2020年、eスポーツ業界が流行のピークを迎えたのは誰もが知っていることだ。しかし今、業界は市場の現実と向き合っており、eスポーツ企業の再編は不可避だろう。しかし、世界有数のeスポーツ企業、フェイズ・クランにその予定はない。同社は単なるゲーム関連企業ではなく、エンターテインメント企業になることを目指している。
2020年、eスポーツ業界がハイプ・サイクルの流行期を迎えたのは誰もが知っていることだ。しかし今、業界は市場の現実と向き合うべき時期に来ている。eスポーツ企業の再編は不可避だろう。世界有数のeスポーツ企業、フェイズ・クラン(Faze Clan)にその予定はない。
eスポーツチームを運営しているとはいえ、フェイズ・クランは自らをFCバルセロナのようなスポーツチームではなく、むしろデジタルメディアのViceのように位置付けており、その目指すところはあくまでエンターテインメント企業だ。同社にとってこれは新しい目標というわけではない。事実、同社は6年前からこの目標を掲げており、その達成に向けたプレッシャーが近年さらに強まったというだけの話らしい。
eスポーツ業界について、フェイズ・クランのリー・トリンクCEOは次のように語っている。「短期的に見ると、eスポーツは儲からない。長期的には変わるかもしれないが、今のところ難しい状況が続いている」。
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米DIGIDAYは今回、レコードレーベル元幹部という経歴を持つトリンク氏に、「eスポーツビジネスの先行きが不透明な理由」「フェイズ・クランはそうした不透明感にいかに対処してきたのか」「今後数年間の業界の発展をどう予測するか」を尋ねてみた。
以下、インタビューは読みやすさのために若干の編集を加えてある。
◆ ◆ ◆
−−コンテンツ企業としてのフェイズ・クランの目標は何に由来するのか?
もとをたどれば10年前の創業当時、創業メンバーやチームメンバーが自分たちを主役に、トリックショット(FPSなどのゲームで、通常では考えられないようなトリッキーなプレイをおこなうこと)などを撮影したのが始まりだ。以来、フェイズ・クランの強力なファンダムが生まれ、ゲーマーが必ずしもクールな存在ではなかった時代に、フェイズ・クランはクールだともてはやされるようになった。
私がエンターテインメント業界からこの会社に移ってきたのは6年前だが、すでに知名度を得た分野でビジネスを構築するのが理にかなっていると思えたし、TikTokの30秒動画からテレビで視聴される2時間の長編映画まで、あらゆる種類のコンテンツで成功を拡大させるべきだと考えた。オーディエンスに人気があるものには、当然ながら価値がある。コンテンツ事業にさらに注力する承認を、一企業としてファンからもらったようなものだった。
−−コンテンツ事業の拡大に対する圧力がそこまで高まった理由は?
ROIという観点から言うと、eスポーツビジネスはいま難しい状況にある。だからコンテンツ事業に注力せざるを得ない。映画やアメリカンフットボール、従来型TVなど、エンターテインメント業界全体でオーディエンス離れが起きていることを踏まえれば、昔ながらのメディア企業からシェアを奪い取れるだけの力がフェイズ・クランにはあると思う。
エンターテインメント企業が今の状況から抜け出すには、大規模な投資によって新たなコンセプトを打ち立てるしかない。しかも、そのコンセプトがウケるかどうかもわからない、ごく早い段階からだ。エンターテインメント企業が大きな目標を掲げ、その達成のために巨額の投資をし、大失敗に終わった例はごまんとある。そして失敗は、成功で埋め合わせなければならない。だが我々なら、金をかけずにコンテンツを制作し、大勢のオーディエンスが待つ市場にすぐさまローンチできる。
うまくいけば、そうしたクリエイティブコンセプトがファンにウケるかどうか、事前にテストすることも可能だ。大成功を収めたコンセプトがあれば、それをベースに長編シリーズを制作して売り出すこともできるだろう。フェイズ・クランは極端に大きな市場を持っているから、eスポーツとゲーミングの両方で競争優位性を発揮できるはずだ。
−−すでに自社制作のコンテンツを多数販売しているのか?
コンテンツ販売はおこなっているが、まだほんの小手調べといったところだ。2020年末にNFLのコンテンツ部門の幹部を引き抜いたので、まずはNFL関連のコンテンツ制作を加速させ、より多くの商品をローンチできるチームを編成したいと思っている。今後はポッドキャストや映画、短編・長編の動画、ドキュメンタリーも手掛けたい。フェイズ・クランのファンたちからも、こうした分野に打って出る承認を得られていると思う。
目標は知的財産を生み出し、独自のチャネルでオリジナルコンテンツを提供し続け、世界中で売上を現在の何倍にも拡大することだ。つまりこれは、エンターテインメントとしてのゲーミングビジネスであり、eスポーツビジネスもその一環として展開したいと考えている。ライブで楽しめる、プロフェッショナルかつコンペティティブなエンターテインメントだ。ゲーミングビジネスは、そこに投じる時間を考えれば規模は小さいが、重要な収益源になる。
−−ゲーミングコンテンツには、昔ながらのメディア企業も注目しているのか?
2020年はゲーミング人気のおかげで、我々のようなコンテンツ企業への関心も著しく高まった。だが個人的には、ゲーミング業界の変化にレガシーメディア企業が気づいているとは思えない。オーディエンスとの距離ができてしまうと、現状把握は難しくなるものだ。
問題があるとすれば、ゲーミングコンテンツの熱心なファンを含むあらゆる世代で常に行動や嗜好の変化が起きており、確実なことは何もないという点だ。今後数年間でこの業界の基盤が崩れてしまうかもしれない。だがこうした市場の変化は、我々にとってアドバンテージでもある。フェイズ・クランとそのコンテンツにより多くのオーディエンスが流れ込むからだ。
−−フェイズ・クランは最近、米大手芸能プロダクションのユナイテッド・タレント・エージェンシー(UTA)と提携した。この提携は目標を達成するうえでどんなメリットをもたらすか?
さまざまな意味で、より多くの取引を、よりスマートなアプローチで実行するのを可能にするための提携だ。主に3つの側面からメリットが得られると考えている。ひとつめは市場知識に関することで、わが社よりも取引量が多いUTAとの提携によって、さまざまな知見を得られると思う。ふたつめは、UTAに多くのパートナーがいることから、我々が話を持っていける相手も増えるということ。そして3つめは、たとえばフェイズ・クランが映画やシリーズものを制作した場合、UTAが伝統的なエージェンシーの役割を果たしてくれるということだ。
[原文:‘Esports isn’t lucrative in the near term’: FaZe Clan CEO’s endgame for gaming]
SEB JOSEPH(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)