ディックス・スポーティング・グッズ (Dick’s Sporting Goods)はさらに多くの買い物客をリピーターにするためデータ分析やAI、オンライン広告に投資している。ウェブサイトやロイヤルティプログラム、さらにテック企業の買収を通じて1億4500万人の顧客のファーストパーティデータベースを蓄積してきた。
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ディックス・スポーティング・グッズ(Dick’s Sporting Goods)は、さらに多くの買い物客をリピーターにするために、データ分析、AI、オンライン広告に投資している。
同社は長年にわたってウェブサイトや、ロイヤルティプログラム、さらにはテック企業の買収を通じて、1億4500万人の顧客のファーストパーティデータベースを蓄積してきた。同社は現在、オンラインエコシステム全体をアドビ(Adobe)のクラウドプラットフォームに移行し、顧客をリアルタイムでターゲティングしようと試みている。このデジタル化により、それぞれの顧客のeコマース、モバイルアプリ、メール、店内での行動に基づいて個別のプロファイルを作成。これにより、同じチャネルでのマーケティングの改善とコンテンツのパーソナライズ化が可能になる。さらに同社はAIによるリコメンド機能に投資することで、平均注文数量の増大を目指すとともに、eコマースサービスを継続的に成長させるにつれ、デジタル広告への支出を増やしている。
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オンライン広告への支出を増加
これらの動きにより、ディックスはパンデミック中に見られた、フィットネス機器の購入増加によるオンラインでの売上上昇を活用しようと試みている。同社の第2四半期の総売上32.7億ドル(約3730億円)のうち、eコマースはその18%を占め、2019年の同時期における12%より増大している。さらにディックスは2020年以後に1250万人の新規顧客が流入したことを確認している。同社は通期の売上が2019年よりも約33%、2020年より約21%増加し、115億2000万ドル(約1兆3100億円)から117億2000万ドル(約1兆3400億円)までのあいだになると予測している。同社は現在、厳しいホリデーシーズンを迎えるにあたり、顧客の維持に注意を移しつつある。同社は8月末に、東南アジアの製造ハブのロックダウンと配送ボトルネックのため発生した商品の不足にスポーツウェア業界が対処しようとするなか、第4四半期の供給を確保しようとしていたと語っていた。また11月には、ナイキ(Nike)と提携してロイヤルティプログラムを結合することも発表した。このプログラムでは、ディックスのウェブサイトで販売される会員限定のスニーカーとアパレルに会員が最初にアクセスすることができる。
これだけ売上が伸びても、同社は顧客向けのショッピング体験をさらに向上させる余地があると考えている。「はっきりいえば、これまでパーソナライズ化に関することをほとんど行っていない。社内でいくつかの取り組みを行ったり、コンサルティングにも多少の費用をかけたが、ごく限られたものだった」と、ディックス・スポーティング・グッズのeコマースおよびアナリティクス担当シニアバイスプレジデントを務めるスティーブ・ミラー氏は述べる。
精密なターゲティングの取り組みの一部として、同社はオンライン広告への支出も増やしつつある。パンデミックの発生以来、同社は紙媒体への出資を大幅に減らし、デジタルプラットフォームに広告の資金を移してきた。同社の店舗は郊外に集中しているため、オンライン広告により特定の地域の顧客とのより正確なコミュニケーションをより正確に行うことができるとしている。
ファーストパーティデータへの集中
ディックスは膨大な量の貴重な顧客データや出版コンテンツを抱えており、その活用を考えているとミラー氏は語る。同社には2000万人のスコアカード(ScoreCard)ロイヤルティメンバーがおり、その20%は1年間に500ドル(約5万7000円)以上の買い物をするゴールドステータスの顧客だ。これらの常連客は試合観戦パーティーや、早期販売、スポンサー付きのスポーツイベントにアクセスできる。ゴールド会員は、ディックスが新しいパーソナライゼーションツールをテストできるだけの多数の常連客の基盤がある。「ゴールド・スコアカードのメンバーは、新しい改良点から特別に大きな恩恵を受けられる。我々はパーソナライズ化された多くの特典を提供でき、そのインセンティブから得られる結果を短期間で実感することができる」とミラー氏は述べている。
ミラー氏によれば、個別の買い物客をより的確に把握することで、ディックスはオンライン顧客向けにより良い商品を提案できるようになるという。たとえば、過去にテニスラケットを購入したことがある顧客にはテニス用品を紹介できる。また、出版パートナーのゴルフダイジェスト(Golf Digest)からのゴルファー向け記事を紹介することもできる。また、AIを搭載したスタイリストが衣料品を探している顧客向けに服装をコーディネートできる。同社は、季節ごとのルックや色の組み合わせを組み立てることができるよう、AIのアルゴリズムを訓練中だ。
ミラー氏は次のように述べている。「誰かが靴を買おうとしているとき、AIはそれに見合うショートボトムス、帽子、Tシャツを見立ててくれるわけだ。このようなことをオンライン販売商品のすべてにおいて行うのは、スタッフにとって多大な労力を要するため、できるだけAIに任せるようにしている」。
同社が推し進めているオンラインエコシステムのパーソナライズ化は、商品の不足に対する部分的な解決につながると考えられる。ミラー氏は、リコメンドツールでは、在庫量などの要素を特に考慮していると話している。ディックスは、ナイキなどのベンダーパートナーが自社独自のeコマース戦略を持ち展開していることや、ウォルマート(Walmart)やコールズ(Kohl’s)のような従来型小売業者がアスレジャー分野に参入してきていることなど、いくつもの分野で競合に直面している。その結果、ディックスはブランドロイヤルティを促進することを目指している。その一環として、独自開発したメンズおよびウィメンズのアスレジャー商品ライン、VRSTやカリアバイキャリーアンダーウッド(Calia by Carrie Underwood)などのプライベートブランドを拡大している。自社の最大の顧客に報いるため、同社は2019年、スコアカードロイヤルティプログラムにゴールド階層特典を追加した。
グローバルデータリテール(GlobalData Retail)のマネージングディレクターを務めるネイル・サンダース氏は以前に米モダンリテールに対し、「このスポーツ専業業者は、広範囲な商品を扱う業者と、フィットネスという特定分野に集中するさらに特化した専業業者の両方から、多くの競合を受けることになる」と語った。
きめ細かなコントロールが可能に
ディックスは、同社が新たにデータ分析とオンライン広告に注力することで、プロモーションの大幅な削減を実現するとしている。また、このマーケティングツール導入により、オンラインにおいて顧客をターゲティングするためにお得な情報やセール情報をどのように提供するかついて、より「きめ細かな」コントロールが可能になるとも述べている。「ターゲティングした顧客に対してプロモーションをを行うことができ、地域や地区ごとにプロモーションを行える体制も作りつつある」と、エグゼクティブバイスプレジデント兼CFOのリー・ベリッキー氏は、ゴールドマンサックス(Goldman Sachs)が9月に主催した小売イベントで述べた。「デジタル機能とパーソナライズ化の開発に加えて、データサイエンス能力も実際に構築しつつあり、今後はプロモーションが減り続けていくだろう」。
Appleが最近、iOSにプライバシーに関する変更を加えたことで、ユーザーのトラッキングが行えなくなったが、ディックスは依然としてデジタル広告に強気の姿勢だ。ミラー氏は、コンバージョントラッキングやマルチタッチアトリビューションについて、広告ベンダーとともに解決策を見つける必要があることを認めているが、デジタル広告予算を減らす計画はないと付け加えた。「むしろオンライン広告費を増やす予定だ」と氏は述べている。ディックスは、多数の顧客のデータベースと多額のオンラインマーケティングの資金を保有しているという利点により、Facebookなどのプラットフォームで行うオンライン広告キャンペーンの有効性を依然として測定できると主張している。
「当社の規模なら、顧客と対話するため中間業者は必要ない」とミラー氏は述べる。「我々はブランド広告を推進しつつあり、プログラムやパフォーマンスの観点からその歩調をゆるめることはない」。
[原文:Dick’s Sporting Goods is using its loyalty program to better target customers]
Saqib Shah(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Dick’s Sporting Goods