P&Gでは依然として、エージェンシーを自社のマーケターに置き換えることが優先事項となっているようだ。 直近(2019年)の数字によると、この巨大広告主は、30%ものマーケティングを内製化している。しかし、それで終 […]
P&Gでは依然として、エージェンシーを自社のマーケターに置き換えることが優先事項となっているようだ。
直近(2019年)の数字によると、この巨大広告主は、30%ものマーケティングを内製化している。しかし、それで終わりではなかった。マーケティングを厳密に管理したがる傾向があるのに加えて、パンデミックがそれに拍車をかけた。
しかし、P&Gが新たにみせている内製化の動きで興味深いのは、ごく最近の決定にも調整を加えているらしいところだ。
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P&Gは2019年に、北米でのメディア事業の大半を電通グループのカラ(Carat)に移した。しかし現在、同社のパーソナルヘルス、ベビーケア、ファブリックケアの各ブランドに関するメディアプランニング業務をカバーしていたこの事業のかなりの部分が、P&G社内で取り扱われていると、この計画に詳しい2人の人物が述べている。むろん100%内製化したわけではない。カラの幹部が認めたところによると、カラは引き続き、これらカテゴリーの一部ブランドに関する仕事を、以前より量は減ったものの担当しているという。
つまりP&Gは、一部のサービスをエージェンシーに依頼しつつ、それ以外の機能は自社で構築するというハイブリッドなアプローチをとっているわけだ。結局のところ、P&Gはメディア事業を電通に委託して以降、同社とずっとそのように仕事をしてきたのであり、最近の変更は、この姿勢をさらに強化するものだ。
P&Gは「常に見直しと変更を行っている」ため、原則としてこのような事柄についてコメントはしないと、広報担当者は述べている。
効率は効果を、効果は予算を生む
とはいえ、こうした動きをみせる根拠は明白だ。
企業がマーケティングの内製化を進める理由はふたつある。不透明な部分のあるオンラインマーケットプレイスでのメディアバイイングについてコントロールを強化したいか、あるいはエージェンシー関連のコストを削減したいか、そのどちらかだ。そして後者を実行したからといって、前者の効果が薄れるわけではない。むしろ、それらは互いに有益なことが多い。11月からP&Gの新CEOに就いたジョン・メラー氏も、10月の決算報告時に似たようなことを述べている。効果が最大限に出ていないマーケティングにかける費用を節約すれば、その分だけ効果の出ているマーケティングにかける費用を増やすことができると、同氏はアナリストたちに語った。
「奇妙な理屈に聞こえるかもしれないが、マーケティング予算をより効率的かつ効果的にすることができれば――そして(中略)今はそれをする機会が豊富にあるが――この分野への投資がいっそう魅力的になる。つまり、やり方は少々普通でないかもしれないが、効率は効果を生む。そして効果は予算を生み、そういったことが市場を動かしていく」とメラー氏は述べている。
こうした「フライホイール(弾み車)効果」によって弾みをつけることで、同社は不安定な経済状況のなかでも成長の余地を見出そうとしている。むろん、その内容は四半期ごとに異なるだろう。たとえば、利益率へのプレッシャーに対応するべく、より多くの支出を削って損益計算書に反映させる場合もあるかもしれない。しかし、そこでP&Gは広告費を減らすのではなく、増やそうとしている。
今のところ、計画はうまくいっている
今のところ、計画はうまくいっているようだ。P&Gは、第3四半期にマーケティング支出をさらに1億3000万ドル(約149億円)増やした。広告費がパンデミック前の水準に戻っても、支出を継続する予定だという。
P&Gの最高財務責任者(CFO)であるアンドレ・シュルテン氏は、前述の決算報告の会見でこの点を強調した。「高い投資利益率(ROI)を生み出すこと」ができる限り、広告への支出は続ける見通しだと、シュルテン氏は投資家たちに述べている。
事実なら、これはメラー氏の指揮下で、P&Gのマーケターたちがどのような仕事をすることになるのかを明確に示すサインだ。長く財務担当幹部を務めてきたメラー氏は、同社にとって数十年ぶりのマーケター出身ではないCEOとなる。しかしメラー氏はこれまでのところ、同社の成功におけるマーケティングの重要性を理解していると示すことに力を注いでいる。
「デジタルリーチを増やすことで、ターゲティングの精度も向上しつつある」とシュルテン氏は述べている。「我々は、リーチとリーチの質を同時に向上させることで、支出の増加を一部相殺することができる」。
大手広告主は以前から、そうした業務の内製化を進めるメリットを声高に語ってきた。しかしパンデミックの発生により、その問題点を突きつけられることになった(以下にごく手短に理由を説明しよう)。結果として、そうした計画の多くは凍結され、内製化のトレンドは、いくらかではあるが後退することになった。
課題の多くは人材に関するもの
PwC(PricewaterhouseCoopers)のプリンシパル、サムラット・シャルマ氏は、「一部のマーケティングサービスを内製化することは、効果や効率の向上をもたらす可能性がある一方、すべてのブランドに適したモデルではないというのが我々の考えだ」と話す。
主な課題は多くの場合、人材に関するものであり、「マーケティング業務に必要な専門人材を獲得する(そしてとりわけ維持する)こと」、さらには創造性を発揮する企業文化を育むことができるかが問われると、シャルマ氏は指摘する。社内に広告エージェンシーを持つアンハイザー・ブッシュ・インベブ(A-B InBev)のような企業は、2020年に内製化の計画を維持すると決めたあと、こうした問題に正面から取り組まねばならなかった。
シャルマ氏はこの点について、それでも「インソーシングによって、より迅速で統合された業務、データの管理強化、エージェンシーとの関係やパートナーシップの改善による効率向上など、達成したい成果を引き出せるブランドは多いだろう」と述べている。
[原文:‘Effectiveness breeds spending’: Procter & Gamble moves to take more marketing in-house]
SEB JOSEPH(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:長田真)