2020米大統領選 は、デジタルがテレビをはじめて凌駕する:「デジタル広告は試験台」

2020年の米大統領選挙はFacebookの政治的宣伝に関する役割について新たな議論を巻き起こしただけでなく、候補者の宣伝方法についても疑問を投げかけている。今回の選挙ではじめてデジタルがテレビよりも大きな影響力を発揮するのではないかと注目されているのだ。

現在、デジタル広告にこれまで以上に宣伝費用が投じられているのは事実だ。ウェスリヤン・メディア・プロジェクト(Wesleyan Media Project)のアナリストらによれば、9月に候補者らがFacebookとGoogleの広告に投じた総費用は6090万ドル(約66億円)で、これはテレビCMに投じられた1140万ドル(約12億円)よりもはるかに大きい。トランプ大統領がGoogleとFacebook、YouTubeに投入した大量のデジタル広告を見ても、これらプラットフォームが今回の選挙でいかに重視されているかは明らかだ。

だがメディアバイヤーとデジタルアナリストは政治におけるテレビCMの役割はまだまだ大きいと考えている。彼らはむしろこういった候補者(特にトランプ大統領)によるデジタル広告の増加について、デジタル広告をオンラインにおける一種のフォーカスグループとして活用しようとしているためだと分析している。

3Qデジタル(3Q Digital)の戦略開発担当バイスプレジデントのアレックス・ファンク氏は「現状から見えてくるのは、デジタルをたたき台とする姿勢だ。候補者の勢いをつけるキャンペーンのプラットフォームにしようとしている」と語る。「選挙が近づくにつれてテレビCMの数は増えていくだろう。だが、それまでデジタルストラテジストは、候補者の宣伝をさまざまなプラットフォームに分散させるはずだ」。

デジタル広告が候補者がキャンペーンのメッセージをテストする場として適しているのは、レスポンスが早く、比較的安価なためだ。プラットフォームで多数のクリエイティブコンテンツを導入して、どれが効果的なのかを見極めることができる。デジタル広告に関してオンラインで有権者からフィードバックを受け取り、それを選挙日の6から8週間前に放送されるテレビキャンペーンに活かす。また、候補者がどの有権者に対して、より時間を割くべきかを決めることもできるのだ。

「いかにデータを取得するかの争いだ」と語るのは、これまで政治キャンペーンにおけるデジタル広告に携わってきたソーシャル・アウトライアー(Social Outlier)のマネージングディレクター、ニック・ベネツィア氏だ。「あとで乗り遅れることのないように、いまから参加できるというメッセージを送りはじめることが重要となる」。

政治におけるデジタル広告への移行はここ10年間のトレンドとなっている。メディアバイヤーとデジタルストラテジストはバラク・オバマ前大統領が2008年に打ったFacebookの広告がターニングポイントだったと指摘している。だが、デジタル支出は今回の選挙で過去にない規模にまで拡大している。カンター(Kantar)は、今回の選挙全体で60億ドル(約6500億円)が広告に投じられるだろうと予測している。そのうち20%にあたる12億ドル(約1300億円)がデジタルに、53%にあたる32億ドル(約3500億円)が地上波および衛星テレビに、20%にあたる12億ドル(約1300億円)がケーブルテレビに用いられる予想だ。そしてテレビの合計が全支出の73%、デジタルが20%を占めるとされている。

「支出自体が増えている」と、カラUSA(Carat USA)の戦略担当ニシアバイスプレジデント兼分析担当リーダーを務めるヘイリー・パース氏は指摘する。「まだ選挙の年でもないのに過去にないレベルの支出が行われている。自分たちのやっていることに関するクリエイティブがどんどん増えていくだろう。とりわけオウンド、アーンド、ペイドメディアではトランプ氏がすでにやっているように増えていく見込みだ」。

デジタルの実験

ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)の最近の報道によれば、トランプ大統領はさまざまなメッセージと、FacebookやGoogle、YouTubeなどのクリエイティブフォーマットの活用を試みており、広告ごとに数十のバリエーションを展開しているという。このようにデジタル広告でメッセージを試し、リアルタイムでフィードバックを確認して、必要な修正を行うというプロセスが候補者たちのあいだで行われている。デジタル広告はオンラインのフォーカスグループとして、どういった広告が効果的かを候補者に教える役割を担う。さらに、どういったストーリーが有権者の共感を得られるかといった、選挙戦の後半で参照できるデータを大量に取得できる。

たとえば、10月9日にトランプ氏のチームが同じ広告を別のふたつのバージョンでTwitterに投稿した。内容は同じだが、フォントと全体のデザインは大きく異なっていた。一方ではトランプ氏が水色の背景に手を振っている写真で、米国旗に白字で「トランプ大統領を支持している方は、この調査を受けてください」という文章が掲載されている。もう一方の広告は、トランプ氏が聴衆を背景にスピーチを行っている写真で、1枚目よりもかなり暗いトーンの色使いとなっている。

候補者たちは実験とアルゴリズムによるメリットを享受している。「メッセージを多く打ち出すほど、キャンペーンが改善されていく」と指摘するのが、デコーデッド・アドバタイジング(Decoded Advertising)の創業者兼CEOマット・レドナー氏だ。「だが、当社のクライアントを見ていると、メッセージが5を超えたあたりと、50から60を超えるあたりでCPAが落ちはじめる。そして代わりに広告のほうがパフォーマンスがよくなる。また、テレビはたくさんのメッセージを出すには俊敏性が足りない」。

フィードバックループ

デジタル広告から候補者が受けるフィードバック、とりわけソーシャルプラットフォームにおけるフィードバックは重視すべきメッセージと分野を浮き彫りにする。こういったメッセージの仕分けとリアルタイムのフィードバックというデジタル広告の長所が候補者たちの目に魅力的に映っているのは明らかだ。また、テレビよりも有権者に行動を呼びかけやすいのも、デジタル広告の特徴となっている。

「予算が限られている場合は、コストパフォーマンスを最大化する必要がある」と、パース氏は語る。「募金や支援、行動を呼びかける場合に、テレビでは即座には行えない。Facebook広告であれば、クリックすれば募金のページにすぐに飛べる。オーディエンスからすれば、はるかにシームレスであり、募金のROIという面でも圧倒的に優れている」。

特にトランプ氏はペイド広告で有効な指標について、ほかの候補者よりも一足先をいっており、広告の多くでキャンペーン商品の購入を呼びかけている。ほかの候補者も商品販売は行っているが、トランプ氏ほど広告を活用していないようだ。

「トランプ氏は広告で商品販売を通じて、投票に関してこれ以上無いほど有効なフィードバックループを手に入れている」と、レドナ-氏は語る。「投票は長期にわたるものではない。いいね!やコメント、シェアといったものは投票に結びつくとは限らないが、トランプ氏はまるでブランドのように広告をコマースに結びつけている。これによって有権者が実際に商品を購入するかを確認できるフィードバックループが完成する。これを通じてメッセージが有権者に行動をうながしているかを把握できるのだ」。

ペイドメディアだけではない

候補者からのオンラインメッセージは、必ずしもペイドメディアに限定されるわけではない。来年7月に民主党候補者が指名されるまで厳しい予算で戦うことを強いられている一部候補者は、オンラインでアーンドメディアとオウンドメディアを戦略的に活用しようとしている。たとえばバーニー・サンダース氏は、ラッパーのカーディB氏などセレブを活用したり、ジョー・ローガン氏のポッドキャスト番組へのサプライズゲストに登場したりといった形でオンラインで話題になっている。またエリザベス・ウォーレン氏は支持者と7万枚近い自撮り写真を撮っており、アンドリュー・ヤン氏はレディット(Reddit)で10時間にも渡って質疑応答を行った。

「今回の選挙のメディアストラテジストたちは、ペイド、アーンド、オウンドメディアそれぞれについて良く理解しており、それぞれの力をフルに活用しようとしている」と、パース氏は分析する。

アーンドとオウンドメディアで有権者に効果的かを見出す戦略は、ペイドメディア戦略にも貢献するだけでなく、民主党候補者が指名されてからも有益だ。民主党候補者らはトランプ大統領ほどデジタルの有料広告を使っているわけではないが、メディアバイヤーやアナリストらは候補者が絞られてくるにつれて投下される額は増えてくるだろうと予測している。来年7月に民主党全国大会での民主党候補者が発表されれば、デジタル広告が劇的に増加する可能性は高い。

「現在は候補者ごとに別れている状態だ」と、ベネツィア氏は分析する。「各候補者がそれぞれのメデイアバイヤーやエージェンシーを選んでいる。民主党全体として統一された力が働いているわけではない。民主党候補者が決定すれば、大物たちが一斉にデジタルに向けて動き出すはずだ。彼らにはそれだけの資金力がある。現状は、まだメディアバイヤーが統一されていないのだ」。

テレビは後から

現在、デジタルがテレビよりも利用されているのは、いまが選挙戦の前半だからであり、単にタイミングの問題だ。テレビ業界の専門家によれば、地上波や衛星テレビへの支出は選挙の6から8週間前の放送に対して使われることが多く、選挙戦の前半ではテレビよりデジタルにキャンペーン費用が使われるという。そして選挙戦が後半に差し掛かるにつれて、テレビに使われる費用が増えてくる。

「デジタルチャンネルにはすでに、かなりの投資が行われている」と、プラットフォームGSK(platformGSK)で、米国およびグローバル戦略担当EVPを務めるシャン・ビリョーネ氏は指摘する。「伸びているのは間違いないが、今年がテレビからデジタルへの転換点にはならないだろう。Facebookで全有権者にリーチできるわけではない。いまだにテレビのほうがリーチできる人数は多く、重要であることに変わりはない」。

Kristina Monllos(原文 / 訳:SI Japan)