デジタルネイティブブランドは、さらなるレベルに飛躍するため、経験を積んだ小売企業の幹部を迎え入れ続けている。
この変化の波はこの数年間にわたって続いてきたもので、創業者たちは経験を積んだ小売企業の幹部にCEOの役割を受け渡している。グロシエ(Glossier)やキャスパー(Casper)などD2C新興企業の多くは、テックや、マーケティング、クリエイティブのバックグラウンドを持つ創業者によって設立された。これらのオンラインブランドにとって、そのようなスキルがデジタル顧客基盤の成長に役立った。しかし現在では、CAC(顧客獲得のコスト)が高騰し、ブランドが流通を拡大しようとしている状況において、この種の拡大の仕組みと実行方法を理解している小売のベテランを引き入れようとしている。また、D2Cブランドは何年にもわたって創業者が率いるブランドとして自社を宣伝し、場合によってはその創業者たちは企業の顔となってきた。しかし現在では、小売業として持続的な成長と収益性が重視されるようになったため、それはもはや重要でなくなった。続きを読む
この記事は、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です。
デジタルネイティブブランドは、さらなるレベルに飛躍するため、経験を積んだ小売企業の幹部を迎え入れ続けている。
この変化の波はこの数年間にわたって続いてきたもので、創業者たちは経験を積んだ小売企業の幹部にCEOの役割を受け渡している。グロシエ(Glossier)やキャスパー(Casper)などD2C新興企業の多くは、テックや、マーケティング、クリエイティブのバックグラウンドを持つ創業者によって設立された。これらのオンラインブランドにとって、そのようなスキルがデジタル顧客基盤の成長に役立った。しかし現在では、CAC(顧客獲得のコスト)が高騰し、ブランドが流通を拡大しようとしている状況において、この種の拡大の仕組みと実行方法を理解している小売のベテランを引き入れようとしている。また、D2Cブランドは何年にもわたって創業者が率いるブランドとして自社を宣伝し、場合によってはその創業者たちは企業の顔となってきた。しかし現在では、小売業として持続的な成長と収益性が重視されるようになったため、それはもはや重要でなくなった。
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小売業界のベテランを迎え入れるD2Cブランド
このことは、いくつかの例によって示されている。生花の配送ブランドのアーバンステムズ(UrbanStems)が9月下旬、新しいCEOを任命した。同社が新しく迎え入れたアナ・モリネード・ミムス氏は、セメックス(Cemex)やスターウッドホテルズ・アンド・リゾーツ・ワールドワイド(Starwood Hotels & Resorts Worldwide)などの企業で経営幹部の経験を持つ。アーバンステムズによると、キューバ生まれのミムス氏を任命したことは、生花栽培の世界的なハブとみなされている「ラテンアメリカのサプライヤーとより深い関係を築き上げる」ための取り組みの一環だ。アーバンステムズが最高経営責任者に外部からの人材を雇用するのは2回目だ。ミムス氏は、COOとして入社し、2018年からCEOを務めてきたセス・ゴールドマン氏の後を引き継いだ。
グローブ(Grove)は8月、会社のトラブルの渦中で創業者のスチュアート・ランデスバーグ氏が最高経営責任者を退任し、以前にズリリー(Zulily)とショップボップ(Shopbop)のCEOを務めたジェフ・ヤーキシン氏が就任することを発表した。ランデスバーグ氏は執行会長となり、同社によると、「戦略、資本市場、企業開発などの監督を続ける」。
寝具ブランドのブルックリネン(Brooklinen)の共同創業者リッチ・ファロップ氏は、7月にその役職を退任したが、会社内で「アクティブ」な役割を維持する。ファロップ氏に代わり、ユーアールビーエヌ(URBN)、ジェイクルー(J.Crew)、サラテーブル(Sur La Table)の元経営幹部であるビリー・メイ氏が任命された。
そして9月には、2014年にD2Cウェブサイトでの販売を開始したテックアクセサリーブランドのポップソケッツ(PopSockets)もまた、創業者から経験を積んだ小売の幹部に役職を引き渡した。新CEOのガリー・ショーンフェルド氏は、バンズ(Vans)やパックサン(PacSun)で役職を務め、最近ではD2Cの補正下着ブランドのスキムズ(Skims)でプレジデント兼COOを務めた。ショーンフェルド氏はポップソケッツのデビッド・バーネット氏から手綱を引き継ぐ。
これらのブランドのほとんどは、D2C業者として事業をはじめ、eコマース以外にも広がる大きなビジネスへと進化し、多くの場合は急激な成長を支えるベンチャーキャピタルに後押しされてきた。たとえばブルックリネンは、2015年の立ち上げ以来、数百万ドルの資金を調達してきた。しかし2019年には年間収益が1億ドルを超えたと報じられ、パンデミックのあいだにはさらに増加した。ファロップ氏がCEOの役職を離れたとき、これは常に計画してきたことであり、「同氏はブランドについて非常に満足しているため、役職を離れた」と同社は述べている。
実店舗を拡大するトミージョンの場合
下着ブランドのトミージョン(Tommy John)は、ごく最近CEOの変更を発表したブランドのひとつだ。独自の店舗を開設し、卸売事業を拡大することを計画しており、カルバンクライン(Calvin Klein)の元CEOであるシェリル・アベルホッジズ氏がこれらの作業を率いることになる。アベルホッジズ氏は9月に役職に就き、ブランドの次の成長フェーズにおいて、創業者のトム・パターソン氏やエリン・フジモト氏と密接に協力する。2008年に事業をはじめてから最初の数年間、同社はウェブサイトだけで男性用下着を販売してきた。そして、D2Cで創業された多くのブランドと同様、この数年間で新しいカテゴリーへと拡大し、卸売事業に参入した。トミージョンは2018年に、実績があるエアリー(Aerie)や、ミーアンディーズ(MeUndies)、アドアミー(Adore Me)のようなほかの破壊的企業と競合するため、女性用の商品ラインも立ち上げた。
同社は明らかに従来型の小売ビジネスモデルが成長のカギだと考えている。アベルホッジズ氏は、最初に注力するのは「新商品のイノベーションを追求し、卸売でのプレゼンスを拡大して、小売の潜在力を引き出すこと」だと筆者に語った。
トミージョンはすでに実店舗を拡大中で、今月後半にはオクラホマ市に7店舗目をオープンする予定だと付け加えた。「実店舗は、トミージョンのブランドを体験し、業界最先端の商品に直接触れ、感触を確かめ、体感するためのすばらしい方法だ」と、アベルホッジズ氏は語る。すでにノードストローム(Nordstrom)、ターゲット(Target)、ディックススポーティンググッズ(Dick’s Sporting Goods)などの小売業者が同ブランドの卸売パートナーに名を連ねており、今後さらに多くのパートナーが加わる予定だ。
「過去の経験から、下着業界についての深い知識、理解、情熱を得ている」と、アベルホッジズ氏は述べる。同氏はファッション業界における経営幹部として30年近い経験があり、PVHアンダーウェアグループ(PVH Underwear Group)、アイゾッド(Izod)、ラルフローレン(Ralph Lauren)、リズクレイボーン(Liz Claiborne)などのアパレルブランドで職務に就いてきた。「象徴的なグローバルブランドから、トミージョンのような分野の破壊的企業に移るのは、私にとって非常に刺激的な機会だ」。
小売拡大のための複雑な戦略を主導
アドバイザリーおよび投資会社のIRLベンチャーズ(IRL Ventures)の創業者タリン・ジョーンズ・レーベン氏は、最高経営責任者の交代は今後さらに増えるだろうと予想している。
「ビジネスを新興フェーズからマルチチャネルに移行する際、通常は多くの運営経験を積んでいることが有利になる」と、以前キャスパーの最高商務責任者として招き入れられたレーベン氏は述べる。ブランドの創業者やアドバイザーが会社を率いるために外部の人材を招き入れるとき、さまざまな点を考慮する必要があると、同氏は説明する。新しいチャネルの追加などのタイミングや、一定の収益を達成するタイミング、または黒字化を目指すタイミングが含まれると同氏は述べる。「今日では、初期段階から、十分に監督された会社へと、すばやく軌道に乗せることがかつてないほど重要になっている」。
このような任命は新しいものではないが、ブランドの創業者が身を引き、業界の専門家が卸売販売やサプライチェーン管理のような複雑な戦略を主導できるようにするのがより一般的になってきている。
D2Cブランドのグロシエとライブリー(Lively)の創業者は、どちらも2022年にCEOの地位を離れた。ライブリーは2019年にランジェリー大手のワコール(Wacoal)に1億500万ドル(約158億円)で買収されたが、創業者のミッシェル・コルデイロ・グラント氏は今年前半まで創業者の地位に留まっていた(同氏はその後、エナジードリンクのゴーギー(Gorgie)を立ち上げた)。一方で、グロシエ創業者エミリー・ワイス氏は取締役会長に異動し、コールハーン(Cole Haan)とナイキ(Nike)の元エグゼクティブのカイル・リーヒ氏が、同ブランドの実店舗と卸売の拡大を先導するためCEOを受け継いだ。
全体として、小売新興企業の創業者は往々にしてブランドの優れた構想を持っているが、全国的な小売チェーンとの関係構築などのスキルを持ち合わせているとは限らないと、レーベン氏は述べる。
「謙虚さとパートナーシップが大切だ。創業者が、いつ専門家を招き入れるべきかがわかるほど十分にかしこく謙虚であれば、ブランドを築き上げる課題も克服できるだろう」と、レーベン氏は述べている。
[原文:DTC Briefing: Brands are bringing on retail veterans to jumpstart growth]
Gabriela Barkho(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Glossier