デジタルネイティブのスタートアップのあいだで他社を真似る行為が続いている。多くの小規模ブランドは、事業拡大して資金調達を増やすにつれて、他社のベストプラクティスに目を向けるようになる。しかし、D2C市場は規模が大きくない。そのため、いったんトレンドができると、あらゆる企業がこぞってその波に乗ろうとするのだ。
「模倣は最大の賛辞」という言葉がある。
D2C(direct to consumer:直販)の医療会社ロー(Ro)が9月にMedium(ミディアム)の投稿で主張したのが、まさにこのことだった。ローの共同創業者ザカリア・レイターノ氏は、ライバルのヒムズ(Hims)が新たにはじめた訪問診療サービスが、自社のサービスに驚くほど似ていることに気づいた。ポップアップの問診票を利用したユーザーフローはそっくりコピーされ、サンプルの写真まで同じだったのだ。
だがレイターノ氏は、ヒムズを声高に非難するのではなく、真似されたことを賛辞と受け取っていると語った。「ローには、自分たちが世界中でもっとも患者中心の企業だという自負がある。ほかの人もそう思っているのなら、腹を立てる必要などあるだろうか」と、レイターノ氏は投稿で述べている。
Advertisement
実にひどい話だが、ローが巻き込まれたトラブルは、デジタルネイティブのスタートアップのあいだで他社を真似る行為が続いていることを示す格好の例だ。実際、こうした問題は増えており、企業や創業者は対応を迫られている。多くの小規模ブランドは、事業を拡大して資金調達を増やすにつれて、ほかの企業のベストプラクティスに目を向けるようになる。しかし、D2C市場は規模が大きくないため、いったんトレンドができると、あらゆる企業がこぞってその波に乗ろうとするのだ。
もうひとつの事例
最近起こったもうひとつの事例が、CBD(カンナビジオール)入りスパークリングウォーターを手がけるリセス(Recess)だ。同社は、カナダの飲料メーカーであるデイドリーム・ドリンクス(DaydreamDrinks)が、デザインコンセプトだけでなく、フレーバーまでコピーしていることに気づいた。リセスの創業者ベンジャミン・ウィッテ氏によれば、自社のブランディング要素を他社に真似されたケースは過去にもあったという。たとえば、グラデーションを基調とした、インスタ映えする缶のデザインがそうだ。だが、デイドリームによるコピーは「これまでにないレベル」だった。
「彼らは『ブラックベリーチャイ』のような珍しいフレーバーまで真似た」と、ウィッテ氏は指摘する。ただし、リセスの事例は、ローの場合とやや異なると同氏は考えている。あちらがコピーされたのはユーザーフローだが、「こちらはブランドなのだ」と、彼は語った。リセスは5月、デイドリームに対して製品の販売停止を求めたが、デイドリームのサイトはまだ稼働しており、そのデザインや売られている製品は、いまだにリセスとそっくりだ。
実際のところ、こうした問題は、ブランドを成長させる過程で創業者が受けるプレッシャーが増えている現状を反映したものといえる。製品をリリースするのは簡単だが、ブランドを成長させるのは難しい。成長著しいD2C業界では特にそうだ。
模倣が横行する原因
原因の1つはリソースにある。創業者の多くは、ブランドとマーケティングの構築をエージェンシーに頼っている。これまで、D2Cを得意とするエージェンシーとして名を馳せてきたのは、レッド・アントラー(RedAntler)、パートナーズ・アンド・スペード(Partners&Spade)、ジンレーン(GinLane)などごく少数の企業だ。彼らは、マットレス販売のキャスパー(Casper)、アパレルのエバーレーン(Everlane)、シューズメーカーのオールバーズ(Allbirds)といったブランドと提携してきた。だが、業界をリードするこれらブランドの多くが、独自のデジタルネイティブなブランディングを展開できたのは、おそらくエージェンシーとのきわめて強固なパートナーシップのおかげだ。そのことに、ほかのブランドは気づいている。
「起業家は、消費者向け製品をうまく設計してユニークなブランディングを展開すれば、それだけで大きなビジネスを実現できると誤解している」と、飲料メーカーのアイリス・ノバ(IrisNova)の創業者ザック・ノルマンディン氏は指摘する。また、ほかの企業の戦略を参考にしようする創業者が増える一方で、「デザイン会社とエージェンシーは寡占状態」にあった。「したがって、デザインが模倣されていることに驚きは感じない」と、同氏はいう。
複数のD2C企業と仕事をしている業界専門家(この人物は匿名を希望した)は、さらに次のように指摘する。「人は自分が払った分しか得ることはできない。こうした企業の多くは、フリーランサーや零細企業と契約してデザインシステムを構築しているのが現状だ」。そのため、成長を続ける彼らの多くが、サプライチェーン、製造、マーケティングといった業務の内製化を目指す一方で、ほかの業務のことをあまり考えなくなる。「顧客体験は、彼らが最優先に検討して投資する分野ではないのだ」と、この人物は語った。
インスタとスナチャ
別のベンチャーキャピタリストは、さらに率直にこう述べた。「ヒムズがローに対してあからさまに行ったことをあなたがすれば、あなたは模倣を行ったことになる。しかも、臆面もなくだ」。ブランドがほかのブランドをコピーする行為は以前からあり、その「成功体験がさらに模倣者を生み出す」ことにつながってきた。だが、今回の例は「新たなレベル」の模倣であり、「きわめて手抜きなやり方」だと、この人物は語っている。
さらにこのベンチャーキャピタリストは、めったにないとはいえ、成長著しいほかのテック企業も同じような戦略を採っていると付け加えた。インスタグラム(Instagram)がSnapchat(スナップチャット)の機能をあからさまに真似たとき、ほとんどの人は「まあ、こうなるのも時間の問題だった」と感じていた。多くのD2Cブランドが成長し、競争が激しくなっているいま、このような例はますます増えるだろう。
こうした状況が短期的にどのような影響をもたらすのかはわからない。どちらの人物もこの点については語ろうとしなかった。だが、新たな課題を突きつけていることは間違いない。先のベンチャーキャピタリストは、ローの対応を優れたマーケティングだと評した。他社の悪口をいうかわりに、ひねりの利いたコメントを返すという「対応の仕方は、素晴らしいものだった」という。
「いずれ失速するだろう」
一方、先の業界専門家は、このような状況が当面続く可能性を指摘した。多くのブランドが同じエージェンシーやツールを利用しているからだ。「そのことが、どこも似たりよったりに感じられる状況を作り出している」。とはいえ、変化がそこまで迫っている可能性もあるという。企業がより独創的な人材を採用し、外部の人間が作ったプログラムへの依存度を下げようとしているからだ。
「いずれ、いまのトレンドが勢いを失速するのを目にすることになると思う」と、この2人の人物は語った。
Cale Guthrie Weissman(原文 / 訳:ガリレオ)