フォックスコンを創業したテリー・ゴウ(郭台銘)氏は年次株主総会で、シャープには「多くの技術」があるが、そうした技術をうまくマーケティングできていないことに言及。そこが新オーナーとして注力する部分だと述べた。
この課題を解決すべく、シャープ・エレクトロニクス・マーケティング・カンパニー・オブ・アメリカ(Sharp Electronics Marketing Company of America)で販売・マーケティング責任者のピーター・ウィードファルド氏は、同社の再起を願い、一連の社内改革を策定した。
シャープは沈滞ムードに包まれている。かつて日本を代表する電機メーカーだった同社は、この数年間苦しんできた。
市場評価額が18億ドル(約1900億円)のシャープは、売上低迷と、家電市場におけるサムスン(Samsung)との競争激化に直面。電子機器受託生産(EMS)を手がけるフォックスコン・テクノロジー・グループ(Foxconn Technology Group)の中核企業、鴻海精密工業(Hon Hai Precision Industry)は2016年6月、シャープ株の66%を35億ドル(約3700億円)で買収し、直後にシャープの「収益性が非効率な子会社」を閉鎖すると発表した。
フォックスコンを創業したテリー・ゴウ(郭台銘)氏は年次株主総会で、シャープには「多くの技術」があるが、そうした技術をうまくマーケティングできていないことに言及。そこが新オーナーとして注力する部分だと述べた。
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この課題を解決すべく、シャープ・エレクトロニクス・マーケティング・カンパニー・オブ・アメリカ(Sharp Electronics Marketing Company of America)で販売・マーケティング責任者のピーター・ウィードファルド氏は、同社の再起を願い、一連の社内改革を策定した。最初に手をつけたのは、自身の肩書きだ。ウィードファルド氏は現在、販売とマーケティングの両方を率いているが、この規模の企業で兼任は珍しい。同氏のもとでは、販売部門とマーケティング部門、これらの部内にあるソーシャル、CRM、Webサイトといったさまざまな部署が、一体となって活動している。
スタートアップのように
次の変更点は、シャープのブランドと自社製品を常に外へ露出させる、パブリッシャー的な思考だ。ウィードファルド氏は自らを「シャープ・エレクトロニクスのパブリッシャーだ」と語る。「私にとっては、すべてがコンテンツになる。当社の電子レンジもコンテンツだ」。
家電が「コンテンツ」としてふさわしいのかどうか、正確なところは不明だ。それでもウィードファルド氏は、「スタートアップのような」事業運営を望む大手ブランドの長いリストに、シャープも加わりたいと話す。
これはつまり、シャープがあたかも棚を置くスペースもない小さな会社で、投資家からもうるさく文句をいわれているような空気を共有するようなものだ。少なくとも社内ではそんな緊迫感が広がっている。
そのおかげで、ウィードファルド氏のチームは、自社ブランドの製品に対する認識を高めるようになった。実際、シャープが企業として抱える問題にもかかわらず、同社の製品は高品質だと考えられている。たとえば、eコマース分析企業のクラビス・インサイト(Clavis Insight)は最近のレポートで、シャープは電子レンジ部門で第1位のブランドだと評した。クイジナート(Cuisinart)、フリッジデール(Frigidaire)、パナソニックを含むライバルの家電メーカーを上回る評価だ。
徹底した情報共有
「スタートアップなら、一人ひとりに責任が伴う」と語るウィードファルド氏は、販売・マーケティング担当チーム内部における要件を策定した。営業担当者がそれぞれ販売とマーケティングの両方を担当するようにして、たとえばベスト・バイ(Best Buy)のような小売業者と会合をもつ場合は、店員から仕入れ担当、マーケター、サプライチェーン、広報まで、あらゆる関係者と会うよう求められている。「こうした関係者らは、水先案内人のような働きをしてくれる」とウィードファルド氏は話す。
シャープはまた、営業担当者が誰かとミーティングを終えたら、すぐにLinkedIn(リンクトイン)などを介して「つながり」を構築することを求めている(実際、ウィードファルド氏は米DIGIDAYのインタビュー前に、本稿の記者に対してLinkedInのリクエストを送信してきた)。同氏は、「社会的なつながりという恩恵を迅速に活用する」という熱意が、真の人間関係を構築するうえで、いかに大切かを説く。
同社はまた、「シャープの攻撃」を遂行中だ。社員なら誰であれ、ウィードファルド氏が表現するところの「外の世界」で会合をもったあとは、訪問報告書を6時間以内にチーム全員へ送信することが求められている。つまり、組織内の全員が、シャープについて誰が誰と話をしたかを把握し、対外的にブランドを構築するため、次に何をなすべきかを認識しているのだ。
ブランディングが命
専門家らの疑念は、過去4年間で1兆円超の累積損失を計上したあとで、フォックスコンがシャープを立て直せるのかというものだ。しかし、フォックスコンにはインセンティブがある。ペンシルベニア大学ウォートンスクールの事例研究のなかで、マーシャル・メイヤーズ経営学名誉教授は、機器の製造業は利益が少なくなっているので、フォックスコンが成長するためにはシャープブランドの強化が絶対に不可欠だと指摘。「米国では、フォックスコンのことなど誰も知らない」とメイヤーズ教授は述べる。
そうした攻勢の一環として、シャープは7月、「動画シリーズ」を順次公開する予定だという。家電部門における同社製品の主導的地位を小売業者に認識してもらうためのものだ。同社はまた、トゥワイス・コム(Twice.com)やディーラースコープ・コム(DealerScope.com)といった、販売業者向けWebマガジンサイトの広告枠も購入。「我々の中核の資産をしっかり外に出していく。内なる力を解き放つために」とウィードファルド氏は語った。
Image from Martin Abegglen
Shareen Pathak(原文 / 訳:ガリレオ)