サステナブルな素材による完全防水スニーカーで知られるヴェシー(Vessi)は、3カ月前からマーケティング費を削減し、8月末、ついに支出をゼロにした。その目的は生産能力の拡大と在庫補充への注力にある。生産能力を消費者需要に応えられるまでに増強することが先決であり、マーケティング活動の具体的な再開時期は未定だ。
8月の最終週、バンクーバーに拠点を置くD2Cスニーカーブランド、ヴェシー(Vessi)は、メディア支出を休止した。
サステナブルな素材による完全防水スニーカーで知られる同社は、3カ月前からマーケティング費を削減し、8月末、ついに支出をゼロにした。その目的は生産能力の拡大と在庫補充への注力にある。生産能力を消費者需要に応えられるまでに増強することが先決であり、マーケティング活動の具体的な再開時期は未定だ。
広告支出を「思いきってゼロにした」と、ヴェシーの共同創設者トニー・ユー氏は語る。「ある意味恐ろしいが、同時に、恐れることは何もない。いま現在、大変多くの方がウェイティングリストに名を連ねてくれているからだ。新規顧客を開拓する前に、まずは目の前の需要に[応えようと]努めている」。
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D2Cの一般的な課題
同社は半年分の在庫をわずか1カ月で出荷したことを受け、宣伝活動をいったん中止した。2018年1月の創業当初、1カ月の生産個数は5000足だった。同社は現在、それを1カ月50000足にする大幅な拡大に取り組んでいる。
生産能力拡大と広告支出の適正なバランスは、D2Cブランドが成長するなかで直面する一般的な課題のひとつだと、D2C投資家のニック・シャーマ氏は語る。彼らはインスタグラム(Instagram)やFacebook――新興D2Cブランドが一般に利用するチャンネル――を介した顧客獲得にフォーカスするが、その一方でマーケティング部門とオペレーション部門との意思疎通に欠けることが多々あり、それがこの問題を引き起こすと、氏は指摘する。
「多くのブランドは需要側にフォーカスし、供給側を疎かにしがちだ」と、シャーマ氏。「自身の会社と商品への需要が高く、供給が追いつかないという事実は、瞬間的にはうれしい悩みに思える。しかし、顧客はすぐに商品を手にできず、しかも長く待たされるわけであり、彼らがほかのブランドに流れて行ってしまうリスクは否めない」。
インスタ中心の広告戦略
ヴェシーは広告に6桁の額を費やし――具体的な数字は明かさなかった――その大半をインスタグラムに投じていた。割合は個々のクリエイティブのパフォーマンスや最良の結果が出る場所によって変わるが、予算のおよそ50%をインスタグラムに割いていたという。
「インスタグラムは我々の存在を世間に知ってもらうための主要チャンネルにほかならない」とユー氏。「弊社のスニーカーを履くとどんな経験が得られるのか。それを実感してもらうために、我々はビジュアルを大いに活用している。インスタグラムは間違いなく[そのための]最大のスポットだ」。
残る約50%の支出先は、FacebookやGoogleといったデジタルチャンネル、オフライン施策であるポップアップストア(予算の10%未満)、そしてSnapchat(スナップチャット)やピンタレスト(Pinterest)といった、同社にとっては新規となるプラットフォームだった。マーケティング再開後は、Snapchatとピンタレストへの支出を増やす計画だ。ヴェシーによると、両プラットフォームは各年齢層に向けてクリエイティブを――若年層はSnapchatで、中高年層はピンタレストで――積極的に発信するデモグラフィックターゲティングを可能にしてくれたという。
「若年層にエンゲージしてもらうには、彼らの好みに合う、ほかとは異なるクリエイティブ経験が欠かせない」と、ユー氏は語る。Snapchatは、効果の測定は難しいが、それを提供してくれると言い添えた。「Snapchatが今後成熟すれば、我々としては間違いなく支出を増やしていく」。
(生産と宣伝の)適正なバランスを見出し、マーケティング活動を再開したら、同社はポッドキャストとYouTubeの併用も考えているという。両者はFacebookやインスタグラムよりもストーリーテリング力に長けており、D2C企業のマーケティングが「バリュープロップ」かつ「トランザクショナル」になりうると、シャーマ氏は分析する。
投資家に対する姿勢
ヴェシーのようなD2Cブランドにとって、インスタグラムとFacebook以外でもマーケティングができると投資家に見せることは、場合によって重要になると、シャーマ氏は語る。「多くのブランドは投資家から、Facebookとインスタグラムに縛られないところを見せろというプレッシャーを受けている。また、投資先を分散できるのは社内的にも朗報だ」。
一方、ヴェシーは消費者にスタートアップで働く醍醐味を感じ、生産力拡大への取り組みを見てもらう試みを開始する。「透明性をさらに上げ、多くの方に社内を覗いてもらいたい」とユー氏。「まだ具体的には決まっていないが、おそらく工場かオフィスの見学ツアーになると思う。ヴェシーのスニーカーがどうやって作られているのかなど、人々の疑問にすべて答えていきたい」。
Kristina Monllos(原文 / 訳:SI Japan)