新興企業に流入する ベンチャーキャピタル 資金は、かつてないほど増えている。このバブル状態のベンチャーキャピタル市場において、今年、投資家からもっとも注目されるのはどのような企業なのか、筆者は何人かのベンチャー投資家に同じ質問を投げかけてみた。
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新興企業に流入するベンチャーキャピタル資金は、かつてないほど増えている。
1月18日に公表されたピッチブック(PitchBook)のレポートによれば、米国のベンチャーキャピタル資金は2021年に過去最高の3296億ドル(約37兆6000億円)に達し、これは前年の倍以上の金額だ。これほど多額の資金が流入していることから、設立から1年の新興企業がベンチャーキャピタルで数億ドルを獲得でき、独力で立ち上げられた新興企業が数年間も注目されずに過ごしたあとで巨額の評価を受けて脚光を浴びるといった状況が起きている。
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このバブル状態のベンチャーキャピタル市場において、どの新興企業や部門が今年急成長しそうかを見定めるのは、これまで以上に難しくなっている。そこで、今年、投資家からもっとも注目されるのはどのような企業なのか、筆者は何人かのベンチャー投資家に同じ質問を投げかけてみた。今年多くの資金を集めると考えるのはどの部門か? どの分野により多くのVC資金が流入してほしいと考えるか? 今年注目しているが、積極的な投資を行わない産業はどこか? という質問だ。
当然のことながら、今年多くの投資家の注目を浴びることが予測される分野の多くは、コロナウイルスのパンデミックのあいだに多く採用されたツールや商品に関係している。今年注目すべき分野について、以下で解説する。
SaaSが人気に
パンデミックにより、かつてなかったほど多くの人々がショッピングをオンラインで行うようになり、その結果として各ベンチャーキャピタルは、eコマースのブランドと協力するソフトウェア新興企業をさらに支援することに意欲的である。
オンラインショッピングの増加はeコマースの新興企業にとって喜ばしいことだったが、同時に新しい問題も発生した。
イマジナリーベンチャーズ(Imaginary Ventures)の会長を務めるローガン・ランドバーグ氏は次のように述べている。「小売業者はサプライチェーンの重大な問題に直面している。各ブランドは自分たちの在庫を確保できず、遅延のため収益の大きな落ち込みが発生し、CAC(Customer Acquisition Cost、顧客獲得コスト)が増大し、全般にサービスが低下する」。その結果として「これらの状況を改善できる物流とB2Bのソフトウェアが注目され、継続的な投資の対象となる」と同氏は述べている。イマジナリーベンチャーズは以前、ストライプ(Stripe)や、食料配送業者向けのeコマースプラットフォームであるペッパー(Pepper)を支援したことがある。
パンデミックの初期には低下したものの、現在はこれらの買い物客をターゲットにオンライン広告を出そうとする企業が増えたため、顧客獲得コストが増加したともいわれている。AppleのiOS14アップデートのような、いくつかの最大手テック企業が行った最近のプライバシー関連の変更も、顧客の獲得をより困難にした。多くのブランドはこれらの変更を利用し、顧客獲得に加え、ロイヤルティにもマーケティング活動の焦点を合わせようとしている。
VCファンドのレラー・ヒッパー(Lerer Hippeau)のパートナーであるケイトリン・ストランドバーグ氏によると、「消費者向け企業が今年構築するべき大きな空白地帯」は、企業がさまざまな顧客層のロイヤルティを管理・追跡するためのソフトウェア新興企業だという。
同様に、老舗のVCファンであるグレイロック(Greylock)のジェネラルパートナー、マイク・デュボエ氏は、「既存顧客からの紹介は常にもっとも質が高く、もっとも経済的な顧客獲得の方法だ」と述べている。その結果、「我々は各ブランドが、ある意味で成長のループを閉じ、既存顧客からの新規顧客の獲得、あるいは新しい創造的な方法による顧客獲得を推進できるような、多くの方法が出現すると考えている」という。
CPGは高いレベルが持続
セルバ・ベンチャーズ(Selva Ventures)の共同創設者であるキバ・ディキンソン氏は、新しいアルコール飲料ブランドは多くの投資家の興味を引き続けるだろうと予測している。同氏はアペリティフブランドのハウス(Haus)と、ノンアルコールワインのブランドのショアリー(Surely)への投資家だ。
ディキンソン氏は次のように述べている。「人々がアルコール飲料を購入する方法は、急速にオンラインへと移行しつつある。これにより、何を購入するかも変化していく。近くの店舗にたまたま置いてある商品に縛られる必要はなくなるからだ」。ただし同氏は、「従来のアルコール飲料に代わる、よりクリーンな商品への投資が増えることを期待している」と述べるとともに、セルツァーや調合済みカクテルが、投資家の興味を引き続けるだろうとも予測している。
これに対して、イマジナリーベンチャーズのランドバーグ氏は、同氏が過去数年間にわたって「eコマースビジネスにおいて、独自商品の販売に特化した革新は期待したほど多く見られなかった」と述べている。同氏は、これが「サプライチェーンの困難を示す証拠かもしれない」と述べ、同時に顧客獲得コストの増加から、ブランドの拡大はより困難になるとしている。このため、今年はCPG分野において、より多くの革新と投資家からの資金を期待すると、同氏は語っている。
レラー・ヒッパーのストランドバーグ氏は、「供給が不足している市場をターゲットにした企業がより多く設立され、出資を受けること」に期待していると語り、それを中心とするコミュニティの構築を目指している。同氏は、このような企業の例として、自分のポートフォリオ企業から、湿疹や乾癬などの症状を持つ人々向けのスキンケア商品を販売するトピカルズ(Topicals)と、「すべての人々向けのセクシャルウェルネスブランド」と自称するケーキ(Cake)の2つを挙げている。
暗号通貨に注目が集まる
筆者が話し合った投資家のほとんどは、2022年の大きな注目分野が暗号通貨とWeb3だということに同意した。しかし一部の投資家は、極端に高い評価額が正当なものか、そして平均的な消費者のどれだけがNFTなどの新しいテクノロジー導入に興味を抱くかを見極めるため、しばらく待つという態度を崩さなかった。
「我々はこの分野への投資をまだ行っていないが、常に注視している」とランドバーグ氏は述べている。
VCファンドのマベロン(Maveron)の上級参与であるベロニカ・リーブスパークス氏は数週間前に、「アーリーアダプターに報酬を与え、そのあとでアーティストと消費者が『これはどういう意味だろう?』を見つけ出せるような」ソーシャルトークンに特に興味を抱いていると語った。
「ブランドが、もっとも熱心なユーザーに合わせたロイヤルティプログラムやコミュニケーションに投資するのは目新しいことではないが、トークン化された所有権はそれを次のレベルに引き上げる手段だと思う」とデュボエ氏は話す。「これにより、より多くのブランドがNFTを発行を行い、見出しを飾るようになるだろう。ただし、それは表面的なものに過ぎない」。NTFメディアプラットフォームのピナタ(Pinata)は、グレイロックがこれまで暗号通貨分野で支援してきた企業のひとつだ。
同氏は次のように付け加えている。「よりスマートなブランドは、このような所有権の枠組みを使ってコミュニティを深める方法を考えるようになるだろう」。
[原文:DTC Briefing: Where investors predict money will flow in 2022]
Anna Hensel(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)