ニューヨークのソーホー地区をちょっと歩けば、DTCブランドとして知られていたブランドたちの実店舗が、すぐに目に入ってくる。これらの多くが、デジタル部門で活用しているテクノロジーがショッピファイ(Shopify)だ。特にこの数カ月だけでも、ショッピファイはこうしたビジネスチャンスを拡大しつつある。
ニューヨークのソーホー地区をちょっと歩けば、デジタルブランドとして以前は知られていたブランドたちの実店舗が、すぐに目に入ってくる。ワービーパーカー(Warby Parker)しかり、グロッシアー(Glossier)、キャスパー(Casper)しかり。DTC(Direct to Consumer:ネット直販)ブランド業界がますます成熟するなかで、デジタルチャンネルから実世界へと移動してきている形だ。
これらのDTCブランドの多くが、デジタル部門で活用しているテクノロジーがShopify(ショッピファイ)だ。特にこの数カ月だけでも、デジタルブランドたちが実店舗展開を進めるなかで、Shopifyもビジネスチャンスを拡大しつつある。店舗からの配送サービスをローンチさせたブランドのサポートや、オンラインで購入し、店舗でピックアップするサービスが、このビジネスに含まれる。彼らはまた、iPadベースでApple Payも扱えるPOS(Point of sale)サポートのハードウェアとソフトウェアを自社で開発した。
実店舗展開を全力支援
これらの性能を披露するため、Shopifyは昨年ロサンゼルスに、リテールサービスのための店舗をオープンした。そこでは販売者たちが、同社のハードウェアを購入できる。またこのスペースは交流スペースとしても活用されている。実店舗を持っている、いないに関わらず、DTC業界に身を置くブランドたちが、お互いのアプローチについて話し合うことができる場だ。またこのプロセスを通じて、成長するこの業界におけるShopifyの基盤を固めることができるようになっている。
Advertisement
またスペース内で、実際にブランドたちはShopifyのハードウェアを使ってポップアップ店舗を運営することもできる。たとえば、数週間前であれば、ブラジャー会社のライブリー(Lively)がこのプログラムを活用した。顧客やゲストを招待し、プロダクトを実際に手にとって見てもらい、ShopifyのPOSやスキャナーを活用して購入をしてもらった。
複数の情報源によると、Shopifyのマーチャントカンファレンスである「ユナイト(Unite)」と「パースート(Pursuit)」では、専門の「リテール」チームが参加しているという。このチームは、実店舗展開を考えているブランドたちに、リテールトレーニングのセッションを提供。全国で9店舗展開をしているアウトドアボイス(Outdoor Voices)や、すでにニューヨークで2店舗展開しており、年内に米国内で8店舗を追加オープン予定のオールバーズ(Allbirds)といったブランドは、すでにこのチームのサービスを受けている。
物流・コストも万全
もうひとつの大きな取り組みとして挙げられるのが、Shopify ロケーションズ(Shopify Locations)だ。リテーラーたちがロケーションごとに複数の在庫ラインを区別することができる。家庭用グッズを販売するパラシュート(Parachute)の最高マーケティング責任者であるルーク・ドラウレズ氏によると、これは会社にとってもっとも大きな強化要素だった。パラシュートは創立から最初の2年間はオンラインのみでの稼働をしていたが、いまでは複数の実店舗を持ち、来年までには20店舗へと増やす予定だ。しかしShopifyは以前であれば、ひとつの在庫ラインしか管理していなかった。そのためパラシュートは複数のShopifyアカウントを作ることで在庫プールを作っていたのだ。しかし、ロケーションズがローンチされたことで、それが一変した。「顧客アカウントを統合する助けとなる」と、彼は語る。
「オンラインファーストの販売店が実店舗を強化させる手助け、そして実店舗リテーラーたちのオンライン運営の手助けを、もっと行っていきたいと考えている。究極的には、それが販売店の成功へとつながるからだ」と、Shopifyのプロダクト部門バイスプレジデントであるサティッシュ・カンワー氏は言う。
オンライン版のサービスと同様、実店舗のサービスも、月額サブスクリプションをベースにしている。その値段については競合よりもはるかに安いと複数の情報源で確認できている。彼らは最近、スタンダード化されたコストモデルを導入したが、それはほかのどの支払いプロセス、POS、在庫管理プラットフォームよりも安いと、全員が同意した。ほかのプラットフォームは、ほとんどが総流通総額の5%の費用となる。Shopifyはその半分以下、2%から2.5%のあいだとなっている。しかしスタンダードコストモデルは、彼らがいかに成長を続けているかを示している。以前であれば、Shopifyは彼らのシステムに参入してもらうために、複数のクライアントが「馬鹿馬鹿しいほど低い値段」と呼ぶほどの低価格で、参入させていた。
DTCブランドの実店舗化
以前行ったインタビューでは、Shopifyの最高マーケティング責任者のジェフ・ワイザー氏は、米DIGIDAYに対して「21世紀のブランドはDTCブランドだ」と語っている。そして、これらのDTCブランドは、ほとんどがオンライン上で誕生しており、仲介者を削除し、顧客へと直接辿り着こうとした結果だ。賃貸契約や大量の在庫管理にまつわるコストをかけることなしに、だ。しかし、それは変わりつつある。ニューヨークのソーホー地区を見るとわかる。グロッシアー、キャスパー、ワービーパーカーといった、もともとはオンラインのみのブランドが、すべて店舗を立ち上げている。DTCが成熟するなかで、これらが伝統的なリテールブランドの様相を呈してきているのだ。
「実店舗へと拡大することは、ブランドがオンライン上の存在を越えて拡大するうえで、自然な行為だ。今日の消費者は、何かを購入するうえで、ひとつのやり方だけに従うわけではない。複数のチャンネルを利用して購入することで、消費者たちは自分たちのコマース体験を完全にコントロールできるようになる。今日のDTCブランドの多くにとって、それは重要な成功要素となっている。実店舗をローンチしたあとに、一定の地域でのオンライン売上が大きく増加したという販売者たちを知っている」と、Shopifyのカンワー氏は言う。
フィーメール・ファウンダーズ・ファンド(Female Founders Fund:F3)のパートナーであるスティアン・ドング氏によると、DTCブランドは「可能な場所を見つけてサヤ取りを行うチャンス(コストが比較的安くで顧客を獲得できる場所)を見つけている」という。「最初はGoogle検索であった。そのあとはディスプレイ広告、そして屋外広告、いまは実店舗リテールになっている。ソーシャルメディア上での価格が上昇するにつれて、従来の賃貸期間といった問題がありながらも、リテール店舗を持つことが顧客獲得の方法として対費用効果も上がっているのだ」と、ドング氏は言う。
たとえば、F3のポートフォリオが抱えるブランドのひとつに、ウィンキーラックス(WinkyLux)というビューティブランドを扱う会社がある。F3のパートナーであるアヌー・ダガール氏によると、昨年夏、FacebookとGoogleにおける有料広告が十分な効果を生んでいなかったことを、ウィンキーラックスは発見したようだ。「そのため、彼女は発想の転換を行い、在庫を買うのではなく、インスタグラム(Instagram)で映えそうな小さい店舗をオープンすることに決めた」。
Amazonと比較して
Shopifyは、DTCブランド革命の駆動となる190億ドル(約2.1兆円)の企業を築き上げた。彼らの「オンラインでグッズを売る助けをしますよ」というモデルは実店舗へと展開している。ひと月29ドル(約3200円)でクライアントはオンラインストアを持つことができ、ShopifyによるPOSアプリにアクセスできる。ひと月79ドル(約8760円)、もしくはひと月299ドル(約3万3150円)のプランに参加すると、より多くの機能を使うことができる。
しかし、成長するDTCブランドにターゲットを当てるなかで、もっとも有効となっているのが、彼らの企業向けプラットフォーム、Shopify プラス(Shopify Plus)だ。プラスのプログラムは、レキットベンキーザー(Reckitt Benckiser)のような大手ブランドを対象としているが、成熟して大きくなったDTCブランドもターゲットとなっている。ブルックリネン(Brooklinen)が、その例だ。Shopifyを4年間活用してきており、いまではPOSと在庫管理の店でShopifyの実店舗サービスを活用している。ファウンダーのリッチ・フロップ氏は、もっとも簡単で、もっともシームレスな移行だと言う。
「(Shopifyは)非常にやる気があって、コラボレーションをしたがっている。それが報告業態の変更であっても、データであっても何でもだ」。ブルックリネンは実店舗におけるディスカウントのデータをShopifyに尋ねたときもすぐに回答してくれたという。「これは自然なステップだ」。
これらすべては、AmazonにおけるDTC体験と比べると対照的だ。米DIGIDAYが以前報じたように、Amazonは自分の顧客は彼らのみの顧客だと考えているため、そのビジネスに関してオープンではない。多くのデータはシェアしないが、サービスとしても多くを提供しない。自分のブランドの強み以外に多くを持たないのが通常であるDTCブランドにとっては、Amazonと取引をするのは難しい。Amazonは在庫管理といった重要な項目で手助けをしようとしているものの、DTCブランドは全体的に慎重だ。
「理念以外は任せられる」
DTCブラジャーブランドのライブリーのファウンダー、ミシェル・コーデイロ・グラント氏によると、彼女の会社は最初は支払いとオンラインストアでだけShopifyを使っていたが、いまではその活用範囲を広げている。国内各所でポップアップをローンチし、「ハッピーアワー」ショッピングイベントを展開中だという。
「それぞれの街に行き、我々のプロダクト、ShopifyのPOSスキャナーとスワイプ装置を持って行く」。Shopifyはライブリーのスペースにチームを送り込み、これらの技術を試してもらい、アドバイスや改善点などを提供したという。これらはすべて、Shopifyから自発的に行われた。「会社を構築しているとき、次の段階でしたいことを考える。一貫性と会社の原理を大事にしたい。それができれば、残りの部分は彼らに任せられる」。
Shareen Pathak(原文 / 訳:塚本 紺)