オンラインで誕生して店舗網を構築しつつあるDTC(Direct to Customer:ネット直販)ブランドが増えている。ポップアップストアで実験したり、リテールが成功しているかどうか漠然と考えたりしたあと、さらに大きな目標を掲げて、より速いペースで常設店舗をオープンし、出店数が2桁や3桁に達しているのだ。
もともとeコマース専業だった寝具・バスブランドのパラシュート(Parachute)は、カリフォルニア州ベニスに小売店第1号をオープンしてから2年が経った。そしていま、実店舗型リテールに大々的に進出しようとしている。
パラシュートは6月、事業参入から5年目を迎えるなかで、実店舗型リテールへの進出ペースを大幅に速める原動力にしようと、2度目の資金調達ラウンドで3000万ドル(約33億円)を調達した。先週は、サンフランシスコで常設店舗を1店舗増やし、1月7日まで営業予定のポップアップストアをシカゴにオープンした。パラシュートは現在、カリフォルニア州やニューヨーク州、イリノイ州、オレゴン州に常設や仮設の実店舗を計6店舗構えており、2020年までに実店舗を20店にする計画だ。売り上げに関する数字は明らかにしていないが、オンラインストアと実店舗は黒字だと主張している。
「オンライン専門でいることには一定のメリットがある。オフラインにはない速さで顧客獲得と販売を推進できる。だが、触り心地が問われる製品分野では特に、本物のブランドを育てるうえで、人々は自然な環境で製品を体験するのを好む。本物の関係を築くのに必要な人的側面がリテールにはある」と、パラシュートのCEOで創業者のアリエル・ケイ氏は語る。
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オフライン化するDTC
パラシュートが成熟し、オフラインに根付くなかで、オンラインで誕生して店舗網を構築しつつあるDTC(Direct to Customer:ネット直販)ブランドが増えている。DTCブランドが実店舗へと後戻りする第2段階と思ってほしい。ポップアップストアで実験したり、リテールが成功しているかどうか漠然と考えたりしたあと、さらに大きな目標を掲げて、もっと速いペースで常設店舗をオープンし、計画された出店数が2桁や3桁に達しているのだ。
たとえば、マットレスブランドの キャスパー(Casper)は8月に、3年以内に200店舗をオープンする計画だと発表した。アイウェア・ブランドのワービー・パーカー(Warby Parker)は、年内に100店舗を開店すると述べている。現在、小売店を2店舗構えているシューズブランドのオールバーズ(Allbirds)は、より大規模な店内拡大の資金のために、9月に5000万ドル(約56億円)を調達した。不動産会社のJLLは、5年以内にデジタルブランドが計850店舗をオープンすると予想している。
数字は嘘をつかない。パラシュートにとって、店舗内コンバージョン率は50%で、オンラインより10%高い。パラシュートの店舗がある地域では、オンラインでの平均支出が10倍に増加している。
「店内顧客のほうが全体的に好ましい顧客で、ロイヤルティを高めるのがここでの真の目標だ。店舗は商品を販売する場所だが、コミュニティを築く小規模な流通の中心地でもある」とケイ氏はいう。
ロイヤルティ構築が優先
ロイヤルティの構築はブランドの知名度に勝る。ケイ氏は、店舗からの出荷やオンライン購入、店内での受け取り、即日配達といった店舗内の物流管理を、顧客のつなぎ止めを促進する主要因と考えている。そうしたことをうまくやるために、ケイ氏はクロスチャネル戦略を軸にチームを築くと同時に、サードパーティのパートナーと協力して、もっとも困難な仕事の一部を担当してきた。社内での採用時には、実店舗とeコマースの小売りの両方に従事した経験がある人材を求めていると述べた。独立した店舗内リテールチームを結成して、eコマースチームと並行して活動するのではなく、実店舗型リテール担当者として雇われた者がすべての部署に接触する、とケイ氏はいう。
「店舗の壁を越えて存在しなければならない完全な市場開拓戦略だと考えている。データを利用して、適切な場所への店舗のオープンや、これらの店舗へのトラフィック誘導、マーケティング活動のローカライズ、在庫の適切な分配、製品のパフォーマンスがもっとも良い場所に関する考察を行わなければならない。市場ごとに違いがあり、リテールによってどんな事業も複雑になる。適切に行われなければ、注意をそらすことになる」。
ケイ氏によると、パラシュートは、店舗をオープンするたびに何かを学んでおり、そうした洞察をすべての新しい店舗に生かし続ける計画だという。たとえば、在庫のないショールームモデルはうまくいかなかった(人々は商品を購入してから店を出たがった)。似たような位置づけのDTCブランドの近くに店を出すと、客足を伸ばすのに役立つ。メディアミックスは開店とともに変化しなければならないといったことを学んできた。パラシュートは、マーケティング予算の一部を、店舗がある地域でのダイレクトメールやカタログにシフトしてきた。
あいまいになる境界線
「DTCブランドの規模が拡大するのを目にするうちに、『DTCとは何を意味するのか?』、『単なる正規の小売業者なのか?』と疑問を抱くようになる。それが目標だと思う」と、エージェンシー、ワークアンドカンパニー(Work & Co.)の創設パートナーであるモハン・ラマスワミー氏は語る。「ほとんどの人は、DTCという言葉についての考慮はしない。ブランドについて考えるだけだ。先行投資の費用が少ない会社を作るのが現代的なやり方なので、違った決断を下せる」。
顧客はDTCや、オフラインかオンラインか、という観点から考えず、便利な場所ならどこででもショッピングしたいのだと認識していると、ケイ氏も語る。
「現代の買い物客について考えると、ひとつの媒体に縛られていない。ひとつの媒体にブランドを存在させるのは、もう適切とは言えない」。
Hilary Milnes(原文 / 訳:ガリレオ)