過去2年間、D2Cのスタートアップ企業はオンラインショッピングの増加の波に乗り高い評価を得てきた。しかし、 ペロトン (Peloton)の運命が予兆となるならこの急激な成長期は終わりを告げようとしているのかもしれない。家庭用フィットネスのスタートアップ企業である同社はパンデミック中に新規顧客が爆発的に増加した。
こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
※モダンリテール[日本版]は、DIGIDAY[日本版]内のバーティカルサイトとなります
過去2年間にわたり、D2Cのスタートアップ企業はオンラインショッピングの増加の波に乗り、高い評価を得てきた。しかし、ペロトン(Peloton)の運命が予兆となるなら、この急激な成長期は終わりを告げようとしているのかもしれない。
家庭用フィットネスのスタートアップ企業である同社は、パンデミック中に新規顧客が爆発的に増加した。収益は2020年度の第1四半期の2億2800万ドル(約260億円)から、会計年度2021年の第3四半期には12億6000万ドル(約1440億円)に跳ね上がった。しかし、過去数週間にわたって、ペロトンが2022年における需要の減速に対応する準備を進めているという話がCNBCから繰り返し聞こえてくるようになった。同社は、供給が需要を上回ったことから、エクササイズ器具やバイクの生産を一時的に中断し、自社のアパレル部門の2022年の売上目標を下方修正することまで行おうとしている。
Advertisement
ペロトンだけではないかもしれない
今年収益が停滞するD2Cスタートアップはペロトンだけではないかもしれない。各ブランドは昨年、ワクチンの接種開始により人々が旅行により多く出費するようになり、物理的な商品への出費は減少すると予測したが、その加速は一部のブランドが予測したほど迅速には起こらなかった。その理由の一部は、デルタ株とオミクロン株の感染拡大だ。
現在、投資家と小売業の専門家は、人々がパンデミック前のショッピングの習慣に戻りつつあり、新しいマットレスやエクササイズ用バイクなど、長年ほしがっていた高額商品の多くを、この2年間ですでに購入したという。その結果、今年はD2Cブランドの多くは成長の減速を体験するかもしれない。これらの企業がパンデミックにより生み出された成長に対して楽観的に対応しすぎていた場合、困難に直面する可能性がある。
ベインキャピタル(Bain Capital)のプライベートエクイティーアーム(Private Equity Arm)の消費者および小売部門でプリンシパルを務めるサロン・テスファラル氏は次のように述べている。「商品ベースのビジネス、特に自然に消費されない耐久消費財を販売するものは、2020年や2021年に経験したような記録的な複利成長を維持するのがはるかに困難になっていくだろう」。
またベインは現在、この転換を見越して、サービス業や旅行・レジャー業に特に関心を寄せていると同氏は付け加えた。
コロナ禍の生活習慣が定着するか
D2Cスタートアップ企業が直面しているもうひとつの未知の要素は、パンデミック時代の消費者の習慣がどれだけ定着するかということだ。もし誰かが、2020年に外出禁止令が発令されたときに新しい調理器具セットを購入したなら、その人は今でもほとんどの食事を自宅で調理しているだろうか、そしてキッチン用具を今後もアップグレードする気があるだろうか?
エモリー大学(Emory University)のビジネススクール(Business School)の助教授であるダン・マッカーシー氏は、レストランのデリバリーに対する支出が過去2年間でどのように変化したかの詳細について、近々発表される研究論文を共同で作成した。同氏の調査結果によると、顧客がパンデミックのあいだに形成された消費習慣を続けることにどの程度前向きであるかは、それらの顧客がそれ以前にどのような消費行動を行っていたかに部分的に依存するという。
コロナ禍ではじめてレストランの配達を利用しはじめた顧客は、「コロナ禍など起きなかったかのように行動している」という。しかし、コロナ禍以前にもレストランの配達サービスを利用していた顧客は、レストランの配達に高い確率でお金を使い続けているという。
マッカーシー氏は、ほかのカテゴリーにおける小売業者の問題点は、「弱点の原因は、主に新規顧客の採用」だと指摘した。つまり、パンデミックのあいだに特定の商品やサービスをはじめて採用した顧客は、パンデミックが収まると、それを利用し続ける可能性が低くなる。
成長の鈍化は、すべてのD2Cブランドにとって破滅的なシナリオを意味するわけではないが、パンデミックのあいだに起きた需要の増加に対して楽観的に対応しすぎていたブランドにとっては困難を引き起こすかもしれない。
たとえば、ペロトンはパンデミックのあいだに製造能力を拡充し、4億2000万ドル(約479億円)を出資してフィットネス機器メーカーのプリコー(Precor)を獲得した。同社が新たに直面した需要の課題を考えれば、この行動は楽観的すぎたかもしれない。
「長期的に維持可能なビジネスを」
すべての企業が需要の低迷を予測しているわけではない。たとえばフィグス(Figs)は11月に2021年度年全体の見通しを引き上げ、ヘルスケア専門家のあいだで需要が続いていることを指摘した。スクラブメーカーである同社は、この年の収益予測値を3億9500万ドル(約450億円)から4億1000万ドル(約467億円)に引き上げた。
ただし同社は次の四半期に、第4四半期の航空輸送の経費が「主に、限定版のスタイルと色を、予測される顧客需要に間に合うように確保するために」増大するだろうと、共同CEOのトリナ・スピア氏は述べている。この点も、正しい決定であったかどうかは同社の以後の決算発表で改めて明らかになるだろう。
ベインキャピタルのテスファラル氏は、過去2年間、賢明な小売・eコマース企業は「意味がある場所に、慎重な投資を行ってきた。不安定な一時期のためだけに企業を最適化することはできない」と語った。
同氏は次のように付け加えた。「最終的に、企業は将来のキャッシュフローの収益で評価される。長期的に維持可能なビジネスを構築するのが最良の企業だ」。
[原文:DTC Briefing: Peloton’s troubles foreshadow demand challenges startups will face in 2022]
Anna Hensel(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)