[ DIGIDAY+ 限定記事 ]ユニリーバ(Uniliever)がインフルエンサーマーケティングのエコシステムの大掃除にとりかかると発表してから約1年。同社はこの取り組みが、言うは易く行うは難しと認める。インフルエンサー不正問題に万能かつ100%の解決策は存在しない現実を突きつけられているという。
[ DIGIDAY+ 限定記事 ]ユニリーバ(Uniliever)がインフルエンサーマーケティングのエコシステムの大掃除にとりかかると発表してから約1年。同社はこの取り組みが、言うは易く行うは難しと認める。
ユニリーバの不正撲滅ミッションは、同社の積極的な最高マーケティング責任者、キース・ウィード氏が推し進める「責任(responsibility)」フレームワークの一環だ。同社の「責任あるインフラストラクチャー」戦略にはいくつかのポイントがある。プラットフォームやパブリッシャーに支払われる広告費のリーチとインパクトの定量化や、より高い水準の透明性の確保などだ(加えて、広告および社員のジェンダー・人種的多様性アップの取り組みも含まれる)。
イニシアチブ発表の際、インフルエンサーマーケティングはマーケターにとって、すでに新興分野から高度かつ重要なチャンネルへと発展しつつあると、ウィード氏は述べた。発展は同時に複雑化も意味する。昨年6月、ウィード氏とユニリーバは、フォロワーを購入しているインフルエンサーとは今後仕事をしないと明言し、透明性と指標の明確化を推進するパートナーを優遇するとした。
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1年近く経ったいま、ユニリーバの取り組みはある程度の進展を見せたものの、インフルエンサー不正問題に万能かつ100%の解決策は存在しない現実を突きつけられていると、同社の幹部はいう。
改善の兆候はあり
ソーシャルメディアを監視するのは困難だ。そもそも、同社はインフルエンサーマーケティングの効果に関して、プラットフォームから直接提供される情報にほぼ頼りきりだった。そこで、まずはプラットフォーム(なかでもインスタグラム)に透明性を求めて圧力をかけた。次は社内改革で、インフルエンサーがブランドに与える影響を自ら測定するようにした。
「本当に難しい場だ。きわめて流動的で、相互依存的だ。我々はプラットフォームから来る情報に頼りきりで、だからこそプラットフォームの透明性が非常に重要なのだ」と、ユニリーバでPR・デジタルエンゲージメント担当責任者を務めるケイシー・デパルマ氏はいう。
イニシアチブの前後で偽オーディエンスにリーチするキャンペーンの数がどう変わったかについて、ユニリーバは詳細を明らかにしていない。調査会社ポインツノースグループ(Points North Group)の今年2月のデータによれば、ユニリーバ傘下のダブ(Dove)が2018年に行ったキャンペーンのオーディエンスの25%はフェイクで、これは広告主平均の14%を上回る。しかし、2019年第1四半期のダブのフェイクオーディエンスは19%に減少しており、改善の兆候がみられる。
ユニリーバの気づき
最初のステップとして、ユニリーバはいわゆるインフルエンサーを独自の集団と捉えるのをやめた。ソーシャルメディアの有名人は、その他大勢を含む、提携インフルエンサーの一部でしかないのだ。効果的なインフルエンサーマーケティングを実施するため、同社は芸能人、知識人、ジャーナリスト、ソーシャルインフルエンサーからなるエコシステムを構築し、オーディエンスを多様化して、卵をひとつのカゴに入れないようにした。
また、最大の問題が何なのか調査を行ったところ、偽フォロワー以外の懸念も浮上した。同社が「信ぴょう性を欠くエンゲージメント」と呼ぶ問題もそのひとつだ。
しかし、ユニリーバの最大の気づきは、同社のインフルエンサーマーケティングへの取り組み方そのものが、問題を助長していたことだ。
「CPE」という独自指標
「インフルエンサー空間に我々が見出した問題の一端は、ブランドの取引方法にあった。たいていフォロワー数をもとに価格を決めていたのだ」と、デパルマ氏はいう。「いまは(価格決定の方式が)進歩したが、以前のこの方式によって、インフルエンサーがフォロワー数を水増しする動機が温存されてきた。プロセスを精査していくなかで、インフルエンサー側の不正を一掃するだけでなく、ビジネスのあり方の再検証も必要になった」。
現在、ユニリーバはエンゲージメントあたりの広告コスト(Cost per engagement:以下、CPE)という新たな指標を利用している。CPEはインフルエンサーと合意を結ぶ際、どの部分に重きをおくかを検討し判断する基準としてつくられた。ポイント形式で、考慮される要素には、プロジェクトの複雑さ、目標、広告の掲載形式(標準的なディスプレイコンテンツなのか、あるいは特定の層へのリーチを狙っているのかなど)といったものがある。これらに基づいて算定されるCPEは、不正問題の緩和に重要な役割を果たすと、同社は考えている。既存の指標では不十分なのだ。
「不正がブランドとエージェンシーの両方にとって、これほどやっかいな問題に発展したのは、なんといっても、プラットフォームが疑わしいフォロワーを排除したり、不審な行動を制限するといった対策をほとんど採ってこなかったせいだ」と、コレクティブリー(Collectively)のCEO、アレクサ・トナー氏は指摘する。「プラットフォームが不正を野放しにしているため、エージェンシーとブランドは自分たちで解決策を見つけ出さなくてはならない。しかも、我々が入手できるファーストパーティデータは限られているので、ばらばらのデータから推定し、情勢を見極めて不正を突き止めるしかないのだ」。
「完全に無法地帯だ」
インフルエンサーエージェンシーのあいだのコンセンサスとして、不正問題の緩和のためにブランドが注目すべきは、オーディエンスの層構成、成長率(急激な増加はふつう不正行為のサインだ)、フォロワーの行動、リアルとフェイクのフォロワーの割合などだ。けれども、インフルエンサーのコンテンツリーチはプラットフォームが提供する指標をもとに分析するしかない問題は未解決のままだ。
「理解するのも、取り締まるのも難しい」と、クローウェル&モリング(Crowell & Moring)で広告業界を専門とする弁護士のホリー・メルトン氏はいう。「将来的には何らかの解決策が登場するだろう。だが、いまのところ、ソフトウェア会社もほかのどんな会社も、この(インフルエンサー)空間での不正を的確に発見する方法を編み出せていない。残念ながら、完全に無法地帯だ」。
Shareen Pathak(原文 / 訳:ガリレオ)