「実店舗から見れば EC は『売れない店』にすぎない」:日本のあるEC事業責任者の告白

オンラインとオフラインのマージは、水と油を混ぜようとするのに似ているのかもしれない。

リアルとデジタルをいかに組み合わせ、相乗効果をもたらすか。リテールにおいてもオンラインを主戦場としてきたAmazonやD2Cブランドたちがリアルリテールへの進出に意欲的に取り組んでいる。その一方、リアルリテール主導で成長してきた企業の場合、ときにECは一店舗と見なされその価値を認められないことがあると、アパレル小売のEC事業責任者を務める幹部は話す。

以下はその抜粋だ。読みやすさを考慮し、多少編集を加えてある。

ーーEC部門はどのような位置付けなのか。

本社は実店舗を主力とするアパレルリテーラーで、展開するカテゴリー内では上位クラスだ。大型店舗を展開する体力もあり、店舗の売上げが利益につながる典型的な「小売業」。プライベートブランドも保有するが、主力はあくまで仕入れ商品だ。

リアルが圧倒的な分、グループ全体の売上に占めるECの割合は高くはなく、8:2から9:1ほど。そのため、残念ながら経営へのインパクトという意味ではECは下位部門のような見方をされてる節はある。もちろん、自社ECだけでなく各ECモールやAmazonのようなプラットフォームサービスでのセールスもすべて我々EC事業部門が担当しているが、規模感のある実店舗群の前では、象と蟻ほどの差を感じる。

ーー下位というのは投資額的な意味なのか。あるいは、組織的に?

組織としてはリアルリテールとECは別会社だが、両者が対等なのではなく、店舗という大きなカテゴリーのなかにECも内包されているような状態をイメージしてもらえばいい。たとえば社内環境もリアルが基本で、交代で土日や祝日も出社する、各ECの責任者は「店舗責任者」、オペレーターなどは「販売員」と呼ばれる。EC部門の所属であっても実店舗で定期的に販売員として出社することもある。

EC部門内で責任的な立場になると店舗販売は免除されるが、私自身は異業種からの転職組で、ジョインしたばかりのころは店舗販売を指示され困惑した記憶がある。それまではその姿を想像したこともなかった顧客の姿を、実際に目にする意味はあるとは思うが、本来の業務にかける時間を取られてしまうことにもなる。さすがにコンスタントに店舗の販売員を兼任するというのは厳しい。

ーー担当した店舗でのあなたの販売員としての売上は?

自分が店舗マネージャーなら、自分を販売員としては採用しなかっただろう。

ーー聞く限り本社はオムニチャネル的な展開に興味がなさそうだが。

リアルリテールは堅調な状態だ。季節要因やトレンドによる多少の増減はあるが、幅広くさまざまなブランドを取り扱っている分、急激な落ち込みは生じない。結果として、特別ECを軽視しているわけではないが重視もしていない状況になっている。リテーラーとして最低限オンラインも押さえておく必要があるから、という認識に近く、前述したように店舗の一つとしてECがある。「オムニチャネル」という言葉は上層部からも頻繁に出てくるが、具体的にどうするのかといった意思はあまり感じられない。

そもそも実店舗からスタートし、それなりの時間とコストを使って拡張されてきたリテーラーであり、いまでも新規出店する程度の体力もある。そこで構築された品揃えや流通網を含めた利便性は一朝一夕では真似できないものだ。リテールが優先すべきは品揃えと利便性だが、現状の我々のECの規模感では、実店舗と同じレベルには到達しない。規模の論理の前には、小手先のアイデアやマーケティングは通用しないものだが、それが競合ではなく同じグループ内で生じている。

ーー他のECをリアルリテールの脅威とは感じない?

少なくとも現時点で、Amazonなどの出現で、実店舗が大幅減益といった状況にはなっていない。トレンドに対応した商品の拡充や、ブランドとの関係性のもとに店舗限定商品を用意するなど、アパレルならではのリアルテールの強みがある。ハイブランドに特化しているアパレルでも、より狭いカテゴリーを取り扱っているといった場合は、近年存在感を強めている専門性の高いECの圧力を感じていると思うが、我々はそうでないことも幸いしているかもしれない。

ーー実店舗とは異なるEC独自の展開などを志向できないのか。

ブランドの直営店などと異なり、独自色を出してブランドイメージや世界観を作り込むといった戦略は難しい。小規模なセレクトショップなどであれば確かに多少の個性がフックにはなるが、一定数の店舗を持っている場合はそうはいかない。実店舗と同じような商品がECでも存在しているという状況を作る必要があるし、ECとして掲げる看板は実店舗と同じ。同じ屋号なのに実店舗は庶民派、ECは高級ブティックとするようなちぐはぐなことはできない。

その結果、構造的にECとリアルの差が生まれづらく、相補的な関係というより競合店のような関係性になってしまっている課題がある。店舗のフルフィルメントセンター化も検討されたことはあるが、実店舗とECどちらへの投資から始めるべきか、どちらの投資額を高めるのか、といった点で対立が起きてしまい話が進展していない。まあ、カニバリゼーションが起きるほどのパワーをECは持ち合わせてないので、実店舗側からは店舗の在庫管理場所、調整弁のような見方をされている感はある。邪魔にならない程度にいていくれ、といったところだろう。

ーーそもそも顧客はECをあまり必要としていないのだろうか。

ECは必要不可欠だが、少なくともそれが我々のECである必要はない。自分が購入する立場になったとき、これだけオンラインでの選択肢が豊富ななかでどんな行動を取るか。たとえばあるブランドのスニーカーを購入しようとしたが、直営店は在庫切れ。なんとしても欲しいので、検索して在庫のありそうな大手ECモールやAmazonをチェックしていくーー。わざわざ固有の店舗名を入力するのはひと握りだし、そもそも我々の店舗名で検索する消費者は実店舗に行くだろう。

現場レベルでは危機感はあるし、単にECの売上を向上させるだけでなく、OMO的なアイデアなども練られているが、コストや予算も無視できない。できる範囲でできることをやるという方向になると、組織や既存の仕組みをディスラプトするようなことは結局できない。リソースの問題も無視できない。現時点でも自社ECやモールの運用はそれなりに手間も時間もかかる。

ーー自社ECを強化し、得られたデータを実店舗とも共有するといった方法はどうだろう。

自社ECを顧客とのコミュニケーションやデータを取得する場にするという考えはあるが、データがあるから売上は二の次でいいというロジックは通用しない。なによりEC単体では全体のマーケティングにインパクトを与えるほどのデータが取れる母数がない。実店舗でのデータ収集を強化した方が効果的だろう。それに、自社ECに注力することでモールやプラットフォームの運用がおろそかになると、Web上での存在感自体を失いかねない。自社ECだけでも機能するような消費者認知・理解を実現するには、ブランド並みのブランディングが必要になる。だがブランディングに取り組むのは、本社の仕事だ。

Written by 分島翔平