MANAGING THROUGH CRISIS

日本のブランドたちは今年、何を選んで、何を捨てたのか?: DIGIDAY BRAND LEADERS で学んだ5つのこと

たとえ、コロナ禍がなくとも、2020年は「大きな変革」の年だった。

Google Chromeブラウザにおける「サードパーティCookieのサポート終了」の決定や、NHKを皮切りに開始された「テレビ番組のネット同時配信」。さらにインターネットとの付き合い方が大きく変わる「5G通信のサービスイン」や、厳格化された「改正個人情報保護法の成立・公布」。そして、ブラック・ライブス・マター(Black Lives Matter)運動などに代表される世界的な「ダイバーシティ&インクルージョンの流れ」などによって、ブランドマーケティングにはさらなるアップデートが求められるようになったからだ。それが、コロナ禍によって、さらに加速されたと言っていいだろう。

そんな2020年に、日本国内で活動するブランドたちは、何を選んで、何を捨てたのか? 11月6日にリッツ・カールトン東京で開催されたDIGIDAY[日本版]主催のイベント「DIGIDAY BRAND LEADERS(以下、DBL)」では、ブランドリーダーたちが自身のニューノーマルを構築するために行った「取捨選択」の一部始終を棚卸しし、新しい時代におけるブランドのあり方を議論した。

本記事では、DBLのラップアップとして、5つの学んだことを紹介する。

◆ ◆ ◆

1, 平常心

DBLでのセッションを聴講していると、コロナ禍においてマーケターにまず求められるのは、平常心であることがわかった。リアル店舗が閉鎖され、リモートワークが普及し、街の姿が一変しても、以前と変わらぬものも意外と多い。かつて経験したことのない異常事態に思考停止することなく、変わったものと変わらぬものの機微を読み取り、的確に施策へ落とし込んでいく必要があるのだ。

トミカやリカちゃんなど、親子3世代に渡って長く愛される玩具ブランドを持つタカラトミーも、コロナ禍によって直営店や小売店が閉鎖され、リアルチャネルの売上は大幅に落ちた。しかし、玩具業界の長い歴史のなかで、「世の中の不況時でも(玩具)市場は落ち込まず、好景気でも市場規模も変わらない」ということがわかっていたと、同社NEXTビジネス本部 NEXT事業室 室長を務める木村 貴幸氏は、セッション「やはり『玩具業界』は不況に強かった!?:新時代へ、タカラトミーの打ち手と勝算」で語る。

そこで、タカラトミーは「ネット通販の購入を参考に、Webを活用して商品の魅力を伝える」方向へシフトした。たとえば、YouTube タカラトミーチャンネルのコンテンツを充実させたり、小売店向けにデジタルカタログやビデオ商談・リモート商談を企画したり、ユーザー向けにリモート体験会を実施したりなどだ。そのおかげで、やはり今回の危機においても、いまのところ大きな損失を招くことなくやり過ごせているという。

なお、平常心を選んだものとすると、捨てたものは「既成事実」や「固定観念」といえるだろうか。

2, 原点回帰

また、今回のような一大事が起こり、なにはともあれ、まずは原点に立ち返ったというブランドは多かった。これまでさまざまな活動をしてきたなかで、突然行動を制限され、本来なにを成すべきなのか、あらためて取捨選択を行ったということなのだろう。

DBL開始早々に実施した「Town Hall Meeting」では、参加者に事前回答してもらったアンケートの結果を共有した。そのアンケートの設問は、ずばり「2020年、何を選んで、何を捨てたのか?」という、今回のメインテーマと同じものだ。そこで「選んだもの」の回答として目立ったのが、「ブランドパーパスにもとづくマーケティングコミュニケーション」「本質への回帰」「ブランドの本質に特化すること」「原点回帰し、戦うこと」というような内容だ。

さらに、最近、西友に転職した、同社マーケティング&カスタマーエクスペリエンス ヴァイスプレジデントの石谷桂子氏のセッション「メーカーからリテールへ:コロナで異業種転職した、ブランドマーケターの『本懐』」でも、そんな原点回帰が大きなトピックとして語られた。「コロナ禍に直面して、あらためて感じたのは、ブランドビルディング・エクイティの重要性だ。消費者に選ばれるサービス、商品力、人、製品、企業としての一貫性を追い求めなければならない」。

ちなみに、原点回帰を選んだものとすると、捨てたものは「求められていない変化」や「不採算事業」などになりそうだ。

3, 健康的な成長を目指す

株式会社グラニフ執行役員の大西理氏とD2Cアパレルブランド「foufou」を運営する高坂マール氏が登壇した、セッション「ファッション業界は今後、なにを持って成功とすべきか?」では、「健やかなる成長」がテーマのひとつとなった。ファッション業界ではいま、大量生産・大量廃棄を前提とした旧来のビジネスモデルが立ち行かなくなっている。そんななかで、この新旧の独立系アパレルブランドは、「健やかなる成長」に戦い方の鍵を見つけているという。

「僕らは大量生産、大量廃棄をしていないだけで、『エシカル』でも『サスティナブル』でもない」と、高坂氏は語る。「ものづくりというのは、その行為自体がすでに加害的だ。何を作っても、少なからず環境の負担になることは間違いないし、周囲の人間にも労働力や金銭などの負担を強いることになる。だからこそ、無理な成長を図らずに『健やかなる成長』を目指していきたい」。

そうした高坂氏の考えに対して、グラニフの大西氏は、株式会社の経営メンバーとして売上の拡大は、目指していかなくては行けないことだと語る。だが、「部下には、『もう売上って言わなくていいよ』と伝えられる世界を作ろうと思っている」という。「その代わり、『今日、何人のファンを作った?』と問いかけていきたい。少しでもファンを増やしていくことを目指そうと思っている」。

また、健康的な成長を選んだものとすると、捨てたものは「獲得優先の考え方」や「低エンゲージメントの一見客」といったところか。

4, 人材をアセットとみなす

従来のように、同質の人間だけを揃えれば、たしかに効率もあがり、ストレスも少なく仕事が進むだろう。しかし、不確実性の高い時代に、そうした旧来の体制では対応できないことも増えてきた。つまり、現在のような状況において「人材」は、消費されるだけのリソース(資源)でもキャピタル(資本)ではない。将来的に収益をもたらすアセット(資産)にしておかなければいけないのだ。

アドビ株式会社でマーケティング本部 バイスプレジデントを務める秋田夏実氏が登壇したセッション「『マイベストチーム』は、いかに作られたか?:コロナ禍を物ともしない組織論」では、ダイバーシティ&インクルージョンをいかにビジネス貢献に結びつけるかが語られた。パンデミックがはじまる前段階だった2月、早々に危機を感じ取った同氏は、100名に及ぶ部下を躊躇なくリモート体制に移行させた。にも関わらず、常時と変わらず、さまざまな成果を上げ続けられているという。

「これを実現できたのは、以前から多様な人材、多様な視点、多様な働き方を求めてきたからだ」と、秋田氏は語る。実際、現在の彼女のチームは、均等な男女比を維持し、年齢、社歴、背景、国籍も多様化しているだけでなく、海外で生活する人間も社員として受け入れている。「このような時代のリーダーは、コンフォートゾーンを抜け出し、自分を変え、成長することをチームに促さなくはならない。リーダーが自ら、その姿勢を見せることが必要だ」。

もし、人材をアセットとみなすことを選んだものとするならば、捨てたものは「一極集中」や「効率化」となるのだろう。

5, 次世代のコラボレーションを目指す

コラボレーションの重要性は、年々高まっている。しかし、その意味合いは、大きく変わってきたようだ。というのも、これまでコラボといえば、互いのIP(知的財産)を相乗りさせたり、余剰のリソースを提供し合ったりというイメージが強かった。だが、ここに来て、それ以上のつながりーー連携プレイが可能になってきたのだ。その糊しろとなるのが、「データ」である。

日本アイ・ビー・エム株式会社でパフォーマンス・マーケティングの理事を務める、風口悦子氏が登壇したセッション「デジタルファースト時代の『B2Bマーケティング』再考:新しいヒューマンチャネルの可能性」では、B2Bにおいて重要なリアルイベントの消失によって、営業とマーケティングの関係性が大きく変わったことを共有してもらった。イベントがオンライン化するなかで、お互いにデータを共通言語として話し合うようになり、より建設的な関係が構築できたのだという。

また、ワーキンググループディスカッション「みんなで考える、新しいデータ活用の世界」では、いま注目を集めている、生活者が自ら進んで提供する「ゼロパーティデータ」を他企業間で相互利用して、どんなサービスを構築できるかについて議論してもらった。いまはプライバシー規制の強化がことさら強調されているように思うが、データ利用のルールがしっかりと定められ、正しく活用できるようになったら、このような取り組みによって、より豊かな価値をユーザーに提供できるようになるであろうことを、参加者全員でシミュレートできたと思う。

次世代のコラボレーションを選んだものとすると、捨てたものは「囲い込み」や「前例主義」となるのかもしれない。以上、我々がDBLで学んだ5つのことだ。

ちなみに、DIGIDAY[日本版]も、この11月よりタグラインを「GAIN AN EDGE, MAKE SMARTER DECISIONS 〜エッジを獲得し、よりスマートな決断を〜」と新たに定め、気分一新編集に取り組んでいる。

Written by 長田真
Photo by 渡部幸和