D2C が切り開く、新種「アルコール」ブランドの時代

D2C(Direct to Consumer)は、酒類業界にも浸透しつつある。

独立系企業やコングロマリットの有する新しい酒類ブランドが、オンラインコンテンツとマーケティング戦略を活用してアルコールに興味のある若年層へアピールを行っている。マットレスやカミソリ、スポーツウェア、化粧品、家庭用品などと異なり、酒類はこれまでD2Cではあまり見られなかったカテゴリーだ。いくつかの法律上の抜け穴や訴訟での勝利を経て、ハウス(Haus)やエンパシーワインズ(Empathy Wines)、ワン/ウォッカ(One/Vodka:ペルノ・リカールの保有ブランド)といったオンラインの酒類ブランドは新しい成長戦略を見出しつつある。

伝統的に米国内の店舗で販売されている酒類は、3階層モデルと呼ばれるシステムに従ってカスタマーに届けられる。酒類メーカーは酒類販売業者(ディアジオやペルノ・リカールなど)にのみ販売できるようになっており、販売業者は小売業者へと販売する。このモデルでは、米国内で酒類を販売できるのは選ばれたブランドだけだ。だが米国の法律ではワインや度数の低い酒類についてはこのシステムを回避して消費者に直販できるようになっている。ワインメーカーはこれまでも、ウィンク(Winc)やワイン・クラブ・オブ・ザ・マンス(Wine Club of the Month)、ネイキッド・ワインズ(Naked Wines)といったサブスクサービスでワインの直販を行ってきた。

ブランドがクリアすべき課題

酒類ブランドが直販を重視するようになったのは、オンラインでの酒類の購入が主流になりつつあるためだ。ロボバンク(Rabobank)によると、2017年の米国内での酒類の売上は17億ドル(約1870億円)となっている。ガートナーL2(Gartner L2)の調査によると、2019年、オンラインで酒類の売上は2018年と比べて61%増加しており、これは業界全体の売上変化を大きく上回っている。最近米国では酒類販売の落ち込みばかりが報道されがちだが、D2C分野における販売はまだはじまったばかりだ。

ECの酒類ブランドにとってクリアすべき課題は、これまでオンラインで酒類を購入したことがなかった人たちにいかに購入に踏み切らせるかとなっている。そこで役に立つのが、D2Cスタイルのブランディングだ。ハウスは6月にローンチされたばかりの食前酒ブランドだ。同ブランドは富かなミレニアル世代へと直接マーケティングとブランディングを行う戦略を採用しており、1ボトルあたり35ドル(約3800円)の価格を設定し、ブランディングについてD2Cエージェンシーのジンレーン(Gin Lane)と提携している。オンライン限定の健康を意識した、ハードアルコールの代替品という位置づけだ。

独立系エージェンシーのヴェイナーメディア(VaynerMedia)の元トップ、ニック・シャーマ氏は「さまざまなブランディングの試みが登場している」と指摘する。「ストーリーに基づいた、周到なブランディングが必要なのだ」。シャーマ氏は飲料分野のスタートアップ、ヒント(Hint)のECを支援した後、ヴェイナーメディアで同社のワインブランド、エンパシーワインズの立ち上げを行った。

同氏はヒントでもエンパシーワインズでも、新しいブランドをゼロから作り上げるとともに、消費者が直接購入してもらえるようにする必要があったと振り返る。そして何よりも重要だったのが人々の心に残るようなブランド作りだったという。オンラインで酒類を購入するカスタマーについて、シャーマ氏は「新しいウォッカやワインを求めているから購入するのではない」と分析する。彼らが求めているのは何か特別なものであり、「創業者の話を伝えることが差別化につながることも多い」という。「ブランドエクイティがあるから購入する」のだと同氏は語る。

若い消費者へ提供する努力

シリコンバレーバンク(Silicon Valley bank)のワイン部門の創設者でエグゼクティブバイスプレジデントのロブ・マクミラン氏は、ワイン業界でD2Cが勢いを増しているのは自然な流れだと指摘する。現在はあまりにも少数の流通業者が店舗で販売される酒類の大半をコントロールしている。そのため良質なワインを作っていても、商品を直接販売せざるを得ないワイナリーもあった。何十年ものあいだ行われてきたのがワイナリーの敷地でテイスティングを行い、地元で売るという手法だ。Amazonなどの台頭によって他社はオンライン販売へとシフトしていったなか、多くのワイナリーはアナログなやり方のままだった。マクミラン氏はこれについて「あまりにも非効率的」だと指摘する。

そして現在、こうした酒類企業はデモグラフィックに注目するようになっている。ベビーブーム世代が年を取るとともに、あまり良質なワインについて詳しくないミレニアル世代の割合が増えている。同氏がトップクラスの1000のワイナリーに対して毎年実施している調査によると、こうしたワイナリーのワインは若年層にあまり売れていないという。

「ワイン市場では、若い消費者のシェアはまったく増えていない」と、マクミラン氏は指摘する。

同氏は、ワイン業界はいま「若い消費者が購入できるような価格で、欲しいと思わせる商品を提供するための努力」が必要だと気づきつつあると語る。何十年ものあいだ、ワインは特定世代にだけマーケティングされてきた。それが、いま変わろうとしているのだ。

「酒にもクリーンさが求められる」

新しいブランドと新しいマーケティング戦略は良好な結果をもたらしつつある。たとえばエンパシーワインズのサブスクには2000以上が登録しており、2018年のローンチ以降7000以上の商品を届けている。サブスクは年に243ドル(約2万6200円)から、1回限りの購入は81ドル(約8800円)からとなっている。ブランドからのメッセージとして、ワインだけでなくブドウ農家にスポットライトを当てて彼らへの支援を打ち出している。またハウスは売り文句としてアペロールよりも糖分が少なく、大半の蒸留酒よりも低い度数をうたっている。同社によるとオンラインストアには4万人以上が訪問し、初回生産の5000ボトルは開始から12時間以内に売り切れている(買えなかった人のために7月10日に2回目の生産分が販売された)。

シャーマ氏はこれについて、新種のアルコールブランド時代の幕開けだと指摘している。「いまや誰もがクリーンさを求めている」と、同氏は指摘する。「酒についてもクリーンさが求められる時代なのだ」。マクミラン氏もこれに同意しており、若い世代は「自分が口にするものについて何が入っているかを知りたがる」と語る。新しいブランドはこういった考えに沿った商品を提供しようとしており、サプライチェーンや原材料のリストに関する透明性もD2Cブランドでは一般的な戦略だ。

100年の歴史を持つ酒類市場において、デジタルな業界全体のリブランディングはまだはじまったばかりだ。だが昔ながらのトレンドに従わないで成功する小規模ブランドが増えていけば、今後新たな戦略が主流となっていくのではないだろうか。

シャーマ氏は次のようにも述べている。「注目すべきは、魅力をアピールする戦略が重視されるようになったとき、そうした魅力を欠くブランドがどのようにして生き残っていくかだ」。

Cale Guthrie Weissman(原文 / 訳:SI Japan)