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政治キャンペーンから教訓を得る、米マーケターたちの思惑 :「いまは感情が高ぶっている」

(誰にとってもそうだが)マーケターにとって2020年は、すでに信じられないほど混乱続きの1年だったが、米大統領選は思った通り、熱と光の両方をもたらした。

国は分断され、至るところに陰謀論者が登場し、政治スペクトラムの両端で感情が高まった。今はとてもじゃないが、新しいものを買うよう人々を説得し、よい結果を得られるような状況ではない。だが、騒々しさの真っ只中でも、毎日の仕事は続けなければならない。

マーケターはここでまた、今どう動くべきなのかという経営幹部からの質問に直面することになる。

まだ何も変わってはいない

調査会社ピボタルリサーチ(Pivotal Research)のアナリスト、マイケル・レバイン氏は先頃、クライアント向けのノートに、マーケターのなかには、大統領選に至るまで、まるで計画的アプローチのような「ディシジョンツリー」作成に着手する者がいたと書いた。今年6月の、黒人男性ジョージ・フロイド氏が白人警官に身柄を拘束され死亡するという出来事のあとのように、不意を突かれないようにすることがその目的だ。レイバン氏が10月に調査したマーケターの半数が、社会不安が再び増大する不測の事態に備えていた。これはつまり、広告クリエイティブを調整し、短期的支出を延期するという意味で、第4四半期の計画をすっかり取りやめると答えた者はほとんどいなかったという。

結局のところ、基本的なことはまだ何も変わってはいない。

広告業界団体である全米エージェンシー協会(4A’s)の最高経営責任者(CEO)、マーラ・カプロウィッツ氏はこう語る。「今回の大統領選は、政治への関心の高まりと意見の分極化を反映している。企業やブランドは、自分たちの目的や価値観にフォーカスを合わせ続けながらも、インクルーシブになっていく必要があるだろう」。

向こう数週間はおとなしく

だがこれは、今がブランドの価値観の旗を大きく振りかざす時だ、という意味ではない。11月第1週にギャップ(Gap Inc.)のマーケティングチームがTwitterで嘲笑を買った例を見ればわかる。すでに削除されたツイートは、半分が青く半分が赤いパーカーのジッパーが上げられる動画に「わかっていることはひとつ。我々は一緒に、前進できる」というメッセージがついていた。

声明のなかでギャップは、常に「個人、文化、世代のあいだのギャップを埋める」ブランドであり続けてきたことから、「結束」のイメージを描こうとしたが、今回はメッセージを出すのが「早すぎた」と、撤回の理由を述べている。

パタゴニア(Patagonia)やベン&ジェリー(Ben & Jerry)、マイピローズ(MyPillows)、ゴヤビーンズ(Goya Beans)など、一部の行動主義のブランドにとってはメガホンを取るのによい時期かもしれないが。そうでなければ、向こう数週間はおとなしくしていたほうがいいだろう。

ブランド技術ファーム、ユー&ミスター・ジョーンズ(You & Mr. Jones)のパートナー、エマ・クックソン氏は、世界がバイデン候補の勝利確定を待っていた期間、「熱気とストレスが激しくなると、人々はまともに考えることさえできなくなる」と、筆者に話した。「『我々は常に人々を結束させることを目指してきた』(が、この環境ではそれは適切でない)という論理的な立場に立つ人でさえも。感情が高ぶっている」。

良い行動を促す責任がある

マーケターは、消費者の反発だけではなく、従業員の反発を招くリスクも負ってはならない。クックソン氏によると、「かなり多くの大手企業」が、広告主として7月のFacebookボイコットに参加するかどうかを決定するうえで、従業員の圧力を考慮したという。

企業の上級幹部たちも最近は、大企業経営に携わる市民としての義務について公然と発言するようになった。「ほかのエスタブリッシュメント組織への信頼が低下しているとの認識」が、その理由の一部だとクックソン氏は話す。

特に過去2年間は、市民としての義務感がメディア購入にまでおよび、マーケターが広告予算の支出先となるプラットフォームやメディアに気を配るようになった様子を我々も見てきた。この数週間における、選挙報道とソーシャルメディア上の無数の偽投稿や危険な投稿を抑制することの迅速性――あるいは消極性――は、マーケターの将来のメディア計画に関する意思決定にも影響を及ぼすだろう。

グループエム(GroupM)のビジネスインテリジェンス担当グローバルプレジデント、ブライアン・ウィーザー氏は、「検閲はしないが、有害なアイデアも認めないという慎重なラインがある」と述べる。マーケティング予算の有無にかかわらず、すべてのマーケターには、プラットフォームやメディアに良い行動を促す責任があると、ウィーザー氏は付け加える。

政治キャンペーンから得られる教訓

二極化した環境、特に人口のかなりの割合が、「主流」メディアと考えられるものを避けようとしている状況では、メディアの状況は非常に細分化される。最高マーケティング責任者(CMO)がそれを鼻であしらうかどうかにかかわらず、陰謀論グループである「Qアノン」のフォロワーも顧客になる可能性がある。

カプロウィッツ氏によると、セグメンテーションとターゲティングの機能が鍵を握るという。そして、政治キャンペーンそのものに目を向けるのではなく、インスピレーションを求めたほうがいい。

コンサルタント会社メディアシェルパ(The Media Sherpa)の創設者であるナンシー・ヒル氏は、政治キャンペーンは「多くの場合、国内で起こっていることで我々マーケターが知らないことを教えてくれる。人々の心のなかにあるもの、彼らにとって重要なものについての詳細情報を、郵便番号レベルに至るまで細かく入手しているからだ」と述べた。

「政治キャンペーンは、マーケターとして我々が教訓を学べる何かを理解している」。

[原文:‘Emotions are so heightened’: Why the election fallout hammers home the need for marketers to act responsibly

LARA O’REILLY(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:長田真)