電通の、デジタル分野での成長戦略を支える存在である電通デジタル。現在特に力を入れているのが、Instagram広告である。同社はどのような戦略をもって、Instagram広告に取り組んでいるのだろうか。電通デジタル、小林、近藤両氏と、フェイスブック ジャパンの栗山修伍氏の鼎談から探る。
電通グループにとって、いまやInstagramは重要なメディアのひとつだ。
Instagramの日本国内MAA(月間アクティブアカウント数)は、2018年9月時点で2900万。約1年前(2017年10月時点)から、いっきに900万も上乗せする急成長ぶりは、まさに目を見張るものがある。
また、そんなInstagramの人気を後押ししている、ストーリーズ機能も見過ごせない。投稿内容がプロフィールに残るフィードとは異なり、投稿後24時間しか閲覧できないストーリーズは、すでに国内でデイリーアクティブ利用者の70%が使用しているという。さらに、スマートフォン画面の全面に渡って表示されるストーリーズは、「タテ型動画」というフォーマットを、日本人の生活に浸透させた。
電通グループのデジタルマーケティング専門会社、電通デジタルではいま、ACRC(アドバンストクリエーティブセンター)という社内組織を立ち上げ、クライアント企業のビジネスにより大きなインパクトをもたらすInstagram広告の開発に取り組んでいる。ちなみに、2017年4月1日に設立されたACRCは、マスのクリエイターとデジタルのクリエイターが一緒になって、多様なソリューションの開発を行う部隊で、所属人員も100名を超えるという。
もともとは、電通本社でマスクリエイティブを担当していた電通デジタル・ACRCの小林慎一氏。そしてSNSのスペシャリストとして、新卒の頃から電通デジタルで活躍してきた、同じくACRC所属の近藤ゆい氏。さらに、フェイスブック ジャパンでクリエイティブストラテジストを務める栗山修伍氏の3人で、Instagram広告戦略の最新トレンドについて語ってもらった。
栗山修伍氏(以下、栗山):Instagramは数年前まで、写真愛好家がとっておきの画像を共有するSNSとして認知されていました。それがいまでは、さまざまな人々が気軽に日常を共有する、生活に密着したプラットフォームとなっています。だからこそ、いま広告媒体として注目されていると思うのですが、それぞれマス広告のプロ、SNSのスペシャリストとして、Instagramの価値はどのように感じていますか?
小林慎一氏(以下、小林):わかりやすいところとして、若い世代に対しての広告媒体価値はすごく感じますね。ここ数年、新入社員と話をすると、新聞・雑誌を読まない、テレビを見ない人が増えていて、どこから情報を得ているのかと聞くと、SNSと答える方が多い。そんななか、ある新人は「ファッション情報はInstagramでチェックします」といっていて、若い層ではSNSが雑誌に置き換わっているんだなと実感しました。そういう人々にアプローチするには、Instagramは一番ふさわしい媒体だと思います。
栗山:最近はググるよりもタグる人が増えています。日本のInstagramユーザーのハッシュタグ検索回数は、グローバル平均の3倍にも上ります。実際、我々の調査でも、Instagramで検索してから、WEBサイトでより詳しく調べるなど、次のアクションを起こすユーザーが増えていることがわかっています。
近藤ゆい氏(以下、近藤):確かに、私自身もInstagramを検索ツールとして使う機会が多いです。行きたいお店を検索したり、撮った写真や動画を投稿したりするのはもちろんですが、ダイレクトメッセージ(DM)機能もよく使います。いまオンラインになってるからこのコに連絡しよう、みたいに気軽に連絡できるところがいいんですよね。そう考えると、情報を調べて、発信して、友人とつながってといった、日常のすべてがInstagramで完結しているかもしれません。
しかも、Instagramって、本当に進化のスピードが速いんですよね。「こういうものがあったらいいな」というユーザーの潜在的な需要をすくいあげて、すぐに実装されるところも、InstagramがMAAを伸ばし続けられている理由なのかなと思います。

「Instagramは、若い世代に対しての広告媒体価値がある」と語る小林氏
メディア最適化は重要
栗山:なかの人間ながら、私もInstagramの進化のスピードには驚かされます。ところで、おふたりとも仕事柄、さまざまなInstagram広告を見ていると思いますが、何か目立ったトレンドはありますか?
近藤:ストーリーズはタテ型で作る、ということが、クリエイティブの現場にも浸透してきた感じがします。特に、海外のハイブランドはタテ型をうまく活用していますね。
小林:以前は、テレビCM用に撮影したものを無理やりタテにして使うこともありましたが、栗山さんのチームとメディア最適化、モバイル最適化の勉強会などをやらせていただいて、いまでは撮影段階から、フィード用はスクエア型、ストーリーズ用はタテ型と、それぞれ専用に作っていこうよという流れに変化しています。
栗山:一番大きな違いは時間ですよね。我々の調査によると、動画広告は10秒を超えるとユーザーの注意力が低下します。なので、クライアント企業には、冒頭、なるべく3秒以内に簡潔で伝わりやすいメッセージを届けるべきだと提案しています。
小林:テレビCMって、基本的に最後にオチをつけますよね。でも、Instagramのようなモバイル広告の場合、オチに行くまで見てもらえない可能性が大きい。
近藤:テレビCMとは視聴態度も異なります。ある程度受動的であるテレビCMに対し、Instagram広告の場合、視聴の可否は完全にユーザーに委ねられているので、テレビCMよりも能動的といえるでしょう。つまり、ユーザーに気に入ってもらえなければ簡単にスキップされてしまう。Instagramに最適化したクリエイティブの制作は必要不可欠ですね。
小林:そこがマス広告との一番の違いで、一番難しいところです。

「ストーリーズはタテ型という認識が、浸透してきているように感じる」と近藤氏
基本的に前例がない
近藤:先ほどいったように、Instagramは変化のスピードが速いので、そのキャッチアップが大変だと感じるケースはとても多い。わたしが担当しているクライアント企業には、何をやればいいかわからないという課題に対して、まずInstagramの勉強会を実施しています。
小林:勉強会を開催すると、成功事例を見せてくださいといわれることが多いのですが、Instagram広告に関しては、基本的に前例のないことをやっているので、そういった形でお見せできる例がほとんどないのが、少し難しいところです。
栗山:セオリーに則って作るというものではないので、いわゆるわかりやすい成功事例を出すのは難しいですね。ですが、そういったご要望はよくいただくので、Instagram Businessのウェブサイトでご紹介する、最新事例も増やしていきたいと考えています。
小林:そうなんですよね。ただ、マスだけでは若い世代に訴求するのが難しい現状があるので、Instagram広告をやりたいというクライアント企業は、いまとても多い。それも、従来のようにメディアミックスのなかのひとつのプランでとしてではなく、Instagramのなかで効果が出る広告をやってみたいんだけど、経験がないので教えてほしいという依頼が多いですね。
新しい広告制作のカタチ
栗山:そうしたクライアント企業向けに、フェイスブック ジャパンでは「スプリント」といわれるワークショップを開催しています。2018年2月からはじまり、いまでは月5~8回くらい開催しています。4~5時間半ほどで行う、課題解決型のワークショップですが、最終ゴールは「制作したクリエイティブの配信」なので、かなり実践的になっており、非常に人気の高いプログラムになっています。
小林:このスプリントは、この度、フェイスブックさんの監修のもと、ACRC単独でも実施できるようになりました(DD IG SUMMIT)。いわゆるクライアント企業との勉強会ではなく、クリエイティブの制作から配信まで行えるという点が画期的です。このプログラムのすごいところは、媒体の担当者、代理店のクリエイティブ担当者、クライアント企業の担当者、この三者で一緒に行うところですね。ACRCで行うスプリントでは、マスのクリエイターやCMディレクターが参加しているのも新しい部分です。
栗山:その肝になっているのは、ご参加いただくクライアント企業から、事前に実施したいキャンペーンのブリーフと素材をお出しいただくところにあります。まず、モバイルで成功するクリエイティブノウハウやInstagramならではの表現のトレンドをお伝えしたあとに、いただいたブリーフをお題に、参加者全員でディスカッションしてくのです。
近藤:「スプリント」では、クライアント企業のブリーフをもとに、私たちから提案をすると、その場ですぐにフィードバックをいただける。そのアドバイスをもとに、三者が同じ目線で意見やアイデアを出し合って、クリエイティブをブラッシュアップしていく。大変エキサイティングな経験で、いままではありえなかった取り組みです。
栗山:クライアント企業は、自社のサービスや製品については詳しい。その強みをInstagramでどう伝えるかということに関しては、我々が詳しい。そして、ACRCさんが主体で「スプリント」を実施すれば、電通の統合的マーケティングのケイパビリティから強化されたInstagram広告への視点がある。そのうえで、アイデアをいかにドライブするかということこそ、我々自身もやりたかったことのひとつです。
小林:そうですね。クロスメディアで広告を展開するにあたって、クリエイティブの最終目標を達成するために、媒体ごとに役割があります。そういった全体のプランを踏まえてご提案できるのは、私たち電通デジタルの強みですね。

「広告主、媒体社、代理店、それぞれの強みを最大限に生かすことができる」と栗山氏
コミュニティ目線のクリエイティブ
近藤:Instagramの世界観のなかに、企業目線で作った広告を出すと、逆にネガティブな印象を与えかねないと心配される広告主もいます。
栗山:我々の調査では、80%のユーザーがビジネスアカウントをフォローしており、閲覧数が多いストーリーズ投稿の3分の1はビジネスアカウントからの発信によるもの、ということが判明しています。ユーザーは決して、広告だからと毛嫌いしているわけではありません。大切なのは、それはコミュニティにとって見たいと思えるものなのか、ということです。
小林:SNSにおいては、コミュニティを壊さないクリエイティブと、パフォーマンスの高いクリエイティブというのは、ほぼ同義ですよね。
栗山:そう思います。「スプリント」では、ノウハウ的なお話もしますが、それ以上に、どういう風に作れば、コミュニティに受け入れられて、愛されるか、といったことを一緒に考えるようにしています。それこそが、結果として、広告目的を果たせるクリエイティブになるはずなので。
近藤:InstagramやFacebook以外にも、それぞれの媒体ごとにコミュニティがあって、それぞれに最適化して発信しなければ全く反応してもらえないということを、強く実感しています。それぞれに合ったコミュニケーションを取ることの重要性を、クライアント企業の皆様にも理解していただき、それに適したクリエイティブを作っていくことが成功の鍵です。
小林:Instagramのように、時代の光が当たっているような媒体のクリエイティブは、これまでにない、新しくて面白いものができる可能性があります。Instagramは、実は、高パフォーマンスなデジタルマーケティングツールです。ターゲティングは正確で、認知から獲得までフルファネルに対応でき、改善スピードが速い。人間の感情に訴求するエモーショナルさとデジタルマーケティングの正確さを併せ持った他にはない媒体です。
「スプリント」のように、三者が協力し合えれば、成果は絶対に上がるはずなんですね。前例が少ないというのは、チャレンジの余地があるということ。私たちは、自分たちの経験や知識をフルに投入して、これまでにない成果を作り上げたいと思っています。
栗山:ありがとうございます。我々もクライアント企業とコミュニティとがより身近になるコミュニケーションを、今後もサポートさせていただきたいと思っています。

向かって左から小林氏、近藤氏、栗山氏
▼小林慎一
株式会社電通デジタル
アドバンストクリエーティブセンター
総合クリエーティブディレクション事業部長
エグゼクティブ・クリエーティブディレクターカンヌ金賞、ニューヨークADC、広告電通賞など、国内外の広告賞を70以上受賞。主な仕事は、「金麦」「Evita」「ポカリスエット」「インプレッサ」など。2017年より電通デジタルへ出向し、ナショナルクライアントのデジタルシフトをリードしながら、認知領域から刈り取り領域まで、マスとデジタルを統合したキャンペーンを手がけている。
▼近藤ゆい
株式会社電通デジタル
アドバンストクリエーティブセンター
データ&ダイレクトクリエーティブ事業部
ソリューションプロデュースグループ
ソリューションプロデューサー
電通デジタル入社以来、動画を活用とした、企業や製品ブランド認知向上のPDCA設計案件を複数担当。さらに各種クリエーティブディレクションや、ECサイトのブランディングまで、幅広い領域での実務経験を持つ。また、Instagramの専門人材として、企業のInstagramの導入支援から、パフォーマンス向上に大きく貢献。現在ソリューションプロデューサーとしてクリエーティブソリューションの開発を中心に、運用まで手がけている。
▼栗山修伍
株式会社フェイスブックジャパン
クリエイティブショップ クリエイティブストラテジスト大学を卒業後、イタリア・ミラノにてデザインの修士号を取得。帰国後、ブランド戦略に関わる数多くのアートディレクションに従事。楽天株式会社ブランドマネジメント室 室長、9,INC設立を経て現職。Facebook, Instagramにおける最適な広告クリエイティブ戦略の立案、及びデザイン開発を行う。
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Written by 内藤貴志
Photo by 渡部幸和