オールバーズ (Allbirds)の経営陣は2月23日、第4四半期の決算発表で、2022年に卸売り業務の拡大をはじめると発言した。オールバーズの移行は、業界全体での認識を示すものだ。いわゆるD2C新興企業は、より大きな利ざやと、幅広い顧客ベースへのアクセスを求めて、ますます卸売りに展開を進めつつある。
こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
※モダンリテール[日本版]は、DIGIDAY[日本版]内のバーティカルサイトとなります
オールバーズ(Allbirds)の経営陣は2月23日、第4四半期の決算発表で、2022年に卸売り業務の拡大をはじめると発言した。同社は、数年前にノードストローム(Nordstrom)に開設したいくつかのポップアップを除き、自社商品のほとんどを自社のウェブサイトと店舗で販売してきた。しかし現在、同社は卸売りへの参入によってブランドの認知を築き上げたいと言明したのだ。
オールバーズの移行は、業界全体での認識を示すものだ。いわゆるD2C新興企業は、より大きな利ざやと、幅広い顧客ベースへのアクセスを求めて、ますます卸売りに展開を進めつつある。著名なD2C企業でも、いまだこのような動きを見せていないものもあり、新たに株式を公開したワービーパーカー(Warby Parker)やフィグス(Figs)のほか、アウェイ(Away)、エバーレーン(Everlane)、アーティクル(Article)など各種の企業が該当する。しかし、1億ドル(約115億円)以上のビジネスを構築できながら、D2Cに留まる新興企業の数は減少しつつある。
Advertisement
大手も参入 D2C市場の競争が激化
2010年代初頭にはeコマースがまだ生まれたばかりだったため、ベンチャーの支援を受けた多くのD2C新興企業、たとえばダラーシェイプクラブ(Dollar Shave Club)、ワービーパーカー(Warby Parker)、キャスパー(Casper)などは、オンラインのみの販売でわずか数年間に数千万ドル(数十億円)を生み出すことができた。しかし年月の経過につれて従来の実店舗型小売業者もeコマースについての理解を深めるようになった。ウォルマート(Walmart)は自社独自のオンライン専売ブランドを立ち上げる実験を行い、ターゲット(Target)は自社のプライベートラベルの商品ラインでアウェイ(Away)のような人気のあるデジタルネイティブの新興企業のブランディングを模倣するようになってきた。
このような競合の激化は、業界に逆風として降りかかった。たとえばオールバーズの収益の増加はこの数年間に鈍化しており、2019年と2020年にかけて54%の売上増を記録したが、翌年はコロナ禍の店舗閉鎖と闘っていたため売上成長率は13%に留まった。2021年にはそれが27%まで回復した。
しかし、オールバーズのようなD2Cブランドは、より多くの小売業者と提携することで安価に顧客と接触できる。オールバーズの共同創設者であるジョーイ・ツゥイリンガー氏は、同社の第4四半期の決算発表において、同社のブランド認知度は米国でまだ11%でしかないと述べた。同社は、卸売りを開始することでこの割合が増大することを期待している。
ダイレクト販売にこだわるフィグ
いまだにD2Cのみで操業している少数のブランドには、いくつかの共通点がある。これらの企業は提携できる小売業者が多くないようなカテゴリーに属しているか、販売する商品に加えて何か独自の体験を提供するためD2Cに留まっている。
医療従事者向けのスクラブ(首元がVネックとなっている医療用白衣)やアパレルを販売するフィグスがD2Cに留まることを望んでいる理由として、同社の共同CEOを務めるトリーナ・スピア氏は、電話インタビューで、「我々の成長を後押ししているのは、顧客への理解だ」と述べた。フィグスは第4四半期の売上速報で、2019年と2020年にかけて120%、2020年と2021年のあいだで62%の収益増を達成し、売上の98%は自社ウェブサイトからのものであることを報告した。
フィグスの立ち上げの経緯は、多くのD2Cブランドと同じだ。スピア氏と、共同創設セ社のヘーザー・ハッソン氏は、疲弊した業界を刷新しようとしていた。スピア氏は次のように述べている。「この業界は劣悪な卸売り業界だった。ヘルスケアの専門家はショッピングセンターにある小さな医療品店に通う必要があり、そこでは患者用差し込み便器や膝装具に並んで大量のスクラブがラックに並んでいた」。
フィグスの事業領域が、ほかの多くの業界と大きく異なるもうひとつの点は、これまでのところ、既存の企業が追い付いていないことだ。何十万もの店舗を持つ大手スクラブ企業が、デジタルを強化することで、フィグスに追い付くことができてない。これに対して、たとえばマットレスでは、何百社もの新興企業に加え、サータ(Serta)からウォルマートまでのさまざまな従来型ブラントや小売業者が、D2C企業のようなマーケティングとデジタルへの注力によって、キャスパーの初期の成功を模倣しようとしてきた。
フィグスは何年にもわたってAmazonで販売を行ってきたが、フィグスの売上のうち、このeコマースの巨大企業から得られた売上は2%未満でしかなかった。これは、フィグスがAmazonで販売しているスタイルや色が非常に限られているからだ。フィグスの成功を導いた要素の一部は、毎週新しい色を投入することで、消費者がもっとも人気のあるスタイルやパターンを入手したがるようになったことだ。2020年の時点で、フィグスの売上の60%以上はリピート客から得られたものだという。
D2Cならではの価値
家具ブランドのアーティクルは、D2Cに留まりながら急速な成長を実現したブランドのもうひとつの事例だ。同社は昨年春、2013年の創設から数えて100万件目の注文を発送したことを報告した。これらの注文のうち40万件は2020年、パンデミックによるオンラインショッピングがピークだった頃に受注したものだ。
同社は現在のところ独自の店舗を開設しておらず、ほかの小売業者から商品を販売してもいないので、同社の売上は100%が自社ウェブサイトでのものだ。
同社のマーケティング担当シニアバイスプレジデントを務めるダンカン・ブレア氏は、「当社が顧客に提供する価値において重要な部分となるのは、フルフィルメントプロセスだ」と語った。同社は2019年に独自の社内配送プログラムを開始した。現在、同社の注文の半数以上は社内プログラムにより配達されている。
「我々が自社商品を卸売りで販売したなら、顧客はそれを購入する機会を逃すだろうし、それが我々の大きな利点だ」とブレア氏は付け加えている。このため、同氏はアーティクルが近い将来に卸売りに展開するとは考えていない。
D2Cに留まるブランドの狙い
ほかのブランドが大手小売業者との卸売りパートナーシップを拡大しようと急いでいるなかで、D2Cに留まっているブランドは、これが自分たちの秘策であり、自社の迅速な成長のために役立つという考えを貫いている。
フィグスのスピア氏は次のように述べている。「人々は、卸売りをブランド認知の競争のように考えており、それによって大勢の顧客を獲得できると考えているようだ。しかし私は将来、今後10年間に、もっとも真正なブランドは基本的にD2Cになると考えている」。
Anna Hensel(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Allbirds