D2Cブランドは別として、小売業者や買い物客のeコマースへの適応は遅々として進まなかった。しかし、これはコロナ禍が起きるまでの話であり、米国では大多数の店舗が閉店/休店に追い込まれた現在、eコマースはリテール業界に残された数少ない選択肢となっている。
D2Cブランドは別として、小売業者や買い物客のeコマースへの適応は遅々として進まなかった。しかし、これはコロナ禍が起きるまでの話であり、米国では大多数の店舗が閉店/休店に追い込まれた現在、eコマースはリテール業界に残された数少ない選択肢となっている。
そのため、eコマースを長らく二の次としてきたリテーラー勢は大慌てで顧客を繋ぎとめる方法を模索している。その一方で、Shopify(ショピファイ)など、業界の大手プラットフォームは急成長。彼らはこの状況を、これまで提携についてほぼ考える必要のなかったリテーラーに対して自らを技術的パートナーとして売り込む好機と捉えている。
米DIGIDAYが毎週お届けしている番組「ザ・ニュー・ノーマル(The New Normal)」の最新エピソードでは、DIGIDAYの姉妹サイト、モダンリテール(Modern Retail)の編集長、ケイル・ワイスマンと、米DIGIDAYの編集長であるブライアン・モリッシーが対談。コロナ禍の結果として生じた、いまリテール業界をかき乱している劇的な変化と、この大変動における勝者と敗者について語った(対談の動画は、原文記事にて)。
Advertisement
「いまもっとも熱い企業はShopify」
Shopifyは、好調なD2Cおよびデジタルネイティブブランドの多くが利用するeコマースプラットフォームになっていると、ワイスマンは指摘する。これは、Shopifyが格安のターンキーソリューション(Turnkey Solution:導入後、直ちに稼働できる状態にある情報システム)として機能しているからだ。ブランドたちは、Shopifyの機能を自らにパーソナライズし、それを市場でシェアすることができる。そのため、オンライン販売に疎いマーケターにとっても、非常に有用なソリューションになっているという。
さらにワイスマンは、「3月に入る頃から、多くの企業は『自社のWebサイトにマーケットプレイスを持つ必要がある』と気づきはじめた」と述べる。Shopifyは、eコマース事業を持たない、あるいはeコマースを重視していなかったリテーラーも次々と取り込んでいるのだ。
そんなShopifyが打つべき次の一手は、同プラットフォームで数百万ドル(数億円)の売上を誇るまでに成長したブランドに対し、いかにより良いサービスを提供できるかだと、ワイスマンはいう。そうしたブランドはいまや、販売プロセスのコントロール力を増し、各取引におけるコストの削減につながる、ホワイトラベルソリューションを求めている。これに対応するべく、Shopifyは新プラットフォームShopify+を立ち上げたが、そちらはまだ発展途上だと、氏は指摘する。
オンラインマーケットシェアを巡る争い
対面型の店舗が閉鎖されるなか、当然オンラインショッピング界隈は盛況を呈している。なかでもAmazonとウォルマート(Walmart)は2大オンラインマーケットプレイスとして、その恩恵を大いに受けている。
ワイスマンによれば、Amazonは今年度初頭にサプライチェーン問題に悩まされたが、第2四半期は非常に好調で、売上高は前年比40%増を記録した。ただしその成功を見て、機を見るに敏な競合他社も現れている。その代表例が、ウォルマートだ。
ウォルマートがこの数年間、既存とは別のオンラインショッピングに対応するインフラストラクチャーの構築に多くの時間を費やし、「注文はネット、受け取りは店舗」という新たなモデル、BOPIS(ボピス:Buy Online Pick-up In Store)の先駆者となったのはよく知られている。だが、同社はこのコロナ禍の最中に、オンライングローサリーで大きく業績を伸ばした。
「そもそもeコマースは多くのコストがかかる。その企業の主力商品が低価格の場合はなおさらだ」と、ワイスマンは指摘。だからこそ、オンライングローサリー事業が利益を出すまでには、通常かなりの時間を要する。しかしウォルマートは、マージン率を引き上げるべく相当額の投資をしてきており、それが講じていまではほかの追随を許さない存在となっている。
D2Cはしばらくのあいだ上り調子
景気が低迷し広告主が支出を控えるなか、オンラインインベントリの価格は一気に下落した。その結果、新規のD2Cブランド勢が消費者の目に広く触れるための、手軽かつ安価な手段となった。しかし、D2C勢に思わぬ幸運をもたらしたこの状態も、必ずやどこかで収束する。そうなれば、彼らは間違いなくしっぺ返しを食うことになると、ワイスマンは述べる。
さらにワイズマンは、そもそもD2C企業は大手と比較すると広告投資のための資金的余裕がない点を指摘。「彼らは自社の収益性にしか目を向けていない、もし従来の広告主が市場に戻り、広告費が徐々に適正価格へと戻っていくと、D2C企業たちもいまの好調ぶりを維持できなくなるだろう」。
リテール界における、アイデンティティ・クライシス
さらにワイスマンは、今後実店舗は再び息を吹き返し、人々もそこで買物をするようになるだろうと述べる。しかし、「退屈な店舗体験」しか提供できない企業は、実店舗の再開を安易に決断しない方が良いと警鐘を鳴らす。
「健康と安全性への懸念が常態化した以上、ブランド力や独自性だけでは、もはや人々に店舗の扉をくぐらせることはできない。顧客は、そのブランドを以前と同じように見ることはないだろう」。
ただし実店舗を構えたD2Cブランドの場合、実店舗は往々にして、顧客とブランドが対面式で触れ合えるマーケティング活動の場のひとつとして機能している。そうした、棚に商品がずらりと山積みになっている状態ではなく、マーケティング活動の場という形こそが、リテール業界全体が目指すべき実店舗のあり方になるだろうと、ワイスマンは予測する。
「いま考えるべきは、実店舗を『単なる販売チャネル』と捉えて利益を上げることではなく、実店舗を自身のブランドをアピールする場にするための方策だ。このままでは数百、いや数千もの実店舗を持つ多くのブランドが縮小を余儀なくされるだろう」。
面白いのは目立たないテクノロジー
また、「ARやVRなど、今後大きな存在になると騒がれたテクノロジーはいくつかある」が、実際のところ「その陰で大いなる加速を見せている、目立たないテクノロジーが数多く存在する」と、ワイスマンはいう。
なかでも、受注や配送業務におけるロボット工学の活用はその最たる例であり、ロボット工学は実際、eコマースのマージンに多大な影響を及ぼしている。
ワイスマンによると、eコマースが多くのコストを必要とするのは、倉庫の維持運営費と人件費にあり、そこにはさまざまな非効性が存在するという。従って、これらのオートメーション化こそが、リテール業界のDXでは急務なのだという。
「面白いのは目立たないテクノロジーだ」と、ワイスマン氏は締めくくった。
[原文:‘E-commerce is expensive’ How invisible technology and infrastructure overhauls will save retail]
KAYLEIGH BARBER(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)