディアとともに育ってきた世代は、さまざまなコンテンツに触れてきているため、無理強いをすぐに見抜いてしまう。
その一方で、インフルエンサーに「好きになってもらうように働きかけて」構築した関係は、一過性のものにはなりにくい。継続的かつ長期的に関係性を維持すれば、投資対効果も増えていくこれはインフルエンサー・リレーションシップ・マネジメント(Influencer Relationship Management:以下、IRM)といえるだろう。
IRMという新しい考え方
米国ではインフルエンサーとの関係性構築をCRMに見立てて、IRMと称してマーケターにソリューションを提供しているインフルエンサーマーケティングプラットフォーム事業者もいる。IRMでは関係性の深さを指標としている。弊社UUUMが提供しているLMND(レモネード)でも、同様の指標を測定している。
このIRMにおいて重要になるのは、データだ。データをもとにどのインフルエンサーがブランドにフィットしているか、関係性がどれくらい深まっているかを確認し、次回施策に結びつけられる。これによってブランドは、インフルエンサーとの関係性構築のPDCAを回すことができる。
また、IRMとともに重要なのは契約である。ワンショットの契約で関係性を深めるのは難しい。ブランドにフィットするインフルエンサーとは長期契約を結んだ方が、関係性構築に貢献するはずだ。ただし長期契約が全てというわけではない。ワンショットの契約の場合も前述の通りデータをもとに次回のアサインを検討し運用していく事ができるメリットもある。
原理原則は変わらない
ブランドを好きになってもらえさえすれば、良い関係性を構築できるだろう。メディアの多様化や、仕組みの複雑化が進んでも、こうした原理原則は変わらない。共感してもらえるようなコミュニケーションを大切にすることが、インフルエンサーマーケティングでも一番重要なのだ。
共感の創出は、昨今のSDGs・CSR・CSVやブランドパーパスなどの取り組みとも繋がってくる。その観点からいま、小回りの効くD2C企業が注目を浴びているのだろう。彼らはこの本質を捉え、多様化、複雑化したメディアをうまく活用しているのだ。
Written by 石橋 尚也
Photo by Shutterstock