デパートの店舗は、その膨大な敷地面積や商品ラインナップを強みにしてきたが、その牙城はAmazonによって崩された。店舗での買い物を好む顧客がいれば、いま求めているのは、必要なものをサッと見つけてすぐに帰れる場所だ。デパートの店舗は、商品だけでなく、より多くのサービスを提供するべく、少しずつながら前進している。
デパートの店舗は、商品だけでなく、より多くのサービスを提供するべく、少しずつながら前進している。
そのなかでも勢いがあるのが、コールズ(Kohl’s)やノードストローム(Nordstrom)だ。コールズはAmazonと提携して、この最大級の規模のeコマースサイトから購入した商品を店舗で返品できるサービスをはじめており、2019年7月までにコールズの全店舗で同サービスを提供する予定だ。一方、ノードストロームでは、ギフト包装や洋服の仕立て、またオンラインで注文した商品の店舗受け取りなど、商品在庫を持たない「ノードストローム・ローカル(Nordstrom Local)」というやや小規模な店舗サービスに注力しはじめている。ノードストロームは、2018年にこのようなサービスを提供する店舗をロサンゼルスに3つオープンしており、2019年9月には、さらにニューヨークに2店舗をオープンする予定だ。
デパートの店舗は、一時期はその膨大な敷地面積や商品のラインナップを強みに展開してきたが、その牙城はAmazonによって崩された。店舗での買い物を好むような顧客がいるとするならば、いま彼らが求めているのは、必要なものをさっと見つけてすぐに帰れるような場所だ。それを理解しているデパートの店舗は、そこが顧客にとって、いまでも便利で楽に買い物ができる場所だということを確信させるべく、さまざまなサービスを付加している。そして一部のケースでは、店舗に行かなくてもそのサービスを得られるようになっている。
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「これまでの(デパートの店舗が提供する)サービスは、商品の購入に関わるものがほとんどだった」と、グローバルデータリテイル(GlobalDataRetail)のマネージングディレクターを務めるニール・サンダース氏は語る。彼は、顧客が求める商品を見つける手助けを専任で行う店舗内スタイリストや、化粧品売り場のスタッフの需要の高まりを指摘する。「どのようにすれば顧客が求める商品を手に取ってくれるかが問題だ。つまり、店舗内で商品を集めたり予約したりといったサービスが重要だ。そして、デパートの店舗の多くでこうしたサービスの重要性が高まっている」。
ノードストロームの改革
「ますます感じるのは、こうしたサービスは実店舗だけにとどまるべきではないということだ」と、ノードストロームの顧客体験部門のSVPを務めるシェア・ジェンセン氏は語る。「我々の考えでは、顧客はノードストロームをウェブサイトやオンラインストアとして見てはおらず、ファッション関連のリテイラーとして見ている。そして、我々は彼らにとって、いつでもどこでもどのような形でも、望んだ通りに買い物できる場所でありたいと思っている」。
ノードストロームのサービス戦略は、ノードストローム・ローカルの一歩先を行くものだ。ノードストロームは、彼らのさまざまなサービスを利用している顧客の割合について、詳細までは明らかにしていない。だが、共同社長であるエリック・ノードストローム氏は、同社の直近の収支報告の場で、仕立てサービスやスタイリングサービスを利用する顧客の消費が飛躍的に伸びた、と語った。
ここ数年の間で、ノードストロームはオンラインショッピングや店舗受け取り、そしてスタイリングなどの、もっともよく使われているサービスをどのように展開していくか、そしてそれらのサービスをどのように別の顧客グループに提供するかの検討に力を注いできた。たとえば、オンラインショッピングや店舗受け取りのサービスはすべてのノードストロームの店舗で可能だが、ノードストロームのロイヤリティメンバーにはさらに便利なカーブサイドピックアップ(ネット注文した商品を店舗駐車場で受け取れる)というサービスが提供される。これにより、車を降りることなくオンラインで注文した商品を受け取ることができる。
顧客フィードバックを重視
ジェンセン氏は、ノードストロームでもっとも需要の高いサービスのひとつはスタイリングだと語る。これまでは、スタイリストは店舗内でのサービスに限定されていた。そこでノードストロームは2017年に、オンラインチャットやノードストロームのモバイルアプリでスタイリストと話せる、スタイルボード(StyleBoard)というサービスを立ち上げた。スタイリストはスタイルボードと呼ばれるものに商品一式を集め、それを買い物客に見てもらうために送信する。ノードストロームはまた、ロイヤリティメンバーに対し、年に1度、スタイリストを自宅に呼べるサービスを提供している。
一方、「ノードストローム・ローカル」の店舗では、サービスに関わる取り組みに、もっとも大きな力を注いでいる。ジェンセン氏によると、敷地面積が3000平方フィート(約280㎡)未満の店舗では、ノードストロームが顧客の要望のもとに提供する、オンラインで注文した商品の受け取りや返品、スタイリングや仕立てなどの「コアサービス一式」が揃っているという。また、ブレントウッド地区では、近隣では珍しく、ギフト包装のサービスも提供している。これは、ノードストロームが市場調査を行なった結果、顧客のニーズが高かったためだと、ジェンセン氏は語る。
「ノードストローム・ローカルは非常にフレキシブルなので、顧客からのフィードバックには頻繁に、かつ迅速に合わせることができる」と、ジェンセン氏は言う。
他社を取り入れるコールズ
一方、コールズは、ノードストロームのサービス提供だけ拡充する手法に追随したわけではない。むしろ、店舗内に顧客が求める他社の製品向けのスペースを設けることで、顧客にアピールしている。なかでももっとも目立っていたのはAmazon商品で、2017年にパートナーシップを結んで以来、コールズの店舗でAmazonの端末を販売している。2018年7月には、コールズ全店舗でAmazon製品の返品サービスを開始したが、顧客はAmazonで購入した製品を、コールズの店舗で無料で返品できるようになっている。そこには、顧客がコールズの店舗に来れば、他社の製品にも自然と目が向き、購入につながるだろう、という希望がある。
これまでのところ、コールズはAmazon商品の返品のために訪れた人たちがどのような種類の顧客だったか、またその数についての統計データを公開していない。だが、サンダース氏は、Amazonはミレニアル世代や若年層の世代に人気があり、「彼らこそがコールズがこれまで苦労してきた顧客層だ」と語った。
コールズには、さらなるサービスを付加できる機会がまだまだ残っている。コールズはディスカウント食料品チェーンのアルディ(Aldi)やプラネットフィットネス(Planet Fitness)への店舗スペースの貸し出しで提携することを発表している。また、アルディやプラネットフィットネス限定のサービスに関わる計画についてはまだ何も明らかにはしてはいないが、次のステップとしては十分ありえるだろう。
アプリ活用が次のステップ
デパートの店舗運営が抱える最大の障壁は、サービスに傾倒するそのほかのリテイラーに遅れをとってしまうリスクだ。オンラインショッピングや店舗内受け取りは、現在リテイラーの手持ちの札になりつつあるため、さらなるサービスの追加にあたっては、取扱商品の差別化を推し進めながら実行する必要がある。サンダース氏によると、ウォルマート(Walmart)やターゲット(Target)が行なっているような、モバイルアプリを使った店舗内での買い物の体験に大きな力を注いでいるデパートの店舗をまだ目にしていないという。
「これこそが、おそらく多くの従来型デパートの店舗が見習うべきポイントだ」と、サンダース氏は語る。