D2Cブランドは記録的な売上を達成している一方、1年でもっとも競争の激しいクリスマス商戦に向けて対処すべき物流上の問題を数多く抱えている。そもそも、1年を通じて原材料や在庫を十分に抱えられなかった企業も少なくない。今年はクリスマスシーズンに向けて、売れ筋の商品の在庫を確保するのは容易ではないのだ。
調理器具ブランドのキャラウェイ(Caraway)で、4点セットの器具を今から購入しても、もはやクリスマスには間に合わないだろう。
キャラウェイの料理器具セットのうち、もっとも発送日が早い単品商品の配達予定日が12月20日だ(セットに含まれる個々の商品は、セットとは別に梱包および保管されており、本稿の執筆時点では購入可能となっている)。
キャラウェイのウェブサイトの「食器を早く手に入れるには」という部分には、「一部商品はすでに2020年分が売り切れており、クリスマスシーズン後にのみ出荷されます」と掲載されている。さらにそれに続いて、「12月出荷の商品については、クリスマスシーズンの混雑回避のため、今すぐ注文することで、通常期間内に受け取れる可能性が高まります。早い者勝ち」と書かれている。
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これは、2020年におけるクリスマスシーズンの様子を端的に表していると言えるだろう。D2Cブランドは記録的な売上を達成している一方、1年でもっとも競争の激しいクリスマス商戦に向けて対処すべき物流上の問題を数多く抱えている。そもそも、1年を通じて原材料や在庫を十分に抱えられなかった企業も少なくない。今年はクリスマスシーズンに向けて、売れ筋の商品の在庫を確保するのは容易ではないのだ。次に倉庫や配送業者にとっても、フルフィルメントや配送対象となる品数が増えるため、単純に配送準備までの時間がかかることになる。
米DIGIDAYの姉妹サイトであるモダンリテール(Modern Retail)が話をきいた複数のD2Cブランドの創業者からは、「マーケティングを、もっと早い段階から調整する必要があった」と口を揃えて述べている。後手に回る形で現時点では、ユーザー体験を落とさないため、配送が遅れる可能性について、なるべく多くのメッセージをウェブサイトやSNSに掲載しているという。またブランドによっては、早期に注文したユーザーがお得になるサービスを提供しているようだ。
サプライチェーンにとって苦難の1年
シェービングおよびスキンケアブランドのウイ・ザ・ピープル(Oui the People)の創業者カレン・ヤング氏は、「我々のインスタグラムはミームだけではなく、サプライチェーンのアップデートも行ってきた」と冗談交じりに語る。11月末、同社は提携する倉庫から、数週間後に出荷に遅れが発生するおそれがある旨のメールを受け取った。同内容をそのままSNSに投稿し、ユーザーに注意を促した。
メールには、「新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、人員確保・配置に支障が出ており、非常に懸念すべき状況にあることをお伝えします」と記載されている。このほかにも、米国における感染者数の拡大に伴い、倉庫のシフトを担当する従業員も減少していると書かれている。「たとえばカリフォルニア州では、月曜日には1000人が作業にあたる予定だったが、実際に作業を行ったのは150人だけだった」という。
ヤング氏によれば、倉庫が前の週にメールを送信した時点で、注文から発送までに5日ほどかかる予測となっていた。その後、状況は安定し、商品の発送まで24時間以内で行えるようになった。これは通常の所要時間だ。だが、それでもヤング氏はこのメールを投稿することで、ユーザーに対して早めの買い物を促すと同時に、配達が遅れた場合でも理解を得やすくなると考えたという。
ただし、ヤング氏がこういったユーザーの理解を促すメールを送ったのはこれが初めてではない。同社の販売商品である、ドイツ製の髭剃りを受け取るにしても、今年は例年以上に時間がかかっている。そのため、数週間前に同氏は「在庫あり」の欄を同社のウェブサイトに追加した。「ユーザーが注文するときに『ああ、コロナ禍でサプライチェーンが打撃を受けて、部品の入手に苦労しているのかな』と想像したりはしないだろう」とヤング氏は語る。「現状の問題を特定した説明を行い、ユーザーの理解を得られるかは我々の努力次第だ」。
実際のところ、サプライチェーンの問題はウイ・ザ・ピープルにとって大きな障害とはなっていないようだ。ヤング氏によれば、同社の収益が前年比で100%以上増加したとのことだ。
決算に向けた準備
今、D2Cスタートアップが直面する最大の課題は、注文されたギフト商品をいかにしてクリスマスに間に合わせて届けるかだ。
物流コンサルティング会社のセカンド・マラソン(Second Marathon)の共同創業者、マシュー・ハーツ氏は、12月25日に配達を間に合わせるには、12月11日を注文受付期限とするようスタートアップに助言している。これはフェデックス(FedEx)やUPSのアドバイスよりも若干早い設定だ。フェデックスのサイトでは、12月25日までに陸路で届けるには、昨年より1日早い12月15日までの注文を求めている。だがハーツ氏は、スタートアップにはリソース上の制約があることを指摘し、注意を促している。
「スタートアップは、『ユーザーがニュージャージー在住なので、ニュージャージーから出荷すれば、カリフォルニアの倉庫から出荷するよりはるかに早く届けられる』といった方法を取れるほど、十分なリソースを持っていない場合が多い」と同氏は語る。「必然的に通常配送の期限は何日前まで、という包括的なルールを作成することになる」。
ヤング氏によれば、今のところウイ・ザ・ピープルはクリスマスまでに配達するための期限日を設定していないという。一方、サイト全体で12月15日までの無料配送を実施している。
キャラウェイの共同創業者、ジョーダン・ネイサン氏は、モダンリテールのインタビューのなかで、4月から8月にかけて「注文を受けた商品のほとんどが、入荷待ちの状態だった」と述べている。ただし、今年のこのようなゴタゴタした状況下におけるユーザーの反応を見る限り、配送時間の延長や在庫切れによって、クリスマスシーズンにおける同社の売上が大きな影響を受けることはないだろうと同氏は語る。「ユーザーも、6週間前には買い物を済ませてしまうよう努めている」。
商品の入荷待ちや、待ち時間が予想以上に長引いている場合、同社はホームページやユーザー対応のチャットボックス、商品注文ページといったウェブサイト上の3~5箇所で通知を試みている。さらに同社は、Facebookで早期購入を促す広告もいくつか掲載しており、次回の出荷分の発売前に入荷待ちリストに登録するようユーザーに薦めている。また、欲しい商品が在庫切れの場合は、ギフトカードの購入も推奨しているという。
「入荷待ちはかならずしも悪いことではない」とネイサン氏は語る。「適切なメッセージを送れば、悪影響は最小限に抑えられるのだから」。
[原文:DTC brands are preparing for nightmare holiday shipping delays and out of stocks]
ANNA HENSEL(翻訳:SI Japan、編集:長田真)