これまでセールをブラックフライデーにしか行わないことを誇りにしてきたD2C各社が、その方針を転換しようとしている。春には、ロックダウンにより旅行用品やウェディングドレスといった商品需要が激減。夏から売上が回復し始めたとはいえ、コロナ禍による被害が大きかったこれら商品を扱う企業の売上は、いまだ落ち込んだままだ。
どのD2Cブランドにも共通するルールがひとつある。割引をしない、ということだ。従来型の小売企業であるベッド・バス&ビヨンド(Bed Bath & Beyond)やギャップ(GAP)のように、頻繁にセールを実施すると、消費者はセールを待つようになってしまう。
だが、かつてない状況が我々を取り巻いている今、それも変わろうとしている。これまでセールをブラックフライデーにしか行わないことを誇りにしてきたD2C各社が、その方針を転換しようとしているのだ。ラゲージ商品のスタートアップ、アウェイ(Away)は9月第2週に同社初のセールを開始。最大で50%オフの割引に踏み切った。また、エバーレーン(Everlane)は3月にはウェブサイトで大規模なセールを、5月には「通常は割引しない」商品を20から50%オフで販売した。高級バッグを扱うピークデザイン(Peak Design)もまた、8年ぶりにセールを開催している。
3月および4月には、ロックダウンにより旅行用品やウェディングドレスといった商品需要が激減した。夏頃から売上が回復し始めたとはいえ、新型コロナウイルスの被害がとりわけ大きかったこれら商品を扱う企業の売上は、いまだ昨年よりも落ち込んだままだ。
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ラゲージブランド「アウェイ」の場合
ソーシャルディスタンスの慣行が当面は続くと予測されるなか、生き残るために何らかのセールは避けられないと考えるスタートアップが増えている。だがこういった大規模セールを年に何度も行うと、在庫処分をセールに頼りすぎるようになるリスクがある。
アウェイのブランド担当シニアバイスプレジデントを務めるセレーナ・カルヴァリア氏は「はっきりさせておくと、当社はやむにやまれずセールを行ったのではない」と強調する。「当社製品の売れ行きは非常に好調であり、特にクリスマスシーズンは売上がさらに伸びる」。だがアウェイの共同創業者、ステフ・コーリー氏とジェン・ルビオ氏はパンデミックが始まった4月に売上が90%減少したと述べており、レイオフを余儀なくされている。
カルヴァリア氏は、具体的な数字については伏せたものの、アウェイの「売上の勢いはここ数カ月で増している」と述べている。さらに、アウェイのセール初日となった9月16日の売上は、過去5年間のブラックフライデーとサイバーマンデーを合わせた売上も上回ったという。カルヴァリア氏は、今回のセールに踏み切った理由について、今年末から2021年初頭に新製品を発売予定で、そのための準備であると語っている。
高級バッグブランド「カラー」の場合
アウェイに限らず、今年の在庫が処分できずに苦しんでいるD2Cスタートアップは少なくない。
高級バッグブランド、カラー(Caraa)のアーロン・ルオCEOは、現時点の判断として、コロナウイルスの流行期間中はサイト全体でのセールは開催しないと述べている。一方、ブラックフライデーに加えて、在庫が残り少ない一部商品の「ラストチャンス」セールだけは行う予定だという。ルオ氏は、カラーの4月および5月の売上は落ち込んだとはいえ、自社工場を有するため基本的には在庫処分セールは必要性を感じないと語る。
「自社工場のメリットとして、再注文が非常に迅速に行えること、最小注文量も非常に少なくて済むことが挙げられる」。
ルオ氏は、ブラックフライデー以外のセールには抵抗があると語る。それは「セール待ち」のカスタマーを生み出したくないためだという。だが、特に小売企業がコロナウイルスで打撃を受けている今、「セール待ち」が習慣になっているカスタマーが非常に多いというのが現実だ。
タキシードレンタル「ブラック・タックス」の場合
タキシードのレンタル商品を扱うスタートアップ、ブラック・タックス(The Black Tux)の最高マーケティング責任者を務めるマット・ギール氏は、米国で新型コロナウイルスのパンデミックが始まった頃から、カスタマーから「近々セールを行う予定か」と尋ねるメールが増えたと明かす。ブラック・タックスはレンタルだけでなく、新品スーツの販売も行っている。また、同社はレンタルでの提供を終える予定の古いスーツについても、レンタルサービスを利用したカスタマーに買い取りオプションを提供している。
「カスタマーは購入に強い興味を示している。現状、結婚式の予定日が変更になる可能性が高く、服を所有しておきたいと考える人が増えているのではないか」とギール氏は語る。
カラーと同様、ブラック・タックスもまた4月、5月の売上は落ち込んだという。夏頃には再び売上が伸び始め、秋に向けて伸び悩む状況が続いている。「現状は平行線」と語るギール氏は、「米国で新型コロナウイルスの状況が落ち着くまで待っている人が多いのではないか」と分析する。
レンタル客の減少に伴い、ブラック・タックスは5月に初セールを実施。古いスーツを40%から50%引きで販売している。 また、同社はこの売上の10%をCDC(アメリカ疾病予防管理センター)の基金に募金した。同社のセールは2カ月間行われた。これは「タキシードはすぐに決められる買い物ではない」ためだ。このセール期間の終了に伴い、同社はCDC基金に3万5000ドル(約370万円)を募金している。
「1回だけならダメージとならない」
EC業界のニュースレター2pm Inc.の創業者ウェブ・スミス氏は、従来型の小売企業の大半がブラックフライデーに向けて大規模セールを行うなか、それに先駆けてセールを行うD2Cスタートアップの売上は伸びるのではないかと予測する。同氏はアウェイのセールについて、「1回だけのセールでは、ブランドにとってのダメージにはならないだろう」と語る。
「新型コロナウイルスにより売上が落ち込んだ業界が、その後セールを行わなくなったとしても消費者が気にするとは思えない」。
[原文:DTC brands are rethinking their ‘never-go-on-sale’ rule]
ANNA HENSEL(翻訳:SI Japan、編集:長田真)