D2C業界における2021年4月最大のニュースは、派手な新製品やブランドの立ち上げではなく、iOS 14のアップデートだった。米DIGIDAYは同月第3週、ブランド企業を集め、iOS 14のアップデートおよびGoogleによるサードパーティCookie廃止に対する対策を考える、ワーキンググループを開催した。
D2C業界における2021年4月最大のニュースは、派手な新製品やブランドの立ち上げではなく、iOS 14のアップデートだった。
Appleは同年4月末、iOS 14.5の適用(これはiOS 14の最終アップデートとされている)を開始した。このアップデートに含まれている機能のひとつが、「App Tracking Transparency(以下、ATT)」だ。これによりiPhoneユーザーは、ダウンロードした全アプリから、行動トラッキングを行って良いかどうかの確認を求められるようになった。D2C界隈でも、多くのスタートアップが、自分たちのマーケティング計画に打撃を与えるのではないかと懸念している。
なかでも、Facebookなどのソーシャルメディア企業と、そこに多くの広告費を投下しているD2Cスタートアップは大きな影響を受けるだろう。
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そもそも、D2Cスタートアップの多くは、立ち上げ初期における顧客獲得の手段として、Facebookをよく活用する。これまで約2年にわたり、D2Cの調査レポートのなかで、数々のスタートアップ創業者たちの話を聞いてきた米DIGIDAY編集部によると、なかには顧客獲得のために、最大で8割の広告予算をFacebookに振り分けている企業すらあるという。しかし、今回のiOSアップデートで、ターゲットユーザーの半数以上が、Facebookにおけるトラッキングを許可しないことを選択する可能性がある。広告予算の大半をFacebookに費やしているD2Cブランドにとっては、由々しき事態であることは間違いない。
米DIGIDAYは2021年4月第3週、ブランド企業を集め、iOS 14のアップデートおよびGoogleによるサードパーティCookie廃止に対する対策を考える、ワーキンググループを開催した。当日、あるシューズブランドのeコマース責任者は、「我々は、新規開拓の大半をペイドソーシャルに頼っている。今回のiOSのアップデートが顧客獲得戦略にどう影響するか、好奇心もあるが恐怖心は拭えない」と明かしていた。こうした感覚を抱いているのは、この責任者に限らない。むしろ、業界一般的なものといえる。しかし、トラッキングを拒否するユーザーがどのくらいの割合になるか、それがデジタル広告戦略にどの程度影響するか、正確なところはまだわかっていない。
懸念はFacebook広告への影響
そんななか、もっとも直接的な対策として考えられているのが、メディアの多様化だ。パフォーマンスマーケティングエージェンシーのテイク・サム・リスク(Take Some Risk)の創設者で、戦略部門のトップを務めるデュアン・ブラウン氏は、「リングに上がる前に、作戦を考えるのは当然だ」と話す。「ゴングが鳴ったら、まったく予想と違う試合展開になる可能性もある。ただそうだとしても、試合前の対策作りは行って然るべきことだろう」。
ブラウン氏が所属するようなパフォーマンスマーケティングエージェンシーたちは、広告主に対しFacebook広告への影響度を見極めて対処するために、アップデートから数週間以内は、トラッキング調査を行うことを提案している。
実際ブラウン氏は、現在クライアントの広告費と収益を追跡し、実際にパフォーマンスが低下するかどうかをウォッチしているという。iOSのアップデート後、「Facebookのアドマネージャーが特定のデータを、どれくらい効果的かつ迅速にトラッキングできるか」という点は、多くの広告主が不安を抱いているポイントのひとつだ。具体的には、たとえばユーザーが広告を見たあと、カートに商品を入れているかどうかといった点だ。「アップデートの前後で、アドマネージャーへ流れ込むデータがどう変化するか、今後数カ月かけて注視していく」。
全体像を把握するため
ワラルーメディア(Wallaroo Media)でCEOを務めるアンドリュー・ピーパリネン氏は、過去数カ月にわたってFacebookのクリックアトリビューションの期間を1日に設定(以前は主に7日間)した広告キャンペーンを増やし、今回のアップデート後の様子を見ているという。
というのも、iOSユーザーがトラッキングをオプトアウトすると、Facebookは広告表示またはユーザーによるクリックが発生した2日以降のアクティビティを追跡できなくなる。そのため、アトリビューション期間が7日に設定されている場合、計測結果はAndroidユーザーに偏った数値になってしまうというわけだ。ただ、オプトアウトしたユーザーでも、広告をクリックした直後に何かを購入した場合は、トラッキングが可能なのだという。
ピーパリネン氏のチームは、今後しばらくこの調査を行い、ROASをはじめとした複数の指標がどう変化するかを観察していく予定だ。「クライアントに対する影響の全体像を把握するための試みだ」。
調査の結果によっては、マーケティング費用の投資先を多様化させるブランドが増える可能性がある。「メールやSMS、UGC(User generated content:ユーザー生成コンテンツ)といった、より自由なマーケティングチャネルへの投資を勧めている」とブラウン氏。「ブランドは、メディアへの依存度を下げるべきだ。『Facebookならどうにかなる』といった単純な考えはこれから通用しなくなるだろう」。
[原文:DTC Briefing: Startups brace for fallout from the iOS14 update]
ANNA HENSEL(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)
ILLUSTRATION BY IVY LIU