総合酒類メーカーの英ディアジオ(Diageo)には、AmazonのAI音声アシスタント「Alexa(アレクサ)」に早期から賭けてきたにもかかわらず、音声戦略というものがない。それでも同社は、音声への注力の一部を会話型のロングテールキーワードへと移しつつある。
総合酒類メーカーの英ディアジオ(Diageo)には、AmazonのAI音声アシスタント「Alexa(アレクサ)」に早期から賭けてきたにもかかわらず、音声戦略というものがない。それでも同社は、音声への注力の一部を会話型のロングテールキーワードへと移しつつある。
ディアジオは来るべき時代に向けて布石を打っているが、そのとき、検索経由の購入の大部分がテキストよりも音声向けになる。言い換えるなら、特定のキーワードではなく、クエリの背後にある意味に基づくと想定しているのだ。ディアジオのこうした音声検索の取り組みには、同社のブランドについて、自然な話し言葉でどのように質問されるかを考えるブレインストーミングも含まれる。その主な理由は、有料検索が掲載されるプレースメントが1枠分のスペースしかない場合、クリック単価が上がる見込みがあるからだ。
「勝者ひとり占め」の市場
入札戦略はさておき、ディアジオはまた、最良の回答を提供する広告コピーのバリエーションを制作することが実現可能かどうかも検討している。たとえば、ユーザーがモスコミュールについて質問した場合、同社ブランドの「スミノフ(Smirnoff)」は、その質問に答えるコピーを用意しておく必要があるだけなく、次の質問が「どのウォッカを買うべきか?」「どんな原料が含まれているのか?」だった場合のコピーも必要になるかもしれない。
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ディアジオでデジタルイノベーション部門を率いるベンジャミン・リックフェット氏は、検索クエリの多くがテキスト形式の「マイタイ」ではなく、音声クエリとしての「マイタイの作り方」になる時代が来ると予想する。そうなった場合、Appleの「Siri(シリ)」やAlexaなどのパーソナルツールを使った検索は、検索結果のページではなく、即座の回答を提供するという意味で、そこは「勝者ひとり占め」の市場になる、とリックフェット氏は考えている。
デジタルエージェンシーのアイプロスペクト(iProspect)が9月6日に開催したイベントで、リックフェット氏は英DIGIDAYの取材に応じ、ディアジオが音声検索の「基本を正しく理解する」作業に取り組んでいると述べた。「我々は、音声ベースの検索がどれほど異なるのかについて、ロングテールキーワードを調べている」と、リックフェット氏は語る。「すでに一部の結果において、カクテルのレシピなどが音声検索、視覚刺激、コンテンツの適切な配置の組み合わせと連動して、そこに表示されることを確認している」。
会話型コマースの可能性
リックフェット氏は、ディアジオのブランド群が音声検索に足を踏み入れるのはまだ早い点を強調した。インターネット調査企業コムスコア(comScore)の予測によると、音声検索は2020年までに検索アクティビティ全体の50%を占める見込みだという。Googleでさえ、検索やアプリ、広告、オンライン取引と同じように、こうしたクエリをマネタイズできるようになるのは何年か先だとしている。
だがディアジオは、音声検索の普及とともに、同社はユーザーのクエリをうまくマネタイズできるようになると考えている。以前からオンライン広告と売上のギャップを埋めようとしてきた同社は、直近では「Amazon Prime(Amazonプライム)」でショッピングできる動画をローンチしている。しかし、eコマースへの投資では、ディアジオはまだ一度も事業の拡大につながる十分な成果をあげていない。だからこそ音声検索の可能性をめぐって、ディアジオの社内はこれほどまでに大きく盛り上がっているのだ。
「会話型コマースを語らずして音声検索は語れない。会話型コマースはすばらしいチャンスだ」と、リックフェット氏は語る。「当社のブランドが必要とされるかもしれない場面で、Alexaのスキルやカクテルを作る消費者に基づく会話型サービスの提供は、我々にとって非常に興味深いエリアだ」。
リックフェット氏が特に注目しているのは、ディスプレイを備えたAlexa対応デバイスであるAmazonの「Echo Show(エコーショー)」だ。同氏によると、キッチン向けに特別に設計されているところがEcho Showの興味深い点だという。つまりそこには、「ジョニー・ウォーカー(Johnnie Walker)」や「ギネス(Guinness)」などのブランドが同デバイスの画面に表示される可能性があるということだ。
普及にはまだ時間がかかる
アイプロスペクトが英国で1000人超を対象に実施した調査によると、音声行動の中心はおおまかな情報検索であるものの、音声検索の25%には、何かを買ったり注文したりという「購入の意図」があるという。ディアジオのような広告主にとって、それが有意なROI(投資利益率)につながるまでにはまだ時間がかかりそうだ。アイプロスペクトによると、英国で現在、音声検索を利用している成人の割合はわずか15%だという。
Googleの検索部門でシニアプロダクトマネージャーを務めるサイモン・トクミネ氏は、モバイルデバイスでは音声検索が今後数年のうちに優勢になると確信している。アイプロスペクトによると、英国では音声検索の半分以上(57%)がスマートフォンで実行され、スマートホームデバイスを使った音声検索の割合は13%だという。
メディアアナリストらは、Googleによるオンラインメディアの掌握にとって音声検索が脅威となりうるかどうかを疑問視してきた。それには同社が広告から収益をあげる仕組みを全面的に見直す必要が出てくると予想されるからだ。「モバイルデバイスは、ヒットこそしているが、複雑なタスクに関してはデスクトップほど使いやすくない」と、トクミネ氏は前述のアイプロスペクトのイベントで指摘した。「こうした状況においては、どうすれば音声を活用して、こうした複雑さを効果的に省けるのかを考えることが重要だ」。
Seb Joseph (原文 / 訳:ガリレオ)