デジタル広告で広告撤退の動きが見られるが、こうした動きは思いがけない勝者を生み出した。未成熟な新興市場だ。透明性では成熟市場に劣るが、広告主からすると、はるかに低いコストでより大きな見返りを得られる。多くのマーケターが、短期的にはビジネスが成長していないヨーロッパや北米などの市場のメディアを捨てようとしている。
デジタル広告で広告撤退の動きが見られるが、こうした動きは思いがけない勝者を生み出した。未成熟な新興市場だ。透明性では成熟市場に劣るが、広告主からすると、はるかに低いコストでより大きな見返りを得られるからだ。
メディア幹部たちによると、多くのマーケターがこのように判断して、短期的にはビジネスが成長していないヨーロッパや北米などの市場のメディアを捨てようとしている。デジタルの非効率さは世界共通だが、マーケターにかかるコストは、成熟市場と比べると未成熟市場の方が大幅に低い。
リスクも折込済みで
そこで、オンライン広告業界で高まる透明性の要求に対処しようとするマーケターたちは、マージンを維持するために、アジアやアフリカの未成熟市場に予算をますます移している。プログラマティックによって予算の地理的な移動がしやすくなっているなかで、多くのマーケターが、どの地域の投資利益率が短期的にいちばん高いかを考えるようになっている。
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そのような地域はアジア、アフリカ、中東で増えているが、その一部には、詐欺や、不十分な測定といったリスクもまん延している。それでも、市場のオーディエンスが大きいので、その分、広告による売上促進が安価でかつ期待できる可能性があるのだと、あるメディアコンサルタントは、匿名を条件に米DIGIDAYに語った。
「多くのクライアントが、米国やヨーロッパで(広告によって)ダイヤルを動かすのは難しくお金もかかると悟り、代わりに東南アジアに予算を移している。本当の測定はできないかもしれないが、ダイヤルを、もっと低いコストでもっと急速に動かせるからだ」と、このコンサルタントは語る。「予算の多くがアジアに移っている状況が見られる」。
短期志向の広告主
IABシンガポールと調査会社eマーケター(eMarketer)によると、東南アジアの主要市場であるインドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、およびベトナムをあわせたデジタル広告支出は、2017年には20.4%増えて20億7000万ドル(約2200億円)になりそうだ。ただし、東南アジアのようなしっかりとした測定業界がない市場に予算をつぎ込むと、この業界における透明性の問題は、改善するどころか悪化する危険がある。
しかし、ゼニス・メディア(Zenith Media)の創設者のひとりで人材派遣会社360xecを創業したスティーブ・ハイド氏は、予算を未成熟市場に移しているマーケターは、うまく行っている投資とそうでない投資を見守りながら行っていると述べた。同氏によれば、より短期志向の広告主は、「領域ごとに(投資を)ヘッジするのに近いことができる」かどうかを慎重に考慮している。これは、全面的で戦略的な再配置ではない、各市場の短期的な小さい調整による「自信と結果」につながる。
「(広告主のなかには、)6カ月より先を見ている者が事実上いない。6カ月以内であれば、何だって起きうる」と、ハイド氏は述べる。「進行中の(メディア戦略の)微調整が大幅に増えている。長期のコミットメントがないからだ」。
より幅広い市場に影響
WPPとハバス(Havas)が先日それぞれ発表した成長予測は、広告主のこうした支出行動の変化が、より幅広い市場に影響していることを示している。売上最大の広告持ち株グループであるWPPは8月、2017年で3度目の成長予測の修正を行った。同社のCEO、マーティン・ソレル氏は、その理由のひとつは、「不確実性と短期主義がクライアントの投資を抑制していること」だと語った。その2日後、ハバスが2017年に関する自社の成長予測を破棄した。
エージェンシーが本当に懸念すべきなのは、予算が減ってきていることではない。調査会社のピボタル・リサーチ(Pivotal Research)は、大手ブランドは2017年いっぱい、広告支出を現状維持するだろうと予測している。懸念されるのは、予算が動き回っていることだ。市場間でオンライン予算を移動させる広告主が増えるほど、エージェンシーは、いま使われている額がわからなくなる。つまり、自社の予測にも、それに基づく投資にも、自信が持てなくなる。これは、大手のメディアバイイング会社によるクライアントのお金の使い方を巡る、すでに不安定な状況をさらに悪化させるだろう。
Seb Joseph (原文 / 訳:ガリレオ)
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