アスレジャーとは、アスレチック(競技)とレジャー(余暇)を掛け合わせた造語で、フィットネスやヨガなどで着用するスポーツウェアを普段着にしたファッションスタイル。ルルレモンはこのスタイルを実現できる唯一無二のブランドだったが、その独占状態は「異常」だった。しかし、そこにラグジュアリーブランドが進出してきている。
「アスレジャーは一時的な流行ではない。確実に生き残る」と、ファッションメディア「ハバスラックスハブ(Havas LuxHub)」の取締役であり業務責任者であるレイチェル・コンラン氏は話す。「ルルレモンがアスレジャーへの扉を開けてくれた。そして現在、アスレジャーに熱中する顧客たちがいることに、多くのラグジュアリーブランドが気付き始めている。ラグジュアリーブランドたちは成長戦略の一環として捉えている」。
元バレリーナで、現在はゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)のアナリストであるキャロライン・ゴゴラック氏は、「アスレジャー」の雛形を考案したヨガブランド「ルルレモン(Lululemon)」にとって代わるブランドを求めていた。
アスレジャーとは、アスレチック(競技)とレジャー(余暇)を掛け合わせた造語で、フィットネスやヨガなどで着用するスポーツウェアを普段着にしたファッションスタイルのこと。ルルレモンはこのスタイルを実現できる唯一無二のブランドで、そうした独占状態は「異常」だったからだ。
そこで彼女は、昔のバレリーナ時代の仲間であったケイティー・ワーナー氏を勧誘。この前衛的なファッションスタイルを取り込みつつ、通常よりも高価な値段でスポーツウェアを販売しているラグジュアリーブランドを対象とした、eコマースプラットフォームを立ち上げた。
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ラグジュアリーブランドの進出
2013年、ゴゴラック氏とワーナー氏は「カーボン38(Carbon38)」というプラットフォームを設立したが、その後、巻き起こるアスレジャーブームまでは予期していなかった。モルガン・スタンレー(Morgan Stanley)の調査によると、過去7年間でスポーツ関連のアパレルやフットウェア市場は42%成長していて、2700億ドル(約30兆円)に達したという。また、2020年までにはさらに30%成長し、830億ドル(約9兆円)ほどの売り上げが見込まれている。カーボン38も2015年までで500%の成長率を遂げているが、詳細な売上については語ってくれなかった。
「アスレジャーは一時的な流行ではない。確実に生き残る」と、ファッションメディア「ハバスラックスハブ(Havas LuxHub)」の取締役であり業務責任者であるレイチェル・コンラン氏は話す。「ルルレモンがアスレジャーへの扉を開けてくれた。そして現在、アスレジャーに熱中する顧客たちがいることに、多くのラグジュアリーブランドが気付き始めている。ラグジュアリーブランドたちは成長戦略の一環として捉えている」。
アパレル分析企業エディティッド(Edited)の調査によると、アスレチックウェア市場の売上の16%はラグジュアリーや高級ブランドによるものだという。大半の売上である81%は、一般大衆向けのブランドによるものだ(下図)。しかし、ラグジュアリー系アスレジャーでもっとも売れているのはフットウェアである。事実、2015年に発表された新作スニーカーの25%は、ラグジュアリーデザイナーが手がけたものだった。
顧客の率直な要望を取り入れ、アスレジャーが憧れのライフスタイルとなることで、ヨガパンツのような普通の商品もラグジュアリー商品の仲間入りを果たした。安価な市場ほどではないが、確実に定着し始めている。
アスレジャーで若者にリーチ
2000年代半ば、パリス・ヒルトンやブリトニー・スピアーズのような若い女性ハリウッドセレブたちはジューシークチュール(Juicy Couture)のベロアジャージのセットアップを着ていた。もちろん、腹部は露出しつつ、片手にはスターバックスだ。その後、ジューシークチュールは破産申告を行うが、インスタグラム時代ということもあり、新たなファッションスタイルを提供している。
「ベロアのトラックスーツ(ジャージ)は、アスレジャーのお爺ちゃんだ。朝方まで遊ぶことが好きな女の子たちに好まれていた」と、ブランディングエージェンシー、エルウィン・ペンランド(Erwin Penland)の最高経営企画責任者であるジェシカ・ナヴァス氏は話す。「今後私たちが目指すのはスポーティーファッションだ」。
ファッションに対する意欲とラグジュアリーブランドは常に共存してきた。そしてアスレジャーという新たな分野が生まれたいま、若い世代が新たな顧客として市場に入ってきたのだ。彼らがラグジュアリーショッピングサイトである「ネッタポルテ(Net-a-Porter)」から購入することは難しいかもしれないが、姉妹サイトであるアスレチックウェア専門の「ネッタスポルテ(Net-a-Sporter)」(2014年設立)からはスポーツブラを100ドル(約1万円)以下で購入することができる。
ソーシャルが消費行動を変えた
ソーシャルメディアによって、デザイナーファッションの透明性が高まった。消費者たちはケンダル・ジェンナーがファッションショーで着ていた服を求めるようになっている。ナイキのフライニットやレギンスなど、実際にショーのランウェイで着用されていたものだ。
「アスレジャーは、アスレチックウェアを上質なものに感じさせることではない」と、ラグジュアリーブランド通販サイト「ファーフェッチ(Farfetch)」のバイヤーであるリース・クリスプ氏は言う。「求められる商品や、消費者と共鳴する商品を作ることが大事だ。ラグジュアリーは衣服にあるのではなく、ライフスタイルやコンセプトにある」。
ファーフェッチはアスレジャーのなかでスニーカーがもっとも成長していることに気づき、消費者が自分でスニーカーのデザインをすることができるサイトを2015年ローンチした。もっとも高額なスニーカーは1万ドル(約100万円)からだ。
現在、デザイナーがオシャレだと決めたファッションに対し、拒絶する風潮がある。ストリートスタイルの有名人やファッションブロガー、ソーシャルメディアがファッション業界を民主化させてしまったからだ。インスタグラムやTwitter、Snapchatなどの新勢力により、年に2回開催されるニューヨーク・ファッション・ウィークも運営方法を変えるなど、大きな影響をもたらしている。
移り変わる消費者の要望
「デザイナーが勝手に思い描く私たちのライフスタイルではなく、私たちの実際のライフスタイルに合う洋服が欲しい」と、「ハバスラックスハブ」のコンラン氏は話す。「一方、ラグジュアリーブランドは日々の生活の細かな点まで考慮し、いつにおいても人生の良き仲間でいてくれる」。
先述のゴゴラック氏とワーナー氏が運営するカーボン38の顧客の多くは、年収が10万ドル(約1000万円)から30万ドル(約3000万円)のあいだ。同プラットフォームは自らを「洗練されたラグジュアリー」と認識している。
「5年前に、200ドル(約2万円)のレギンスが売れる時代が来るなんて誰が予想できただろうか?」と、ゴゴラック氏はコメントする。「eコマースサイトやソーシャルメディアが人々の購入方法を変えてしまった。顧客は、彼らの意見や要望が応えられていることを喜ぶ」。
ファーフェッチのクリスプ氏は、ラグジュアリーは「確実に」洗練されていると話している。
「デジタルメディアが競争がとても激しい市場を作り上げてしまった」と、彼は言う。「基本的な商品の機能性を向上させて高級化させるなど、デザイナーは実用性にもこだわる必要性が出てきた」。
拡大するコラボレーション
トリーバーチやシンシアローリーなど、いくつかのデザイナーたちは取扱商品を拡大し、アスレジャー商品のフルラインナップを用意するまでになっている。
エージェンシーであるヤード(Yard)の共同設立者で最高戦略責任者であるルース・バーンスタイン氏が米DIGIDAYに語ったところによると、アスレジャー業界には参入したいが、自らのファッション性や専門性は失いたくないと考えるデザイナーが多いという。そんな彼らはアスレチックブランドとのコラボレーションに魅力を感じているのだそうだ。
「アスレチックブランドは高機能ウェアを作ることができるが、美的センスも備わっているとは限らない」と、コンラン氏は指摘する。「一方で、ラグジュアリーブランドには高機能ウェアを作る知識やノウハウがない」。
400ドルのスタンスミス
アディダスはラフシモンズとコラボを組み、300ドル(約3万円)から400ドル(約4万円)の値段設定でスタンスミスの限定モデルを作た。ステラマッカートニーとタッグを組んだ高級カプセルコレクションも、アディダスのファッションに10年間も貢献している。ミュージシャンのカニエ・ウェストとコラボしたスニーカー「イージーブースト(Yeezy Boosts)」も、発表するたびに売り切れるほど人気が高い。
プーマ(Puma)も、同社のクリエイティブデザイナーでもあるアーティスト、リアーナとコラボレーション。フェンティ(Fenty)コレクションを展開した。ほかにも、モデルで女優のカイリー・ジェンナーが新たなコレクションを手がけている。また過去には、ロサンゼルスのデザイナーレーベルである「スタンプド(Stamp’d)」と手を組み、スニーカーの限定モデルを共同制作したこともあった。
「アスレジャーがスポーツウェア業界に新たな手法をもたらした」と、プーマのブランディングとマーケティングのグローバルディレクターであるアダム・ペトリック氏は語る。「私たちは現在、高品質な素材や革新的なデザインを使用した多くのコラボレーションを行っている。アスレジャーの人気は高まるばかりだ」。
アスレジャーの人気が衰えない現在、「ハバスラックスハブ」のコンラン氏は、このようなコラボレーションがウェアラブルデバイス市場をアスレジャーに参入させると話す。「スマートファブリック」という電子的な機能をもつ繊維や生地の試験において、ファッション性は犠牲にしたくないとも語ってくれた。
「ウェアラブル市場が大きな変化を求めて盛り上がっている」と、彼女は言う。「(このアスレジャーの流行は)私たちの生活を豊かにしてくれるスマートファブリックが中心となる」。
Hilary Milnes(原文 / 訳:BIG ROMAN)