世界最大の菌糸体ファウンドリ(栽培工場)を保有する菌糸体レザー企業、エコヴァティブは、国際マルチブランドファッション企業のベストセラーとPVHコープと現在協働中。同社は2021年12月15日、ファッション・フォー・グッドと協力して、簡単に入手できる代替レザーをブランドに提供すると発表した。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
世界最大の菌糸体ファウンドリ(栽培工場)を保有する菌糸体レザー企業、エコヴァティブ(Ecovative)は、国際マルチブランドファッション企業のベストセラー(Bestseller)とPVHコープ(PVH Corp)と現在協働中である。エコヴァティブは、2021年12月15日、革新的なプラットフォームであるファッション・フォー・グッド(Fashion For Good)と協力して、簡単に入手できる代替レザーをブランドに提供すると発表した。
菌糸体レザーに関心を寄せるファッションブランド
菌糸体レザーは、PVHコープとベストセラーのアパレルセクターの異なる製品カテゴリーで使われる予定だ。対象ブランドには、PVHのトミー ヒルフィガー(Tommy Hilifiger)とカルバン・クライン(Calvin Klein)、そしてベストセラーのヴェロモーダ(VeroModa)などがある。もっとも重要なことは、この代替レザーのコストは本物の革のミッドレンジに相当し、現実性のある代替品であるという点だ。マイコワークス(MycoWorks)のように菌糸体を扱う他企業らは独自の繊細な菌糸体を開発してラグジュアリー市場を狙っている。ラグジュアリーレザー製品ブランドのエルメス(Hermès)は、2021年前半にこの代替レザーを使ったバッグをローンチしている。
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バイオ素材の開発とローンチの課題
ファッション市場向けのバイオ素材のローンチに関する最大の課題のひとつは、規模である。バイオ素材には、大規模生産や平均的な市場コストで生産することができないものが多い。2007年設立の菌糸体技術企業のエコヴァティブと、グローバルブランドのベストセラーとPVHコープとの間の国際的サステナブルファッション提携のローンチは、バイオ素材へのミッドレンジファッション市場への参入を示している。藻類などその他のバイオ素材はマスファッション市場向けの生産に関してはまだ遅れをとっている。
ファッション業界におけるビーガンレザー製品の大部分は、人工レザーまたはプラスチックレザー製だ。PU(ポリウレタン樹脂)レザーはビーガンシューズや家具に一般的に使われている熱可塑性ポリマーである。ほかのプラスチック製品と同様、マイクロプラスチック汚染は人工レザー製造の一大課題であり、ライフサイクルにもこの問題が存在する。プラスチックは時間の経過とともにもろくなるため、洗濯や着用の際、そして廃棄後にもマイクロプラスチックを放出する。PUレザーも天然レザーも石油化学製品でコーティングされているのでリサイクルができない。菌糸体100パーセントのバイオレザーは堆肥化が可能で、プラスチックを環境に放出しない代替品である。
エコヴァティブの焦点と菌糸体レザー
エコヴァティブの共同創業者、ギャヴィン・マッキンタイア氏は「我が社では、純粋な菌糸体組織を大規模に栽培する技法を開発した。それにより、さまざまな市場アプリケーションにおいて異なる種類の細胞組織の可能性を最大限に引き出すことができる」と述べている。同社は保護包装分野からスタートし、人の体重を支えられるほど強いキノコの固有種を利用している。
同社は、2021年3月に完了した資金調達ラウンドの6000万ドル(約68億円)で、現在、次世代の菌糸体ファウンドリの計画と、生産量を10倍に増やす計画がある。主なフォーカスは、製品が市場と環境の双方に有意義な影響を与えられるように拡張することだ。
植物が光と周囲環境に適応するのと同じように、菌類はモジュール型の生物として知られている。つまり、菌類は周囲の環境に反応し、それに基づいて新しい構造を作るということである。エコヴァティブは世界中のレザー製造工場と協力して、菌糸体がレザー加工プロセスにどのように反応するかについてフィードバックを得て、自社の菌株ファウンダリを通じて菌糸体を調整している。
「我が社は、レザー製造工場の過去数世紀におよぶ職人技と専門知識を活用することを目指している」とマッキンタイア氏。「我々は工場に新しい生地や皮を提供し、工場はその知識とインフラストラクチャを利用して仕上げと美観の点でクラス最高の製品を製造することができる」。
PVHとベストセラーとの提携は、このような素材をさまざまな製品ラインに統合し、パフォーマンスと経済性双方の観点から、次世代の菌糸体レザーが業界ニーズを確実に満たせることを目指している。「我々はテクノロジーの民主化に真剣に取り組んでおり、製品が経済的に実行可能で、皆に購入してもらえるようにしたいと思っている」とマッキンタイア氏は言う。「市場で広く認知されているブランドと提携しているのはそのためで、将来に向けてこの分野でもっと多くの関係を築き続けていくつもりだ」。
この提携を通じて、エコヴァティブに可能になるのは、ブランドらからフィードバックを受け取り、自社ラボ内でフィードバックを取り入れて、さらに規模を拡大する可能性を高めるということである。マッキンタイア氏いわく、「初期のブランドパートナーシップは市場参入の最良の機会を特定するという点で非常に役立った。また、メーカーがこの素材を使って素晴らしい製品を作る方法も浮き彫りにされた」。
菌糸体レザーはとても用途が広く、厚さや天然の質に関係なく、従来のレザーのほとんどに取って代わることができる。エコヴァティブの菌糸体ブランドはフォレジャー™ ハイド(Forager™ Hides)いう名で、2021年3月に初めてローンチした。これは、同社の菌糸体ファウンドリでの5年間の研究開発に基づいている。この素材は栽培期間9日、最大で長さ24メートル、幅1.8メートルのシートに成長し、様々な引張強度や密度、繊維配向を備えている。コーティングやPVCは不要だ。
[原文:Ecovative is making mycelium leather accessible for Calvin Klein, Tommy Hilfiger]
ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)