米国で店舗再開の第一波、 D2C ブランドは様子見の構え:従来型小売にはない検討事項

米国ではD2Cスタートアップ各社が、店舗の営業再開時期とその方法について検討を進めている。だがすでにいくつかの州で営業再開がはじまりつつあるなかで、4月上旬から頭を悩ませてきた各社とも良いアイデアを見い出せていないようだ(※原文記事の掲載は5月8日)。

テキサス州は5月1日にショッピングモールや小売店舗に対し、25%規模での営業再開を許可した。テキサス州よりはやく小売店舗の営業再開を認めた州はあるが、D2C企業にとって同州は重要な位置づけとなっている。ニューヨークやサンフランシスコ、ロサンゼルスといった、いまだ営業再開の目処が立っていない大都市についでD2C各社が実店舗を展開しているのがオースティンやダラスといった都市だからだ(カリフォルニア州では5月8日から店舗のカーブサイド・ピックアップを許可している)。

だが、大半のD2C企業は営業再開を急いではいない。テキサス州に店舗を置くD2Cブランド4社であるアウェイ(Away)、アウトドアボイス(Outdoor Voices)、ミズンメイン(Mizzen + Main)、ライブリー(Lively)は現在営業再開に向けた戦略を練っている段階で、まだ再開することはないという。カウボーイブーツを販売するテコバズ(Tecovas)はテキサス州に5店舗を置くが、オースティンの1店舗のみでカーブサイド・ピックアップを行っており、残りの4店舗は閉めたままだ。

D2Cスタートアップは従来型の小売企業にはない検討事項がいくつかある。まず、D2C各社はもともとオンライン販売に強く依存していたため、数百の実店舗を展開しているような企業ほどダメージが大きくない。そして次に、D2Cには社会意識の高さを売りとしているブランドが多いため、売上を求めて拙速に営業再開すればカスタマーからの反発も想定される。そして最後に、営業再開したところでショッピングモールや実店舗にどれくらい客足が戻るか不透明という点がある。そこで他社が営業再開を進めるなかで、D2C企業はその様子を見て自分たちの決定の参考にしようしている。

営業再開に踏み切ったD2C

だが、スタートアップのなかでも営業再開に向けて踏み切った企業もある。ベータ(b8ta)は主に北米に22店舗を展開している。同社はD2Cというより、小売としてのサービスを提供しているスタートアップだ。ベータの店舗ではさまざまな企業の製品を販売しており、各社から手数料をもらう一方で、売上は100%これらの企業に渡るという仕組みとなっている。ベータでは電子機器を多く取り扱っており、同社の売りは製品の知識が豊富な店員と、カスタマーが購入前に実際に製品に触れて判断できることだ。だからこそ、オンライン販売を出発点としているD2Cスタートアップと異なり、ベータの事業にとって店舗は不可欠となっている。

5月第1週の週末に、同社はひっそりとヒューストンとオースティンの店舗を営業再開している。同社は営業再開についてカスタマーにメールで通知は行っていない。自発的に店舗を訪れるカスタマーがどれくらいいるか様子を見るためだ。当然ながら、客足は鈍い。ベータのヒューストン店は、8割の店舗が閉められたままのショッピングモールにある。同店には土曜日に26人、日曜日に14人が訪れただけだった。ベータの共同創業者兼CEOを務めるビドゥ・ノービー氏はコロナ禍の前に、Twitterで週末には平均で1000人が訪れていたと投稿している。

「ほとんど誰もいない巨大な施設内で営業するのは不思議な感覚だ。施設はあまりにも静かで暗く、流れている音楽の反響音が耳に残る。ショッピングをする場でこんな様子は見たことがない」と、同氏は語る。

感染拡大防止の独自ルール

テキサス州にあるベータの店舗は25%規模での営業が許可されているが、同社は店員1人につき1人または1グループのみが入店するよう制限を決めている。これにより店員はカスタマーが触った製品を把握し、店から出た後にその製品の消毒を行っている。

「消毒については、3月に店を閉めてから考えていたことだ」と、ノービー氏は語る。「全店舗でカスタマー1人または1グループにつき1人の店員を割り当てるべきだと考えている。いまの所、安全なショッピング体験を提供するための最善策だと思う」。

カスタマーはあらかじめ来店の予約をできるが、予約は必須ではない。ベータはカスタマーの入店前にマスクの着用を求めている。実際にヒューストンの店舗では、カスタマー55人に対してマスクを着用していないため入店を拒否している。「店員のための最善策だと考えている」と、ノービー氏は語る。「店員だけがマスクを着けているのでは不十分で、カスタマーにも同じことを求めたい」。

他社にとって光明となる兆し

ベータのいまの客足では、長期的に同社を支えることはできない。だが、まもなくの営業再開を考えているD2Cスタートアップにとって、光明となるような兆しもある。ノービー氏は、ベータのオースティン店で5月11日に12月23、24日に次ぐ売上を記録したと明かしている。店舗を訪れたのはわずか10名程度だったにもかかわらず、「来店したカスタマーは全員、高額の買い物をするつもりで来ていた」と、同氏は語る。母の日のプレゼントを求めてきたカスタマーもいた一方で、ワンウィールスケートボードを買っていったカスタマーが2人いたという。これはベータの売れ筋ではないのだが、購入者は、ほかでは売っていないため来たとのことだ。「そういった来客は通常では見込めない。いつもとは異なる様子ではあるが、当店に意図をもって来てくれるのは嬉しいという思いもある」 。

D2Cスタートアップにとって、ベータのこういった体験は営業再開に向けて参考になる点も多いだろう。各店で店員1人あたり何人のカスタマーを迎える用意があるかというのが1点。そして製品にカスタマーがどれくらい触るのを許すか、そして触った製品をどういった頻度で消毒するかというのがもう1点だ。

ギャップ(GAP)やコールズ(Kohl’s)といった小売大手の多くは、カスタマーが触った製品を把握しやすくするため、営業再開にあたって試着室を利用できなくすると発表している。そして最後に、買いたい商品を決めており、なるべくすぐに入店して店内にとどまる時間を短縮したいと考えているカスタマーに対して良い体験を提供することも重要になる。

「戻れるというのは本当に良い」

ノービー氏はベータのオースティン店やヒューストン店から結論を出すのは早急だとしつつも、同社は他店舗の営業再開やカーブサイド・ピックアップを提供する準備はできていると述べている。

「会社全体で見て、営業再開できるというのは気分が良いものだ」とノービー氏は語る。「実際に昨日、店舗を訪れて感傷的になった。同じ会社の人間と、あの場所に戻れるというのは本当に良いものだ」。

Anna Hensel(原文 / 訳:SI Japan)