小売販売の回復に呼応するかのように、現在、VCによるD2Cスタートアップへの投資が再燃している。この流れは、複数の特定カテゴリーが牽引している。CBインサイト(CB Insights)のレポートによると、D2Cスタートアップの資金調達額は、2021年の第1四半期に13億ドル(約1420億円)に達した。
小売販売の回復に呼応するかのように、現在、ベンチャーキャピタルによるD2Cスタートアップへの投資が再燃している。この流れは、複数の特定カテゴリーが牽引している。
CBインサイト(CB Insights)のレポートによると、D2Cスタートアップ(食品カテゴリーのスタートアップを除く)の資金調達額は、2021年の第1四半期に13億ドル(約1420億円)に達した。2020年第1四半期は4億8100万ドル(約530億円)、2019年第1四半期は9億8300万ドル(約1080億円)で、今年に入って大幅な増加となった。
ただし、今後のトレンドについて結論づけるのは時期尚早のようだ。米DIGIDAYの姉妹サイト、モダンリテール(Modern Retail)がCBインサイトに問い合わせたところ、2021年第1四半期の資金調達は金額こそ2019年を超えているが、件数自体は少ないためだ。2019年にシードラウンドとエンジェルラウンドを達成したD2Cスタートアップは167社だったのに対し、2021年は4月中旬の段階で26件に過ぎないという。同様に、2019年にシリーズAラウンドを終えたD2Cスタートアップは63社だったのに対し、2021年は14社となっている。
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疑いの眼差しを向ける投資家たち
いずれにせよ、いまでも多額の資金調達に成功するD2Cスタートアップがあるのは間違いないが、その対象は自宅でのエクササイズや家具・内装といった在宅需要を取り込む産業が中心となっている。さらには、テレワークの普及による高価なハードウェアのメーカーなども投資対象となっている。
CBインサイトのシニアインテリジェンスアナリスト、ジェイク・マシューズ氏は、「D2Cによる資金調達は、この数年で乱高下した」と語る。モダンリテールに対してD2Cの創業者らは「パンデミック以前と比べてベンチャーキャピタルから資金を調達するのは困難になっている」と証言しており、D2Cスタートアップにとっては厳しい将来が待ち受けているのではないかと懸念を口にしている。これは、キャスパー(Casper)に代表される、いわゆる「D2C第1世代」の企業が上場前の評価額と比べて低迷しており、D2Cへの投資は過大評価だったというコンセンサスが形成されつつあるためだ。
また、パンデミックから最初の数カ月で資金調達がほとんど行われなかった。これは。新型コロナウイルスの影響が不透明ななか、ベンチャーキャピタルおよびスタートアップ双方が、資金調達を見送りしてきたことに起因する。そしてECの売上が伸び始めたのを見て、主に消費材カテゴリーの企業への投資を再開したベンチャーキャピタルも少なくない。
パンデミックで風向きが変わる
2020年12月に行われたモダンリテールのインタビューで、アーリーおよびシードステージ向けベンチャーキャピタルのレアラー・ヒプー(Lerer Hippeau)でプリンシパルを務めるケイトリン・ストランドバーグ氏は「2020年に入るまで、ベンチャー市場では消費者カテゴリーは大打撃を受けるという見方が非常に強かった」と振り返っている。その後、2020年末に向けて風向きが変わり、消費者向けスタートアップへの投資が再び注目されるようになった。
マシューズ氏によると、2021年第1四半期には資金調達がとりわけ大幅に増加したカテゴリーが複数あり、いずれもパンデミックで好調を維持していた分野だ。たとえば自宅で行うエクササイズ関連商品を提供するトーナル(Tonal)は、シリーズEラウンドで2億5000万ドル(約270億円)を調達した。
また、家具の分野も好調で、たとえばD2Cホールディングカンパニーのレジデント(Resident)はシリーズBで1億3000万ドル(約140億円)を、家具スタートアップのアウター(Outer)はシリーズAで1100万ドル(約12億円)を調達している。さらにペットケアのカテゴリーも同様で、テクノロジーを搭載した犬の首輪を販売しているファイ(Fi)は12月にシリーズBで3000万ドル(約33億円)の調達を発表した。
「これからは本質的な問題解決」
CBインサイトのデータには注意すべき点もある。たとえば、特にシードステージではすべての企業が資金調達ラウンドを公表するわけではない。
だが、いずれにせよ最近のD2Cスタートアップは多様化が進んでおり、かつてのように鍋やメガネといった決まったカテゴリーに集中していないことは見て取れる。たとえばトーナルやファイのように、技術投資を行い、独自のソリューションを開発する企業も増えている。また、時期ごとに消費者からの支出が大きいカテゴリーのD2Cへの資金調達が増えていく。
「イノベーションを謳いつつも、その実はブランディングや知名度を上げるための無料配達がメインだった時代は過去のものだ」とマシューズ氏。「これからは、消費者にとって本当の意味での問題解決となるサービスが支持されていくだろう」。
[原文:DTC Briefing: Startup funding rebounds during the first quarter of 2021]
Anna Hensel(翻訳:SI Japan、編集:長田真)