インスタグラム(Instagram)、Facebook、Googleの広告を主戦場としてきたDTC(Direct to Consumer:ネット直販)企業が、成熟を迎え、テレビCMの購入を増やしている。これらの企業は2018年、20億ドル(約2185億円)以上をテレビに費やした。2年前と比べて、2倍近い額だ。
インスタグラム(Instagram)、Facebook、Googleの広告を主戦場としてきたDTC(Direct to Consumer:ネット直販)企業が、成熟を迎え、テレビCMの購入を増やしている。
動画広告協会(Video Advertising Bureau)が、ニールセン(Nielsen)のデータをもとに、120のDTCブランドを分析した結果、これらの企業は2018年(データ未入手の12月を除く)、20億ドル(約2185億円)以上をテレビCMに費やしたという。2年前と比べて11億ドル(約1200億円)の増加だ。さらに、120のDTCブランドのうち70社は、昨年はじめてテレビCMを購入している。
テレビ広告費で上位に来るのは、エアロバイクのペロトン(Peloton)、ペットフードのチューイ(Chewy)、歯のホワイトニングツールのスマイルダイレクトクラブ(Smile Direct Club)、マットレスメーカーのパープル(Purple)などだ。これらの企業は、いずれも2018年、テレビ広告に1億ドル(約109億円)以上を投じ、またテレビマーケティング費を徐々に増やしている。
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「現在、DTCブランドのテレビCM展開が相次いでいる。すでにテレビで宣伝を行っているブランドも、予算を増額している」と、動画広告協会でエグゼクティブバイスプレジデントを務めるダニエル・デローロ氏はいう。ニールセンのデータに含まれるのは、従来のテレビスポット広告とアドレサブルテレビスポット広告の一部であるため、実際の投資額はさらに多いと考えられる。「彼らはスケールを必要としている」と、デローロ氏は語る
高まるテレビの重要性
たとえば、ペロトンの2017年のテレビ広告費は1億870万ドル(約119億円)だったが、2018年には1億4190万ドル(約155億円)に増えており、過去数カ月間の投資額は1100~1200万ドル(約12~13億円)のあいだだった。一方、チューイのテレビ広告費は、2017年の9940万ドル(約109億円)から、2018年は1億2340万ドル(約135億円)に増加した。ニールセンのデータで見ると、2社の月あたりのテレビ広告費はほぼ同じだ。マットレスブランドのリーサ(Leesa)も、ますますテレビCMを買うようになっており、支出額は2017年の6340万ドル(約69億円)から、2018年は7300万ドル(約80億円)まで増加した。
DTC企業がテレビCMの購入を増やすという決定に至ったのは、彼らが成熟期を迎え、ソーシャルチャンネル上でのリーチを超えて成長したこと、またFacebookやインスタグラムのCPMが上昇したことの結果であると、デローロ氏は分析する。またDTC企業は、テレビに参入した競合他社がどんな成果をあげたかも判断材料にしている。食事キットのハローフレッシュ(HelloFresh)やライブオークションのトップハッター(Tophatter)など、いち早くテレビCMを展開したブランドは、以前米DIGIDAYの取材に対し、ウェブトラフィックや売上が増加したと答えている。
下着ブランドのサードラブ(ThirdLove)は、2017年にテレビ広告に参入。当初の予算は月28万6000ドル(約3125万円)だった。同社は最初の3カ月で300万ドル(約3億2800万円)の広告料を支払った。以来、同社のテレビ広告予算は4倍以上に増加。ニールセンのデータによると、現在までに3つのテレビ広告キャンペーンを展開したサードラブの2018年のテレビ広告費は、1320万ドル(約14億4000万円)にのぼった。
「Facebookなどのデジタルチャンネルの広告料が高騰するなか、オフライン戦略、なかでもテレビの重要性が高まりつつある」と、サードラブの共同創業者兼CEO、ハイジ・ザク氏はいう。ザク氏は、2019年末までに、サードラブのマーケティング費の20%をテレビが占める可能性があるとしたが、それ以上の具体的数値は明かさなかった。サードラブは従来型テレビ広告とアドレサブルテレビ広告の両方を購入しており、それぞれの効果測定については、ウェブサイト訪問数、コンバージョン、CPA(成果獲得単価)を、テレビ広告分析用のサードパーティーソフトを利用して算出している。
「ストーリーを伝えるため」
DTCブランドのテレビ広告料を奪いあうメディア企業も、売上の増加を見込んでいる。NBCユニバーサル(NBCUniversal)でオーディエンススタジオ売上担当シニアバイスプレジデントを務めるブライアン・ノリス氏によれば、NBCが昨年11月にスタートした「ダイレクト・トゥ・スケール(Direct to Scale)」プログラムには、12のDTC企業が加入した。同プログラムは、NBCの全番組で放映されるCMの購入に加え、DTC企業がソーシャルで実施しているのと同等のデータ測定サービスも提供している。参加企業の大部分は消費財、ファッション、健康、ファイナンスの分野であり、テレビCMの効果測定はサイトコンバージョン、ブランド認知、売上増加に基づいて行われる予定だと、ノリス氏はいう。
「なかには最初から2000万ドル(約21億8500万円)以上をテレビにつぎ込むブランドもある」と、デローロ氏はいう。「ふつうは5万ドル(約546万円)程度からスタートし、だんだん上げていくものだが、彼らは他社のブランドの成果を信頼する傾向にある」。
1月中旬、偏頭痛薬を販売する新興ヘルスケアDTCのコーブ(Cove)が、初のテレビCMをスタートした。親会社のサーティマディソン(Thirty Madison)は、男性の抜け毛治療薬を製造するキープス(Keeps)などの傘下の別ブランドで、すでにテレビCMの手応えを得ていた。キープスは昨年の創業からわずか1カ月後に最初のテレビ広告キャンペーンを開始し、これがFacebookやインスタグラムに匹敵するコンバージョン率を達成したのを受け、予算を増やして広告購入を続けていると、サーティマディソンおよびキープスの共同創業者スティーブン・グーテンターク氏はいう(彼は具体的な数値は明かさなかった)。ニールセンのデータによると、2018年2月のキープスのテレビ広告費は5万2000ドル(約568万円)だが、同年最後の2カ月では約500万ドル(約5億4600万円)をつぎ込んでいる。創業以来の支出を合計すると、キープスのテレビ広告費は2220万ドル(約24億2600万円)にのぼる。
「我々は先駆者になることに利益を見出した」と、グーテンターク氏は話す。彼によれば、テレビは同社のマーケティング費用の40~50%を占める。「クリエイティブやメディアの開発にかかる費用は決して小さな投資ではないが、(テレビは)ストーリーを伝えられるチャンネルだ」。
困難なターゲティング
DTC企業にとってテレビは、たとえクリエイティブを完全に内製化していたとしても、やはり金のかかる媒体だ。ペロトンやホームファッションのウェイフェア(Wayfair)といったブランドのテレビ広告購入に関わったエージェンシー、R2Cグループ(R2C Group)でプレジデントと最高執行責任者を兼任するジェーン・クリサン氏によれば、全国放送でCM1本を6週間から3カ月にわたって放映する場合、最低価格は100~200万ドル(約1億900万~2億1800万円)だ。
高度にターゲティングされたアドレサブルテレビスポットは、さらに高額だ。このタイプの広告に期待を寄せ、すでに投資しているDTCブランドもあれば、追加コストに見合う価値があるのかどうかを決めかねているブランドもある。
勃起不全治療薬のDTCブランドであるローマン(Roman)は、2018年6月に34万5000ドル(約3770万円)の予算でテレビ広告を開始し、それ以降、合計で1860万ドル(約20億3200万円)の広告費を支払った。
ローマンで成長担当バイスプレジデントを務めるウィル・フラハティ氏は、同社がテストを行ってるというアドレサブルテレビ広告について、「マッピングに問題がある」と話す。「コネクテッドデバイスでキャンペーンを展開したい場合、デバイスが必ずしも個人と結びついていないため、ターゲティングが困難になる。現状では昔ながらのメディアバイイングが主流であり、ターゲティングの精緻化が必要だ」。
OTTと従来型の両軸で
NBCユニバーサルのノリス氏によると、アドレサブルテレビ広告の価格は従来型広告の2倍近い。それでも、同社が新規のDTCクライアントに対して行う提案の90%は、アドレサブル広告を含むと、同氏はいう。
サードラブはこうした方針に大賛成だ。同社は従来型広告とアドレサブル広告の両方を購入しており、それぞれの効果測定については、ウェブサイト訪問数、コンバージョン、CPA(成果獲得単価)を、テレビ広告分析用のサードパーティーソフトを利用して算出している。「OTTは従来のテレビ広告よりも高価だが、我々の見込み顧客へのターゲティング能力からいって、コンバージョン率も高いと予想される」と、サードラブのザク氏は語った。
Ilyse Liffreing(原文 / 訳:ガリレオ)