ドイツの通信大手ドイツテレコムは、広告キャンペーンをプログラマティックに展開できる、独自のプライベートメディア取引デスクを設置した。これにより同社が保有する1億5000万人の顧客データを独占利用できるようになる。アドテクノロジーにおけるデータ利用の「透明性」について、ドイツテレコムは大きく一歩を踏み込んだ。
ドイツの通信大手ドイツ・テレコムはデータ活用にかじを切った。エージェンシーがアクセスできるパブリックDMPと、自社内のみ接続できるプライベートDMPを使うことで、プログラマティック広告の運用を管理できるようになった。ブランドの社内データ活用の一例になる。
ドイツの通信大手ドイツテレコムは、アドテクノロジーをもっと自社でコントロールできるようにしたいと考えている。
ドイツのボンを拠点とする、このモバイルブロードバンド事業者は、世界全体におけるモバイル顧客数は1億5000万人。自社の貴重な顧客データを独占利用したいと考えた同社は、広告キャンペーンをプログラマティックに展開できる、独自のプライベートメディア取引デスクを設置した。社内でデータ管理を行うための一連の技術を構築するのにこの2年間を費やしてきたが、こうした動きによりエージェンシーとの提携の仕方が根本的に変わる見通しだ、と同社は述べている。
「デジタル広告の独自のエコシステムを自社で管理したい。だから、その原動力となる技術を管理する必要がある」。そう語るのは、ドイツテレコムの国際メディア管理担当シニアマネージャーを務めるゲルハルト・ロウ氏。同氏は、2015年10月にロンドンで開催されたオンライン・パブリッシャー協会(OPA)のカンファレンス「オータム(Autumn)」で、その計画について明らかにした。
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ブランドがデータを自社管理する時代
「欧州をリードする通信会社でありたいし、データ主導型のマーケティングと販売のリーディングカンパニーでありたい。だから、このエコシステムを自分たちで構築する必要がある……データを所有したいのであって、エージェンシーまかせにしたり、パブリッシャーだけに保有させたりしたくはない」。
ドイツテレコムに先立って、ユニリーバ、プロクター・アンド・ギャンブル、アメリカン・エキスプレス、ウォルマート、マネースーパーマーケットなど、ほかの多くのブランドが、同様のアプローチを採ってきた。
ドイツテレコムの後に続くブランドもある、とロウ氏は語る。アウディとフォルクスワーゲンも検討中と噂されているが、両社は自社の計画については「スパイ並みの秘密主義」のことが多いという。ロウ氏は、独自の計画を公表することにより、ほかのブランドがベストプラクティスの共有に前向きになるよう促せれば、と期待しているという。
ロウ氏は、米DIGIDAYのインタビューで、デジタル広告においては、買い手と売り手が協調し、原価から乖離(かいり)した費用を広告主に請求するスキームが存在することや、それに関係して広告出稿から掲出のプロセスに透明性が欠如していることが、データ管理を完全に社内で行うという決定に影響したと述べている。
「透明性」とエージェンシーの間で
「一部のエージェンシーがメディアの買い手と売り手を兼ねる状況で、『透明性』の問題が、広告技術とデータの流れをもっと自社で掌握したいという顧客の欲求に火を注いできた。バリューチェーンには多くのブローカーが存在しており、自分たちの資金がデジタル世界でどう使われているのかが広告主にはわからない。こんな状態では、それぞれが何を得ているのかわからないので、当社としては、データと資金の流れを自分たちで再び管理したいのだ」。
ロウ氏は、エージェンシーは「それに対して浮かない反応を示している」と認めた。一部の顧客データを利用する機会が減るからだ。だが、世界最大のエージェンシー、WPPグループであるグループエム(GroupM)傘下のエージェンシーとドイツテレコムの関係は依然として「とても強力」であり、引き続きドイツテレコムのためにマーケティングキャンペーンを行ってもらうと強調した。
「以前なら、彼らは『Xaxis』(WPP系のDMP提供企業)か、別のソリューションを利用していたかもしれない。我々がもたらした変化は、我々が使うツールや協力企業を自分で選ぶということだ。現在の場合はアドフォーム(Adform)だ。だが、エージェンシーは今後もキャンペーンへ完全にアクセスできるし、キャンペーンの計画や運営を行っていく。顧客としての当社の役割は、5年前とは変わった。5年前なら、キャンペーンの計画や買い付けを委託して最後に数字をチェックするだけで満足し、出来がよければそれで結構、という感じだっただろう。現在は、自社でもっと管理して、それを変えていこうとしているので、むしろ共同制作という形になっている」。
公私で使い分ける2つの「DMP」
ドイツテレコムは、2つのデータマネジメント・プラットフォーム(DMP)を導入している。プライベートデータを扱うDMPと、公開性を保っているDMPの2つだ。一方には、自社の顧客データをすべて投入し、外部からアクセスできないよう非公開にしている。もう一方のDMPは、広告やサイトを訪問したユーザーから引き出したパブリックなクッキーデータをすべて匿名化して保存してある。エージェンシーが完全にアクセスできるのは、後者のDMPだ。
ドイツテレコムは続いて、プライベートDMPとパブリックDMPとの間でクッキーを同期して、エージェンシーのキャンペーン・ターゲティング能力を高める方法を模索する計画だ。
さらに同社はこれまで、ドイツ、オランダ、ハンガリーで事業を展開してきたが、今後はほかの欧州諸国にも進出する予定だ。次の進出先は、チェコ共和国とオーストリアになる可能性がもっとも高い。
「データは、プレースメントの買い付けや、行動オーディエンスに基づくターゲティングや買い付けにおけるカギになる。誰が(Who)、何を(What)、いつ(When)の3要素が重要だ」と、ロウ氏は語る。「近いうちに我々は、チャンネルプランではなくオーディエンスプランを作成し、それに従ってメディア枠を買い付けできるようになる。人々がデジタル空間に残す痕跡を、意味のあるデータと見識に変えて、ターゲティングできるようになるのだ」
Jessica Davies(原文 / 訳:ガリレオ)
photo by Qualle(CreativeCommons)