いまや使い古されたDTC(Direct To Consumer:直販)戦略ノートには、小売りの中間業者を排除し、eコマース販売に特化し、高品質の製品を少ない利益幅で売り込め、といった戦略が書かれていた。振り返って見ると、DTCブランド時代の幕開けは、信じられないほど理想化されていた。【※本記事は、一般読者の方にもnoteにて個別販売中(480円)です!】
振り返って見ると、DTC(Direct To Consumer:直販)ブランド時代の幕開けは、信じられないほど理想化されていた。
いまや使い古されたDTC戦略ノートには、小売りの中間業者を排除し、eコマース販売に特化し、高品質の製品を少ない利益幅で売り込め、といった戦略が書かれていた。しかし、こうした戦略を成功させるには多額の費用が掛かる。
時が経ち、競争が激しくなるにつれ、こうした状況は悪化する一方となった。シリコンバレーの新興企業を彷彿させる資金調達ラウンドでの資金獲得は魅力的だが、残念なことに、年間売り上げを1000万ドル(約11億円)、または、幸運に恵まれればおそらく5000万ドル(約56億円)程度にまでしか増やせないアパレルブランドにとっては、無謀な行為になりうる。
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DTCブランドの運営や規模拡大に掛かる費用は、流通とマーケティングという、予算を食うふたつの主要な分野に充てられる。eコマースストア自体の立ち上げと維持に掛かる費用は、店舗網をオープンするのと比べれば、無きに等しい。オンラインなら、従業員の給与や光熱費、在庫関係の諸経費、不動産関係費を支払う必要がない。だがもちろん、人々をサイトに誘導するために金を払わなくてはならない。それに、業界の競争が激しくなるにつれ、顧客獲得に掛かる費用は急増してきた。
10セントが1ドルに
高級寝具ブランド、ボール・アンド・ブランチ(Boll&Branch)の創業者で、ベンチャーキャピタルのレッド5・キャピタル(Red5 Capital)も経営するスコット・タネン氏は、ブランドの創業者が、料金が法外なFacebookのターゲティング広告や有料検索広告、タイムズ・スクエアやニューヨーク市の地下鉄のような大規模な屋外広告キャンペーンを通じた顧客獲得に金を支出し、年に500~1000万ドル(約5600万〜11億円)を使い果たすのを見てきたという。バークボックス(BarkBox)やブルックリネン(Brooklinen)などのブランドは、Facebookだけで、年間の広告予算の75%を支出していると報告している。
そして、比較的新しいDTCブランドが従うべき市場のルールは、ワービー・パーカー(Warby Parker)やボノボス(Bonobos)といった老舗ブランドが従っていたルールとは異なる。小売り関係のコンサルティング会社ルース・スレッズ(Loose Threads)によると、2012年に10セントで獲得できたFacebookのインプレッション数をいま獲得しようとすると、1ドルの費用が掛かるという。
ルース・スレッズの創業者リッチー・シーゲル氏は、「この分野が進化するにつれ、そしてGoogleやFacebookのような企業が貸借対照表のバランスを書き直すにつれ、エコシステムが変化した。ブランドがリーチから利益を得たければ、有り金をはたく必要がある」と語る。「かつてeコマースは、無限に成長する見込みがあると考えられていた。ウェブサイトを立ち上げれば、そうなると思われていた。実際は、それとはほど遠い」。
オンラインからリアルへ
オンラインでの顧客獲得が頭打ちになったこうしたDTCブランドは現在、長年にわたって従来の小売りを支えてきた領域に向かっている。最初に向かったのは実店舗だった。リフォーメーション(Reformation)の創業者ヤエル・アフラロ氏によると、1店舗の開店に約100万ドル(約1.1億円)掛かるが、現在は13店舗をもっており、どの店舗でも、半年以内に元が取れる(黒字になる)という。
また、市場テストのため、一時的なポップアップストアを開店するのが当たり前になっている。試験的小売り専門のコンサルティング会社、ザ・ライオネスク・グループ(The Lionesque Group)の創業者メリッサ・ゴンザレス氏によると、常設ストアより短期のストアを開店するほうが、ブランドが負担する費用が約20~50%少なくなくて済むという。だが、こうしたブランドの作戦に不動産業界が気がついているので、イベント用ポップアップ店舗は費用が嵩みつつある。マイエット(Maiyet)とフォー・デイズ(For Days)の創業者であるクリスティ・テイラー氏によると、ポップアップ店舗の開店費用は現在、常設店舗の開店費用と同程度の場合もあるという。
リフォーメーションのアフラロ氏は、「成長中のブランドにとって、実際の成長の仕方は何通りあるのだろうか?」と問いかける。「ブランドと有料マーケティングは、一定の成長しか、もたらさない。実店舗は、多くの仕事と投資を伴うのでリスクはある。だが、3人のマーケターを雇って100万ドルを支出して、多くの顧客を一度だけ獲得するべきか。あるいは、同じ100万ドルを使って、多くの顧客を10年間獲得するべきか、だ」。
最後の方策は「卸売」
最後の方策は、卸売販売だ。ノードストローム(Nordstrom)のようなデパートは、DTCブランドに対して、標準的な売買要件を曖昧にしている。これは、当初の計画としては卸売のマージンを計画に入れていなかったアウターウェアブランドのザ・アライバルズ(The Arrivals)のようなDTCブランドにとっては、元が取れるもうひとつのマーケティング形態だ。ルース・スレッズのシーゲル氏は、DTCがこうした方式を進めることにより、卸売での提携が、平均して売り上げの15%程度を占めるようになると予測している。
「コストダイナミクスは大して変わらない。ブランドは、1回の売り上げの半分を広告に費やしていたかもしれないが、同じ半分がノードストロームのようなパートナーに行くわけだ」と、シーゲル氏は述べる。「つまり、Facebookなどの有料のリーチ獲得方法ではなく、ノードストロームからリーチを獲得するわけだ。それで損失は出なくなるだろう」。
Hilary Milnes(原文 / 訳:ガリレオ)