コロナ渦中でも船出した、新ブランド「ヒッキー」の勝算

米・コスメブランドのグロッシアー(Glossier)におけるプレジデントとCOOの職を1年3カ月前に辞した、ヘンリー・デイビス氏の次の活躍の場が明らかになった。

3月17日に立ち上げられた、パーソナルケア製品のD2Cファーストブランドであるヒッキー(Hiki)。このブランドは、デイビス氏がバイス(Vice)の元パブリッシング役員アリエル・ウェングロフ氏とともに創設したブランドインキュベーターのアルファ(Arfa)が手がける最初のブランドだ。グロッシアーは化粧品やスキンケア製品をカバーするのに対し、ヒッキーはドラッグストアで人気のウェットティッシュやデオドラント、制汗剤、皮膚保護クリームやボディパウダーといった製品を扱う。デイビス氏によると、アルファは常に「少数の」ブランドを手がけていくという。

米国でコロナウイルスの懸念の高まるこの時期に立ち上げられることになったヒッキーだが、デイビス氏もウェングロフ氏も前向きだ。だが同社は当初の計画どおりに製品を販売するのではなく、カスタマーに対し無料で製品2つを提供することに決めた。その条件となっているのが、カスタマーがインスタグラムで#todayimfeelingのタグと@arfabrandsを記載して、ほかの人への共感や優しさを込めた投稿を行うことだ。カスタマーは送料の5ドル(約550円)を負担し、同ブランドが提携する配送パートナーのキャパシティ(Capacity)と郵便局員に支払う。またカスタマーが医療従事者の場合、この送料は2.5ドル(約280円)に割引される。ヒッキーは4製品を各14.5ドル(約1600円)、ウェットティッシュを10.5ドル(約1200円)で販売する。

カスタマーとともに作り上げる

コロナショックの渦中で消費者とのつながりを強めようとするデイビス氏とウェングロフ氏だが、これはアルファの出発点ともいえるアイデアだ。アルファは立ち上げ前に、製品とブランドを「コレクティブ」と呼ばれるメンバーとともに作り上げる。その範囲はアイデアづくりからテストにまでわたる。これはアルファが今後手掛ける全ブランドに共通のプロセスだ。

「コレクティブは、16歳から65歳の、デトロイトやサンアントニオ、アトランタに住む人々で構成される。自宅の居間に私たちを招き入れ、直接親密な会話を交わせる人たちだ」と、ウェングロフ氏は語る。「彼らと会って話すことで、彼らが抱える問題について驚くほど多くのことを教わった。誰もが健康な身体の大切さについて説いている。だが、どうすれば健康な身体が手に入るかについてはあまり話されていない。それにはブランドがカスタマーと協力し、ともに作り上げることが必要なのだ」。

ウェングロフ氏によれば、ヒッキーの包装には「すべての身体に」、「誰もが汗をかく」と書かれているという。

アルファはコレクティブメンバーの具体数は明かしていないが、「数百人」規模とのことだ。製品開発に積極的に関わったコレクティブメンバーには利益の5%が渡る。なかにはテキサス州サンアントニオに住むデニス氏、ミシシッピ州ガルフポートに住むホリー氏ら、ウェブサイトに掲載されるメンバーもいる。(同社は個人情報保護の観点から両名の姓を伏せている)両名はヒッキーの独自サイトにも登場する。デイビス氏とウェングロフ氏がアルファとヒッキーのウェブサイトでメンバーにスポットライトを当てているのは、カスタマーのニーズに敬意を払っていることを示すためだ。

ウェングロフ氏によれば、同社はメンバーからの意見を受けてボディパウダーに含まれるコーンスターチの量を変更した。これにより、さまざまな肌の色に、より自然に溶け込むようになったという。デイビス氏はさらに、デオドラントや制汗剤についても更年期の男女メンバーらでテストを行った結果、効果が改善したと明かしている。
「自分の身体につける製品なのだから、消費者の意見を取り入れるのは当然だ」と、デイビス氏は語る。「アルファは彼らのニーズや望みを理解し、より良い製品を提供するためにある。今後、カスタマーとブランドの関わり方ややりとりに革命が起きると信じている。カスタマーは、店舗に置かれた商品からどの製品が良いかを決めることが多い。だが、いまの消費者の動向は、それとは別の方向に向かっている」。

オムニチャネルでの流通の可能性

ヒッキーはD2Cファーストブランドとして立ち上げられたが、デイビス氏もウェングロフ氏も、やがてオムニチャネルでの流通の可能性について除外してはいない。

「D2Cの黎明期における大きな失敗が、製品と市場のマッチングを探し、それを最大限活用して大きな収益をあげられなかったことだ」と、デイビス氏は分析する。「市場があれば、それにあわせたブランドを作れば良い。だが、そこから別のニーズを探してそれに合う別のブランドを立ち上げる。それが製品とマーケティングを、意図した人たちに適切に届ける唯一の方法だ。ブランドにとって最初の自然な出発点からズレたり背伸びしたりする必要はない」。

PRIYA RAO(原文 / 訳:SI Japan)