真夏だというのに、スーツ姿のビジネスマンが忙しく行き交う、丸の内二重橋ビルディング16階。都会の中心とは思えない、広々とした皇居の緑地帯を見下ろすモダンなロビーの一角に、異世界へ通じるような、その分厚い漆黒のトビラは備え付けられていたーー。「Deloitte Greenhouse」の中身とは。
真夏だというのに、スーツ姿のビジネスマンが忙しく行き交う、丸の内二重橋ビルディング16階。都会の中心とは思えない、広々とした皇居の緑地帯を見下ろすモダンなロビーの一角に、異世界へ通じるような、その分厚い漆黒のトビラは備え付けられていたーー。
デロイト トーマツ グループが世界約30カ所に展開する、イノベーション創発施設「Deloitte Greenhouse(以下Greenhouse)」。クライアント企業のCxO(Chief x Officer)向けのこの施設が2019年6月、日本でも開設された。そのインテリアモチーフは、戦国時代に千利休が構築した、茶道の「茶室」だ。
「経営課題が複雑化するなか、普通の会議室では当たり前の議論しか起きない」と、デロイト トーマツ グループで、Greenhouseリーダーを務める桐原祐一郎氏は語る。「Greenhouseはこうした状況を打破すべく、クライアントとホストが、腹を割って話ができるような場を目指している」。
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日本の茶室には、訪れた者が日常を離れ、身分関係なくリラックスしてお茶や会話を楽しむための仕掛けが施されている。Greenhouseも同様に、クライアント/ホスト、上司/部下といった垣根や慣習を取り払い、深く親密な議論できるような設計が施されているという。
入り口でマインドチェンジ
デロイト トーマツ グループの旗艦オフィスが居を構える丸の内二重橋ビルディングは、2018年10月15日に竣工したばかりの最先端のインテリジェントビルだ。国の重要機関や大手グローバル企業が集中する丸の内の街並みは、2020年に向けて再開発が進められており、道幅が広く、小奇麗ながらも、まるで文明開化の頃の趣を感じさせる。そんなロケーションに、Greenhouseはオープンした。
冒頭で紹介した、分厚い漆黒のトビラは、「MIND-CHANGING TUNNEL」と呼ばれる、Greenhouseの入り口だ。自動ドアにしては、鈍重に、しかし格調高く開閉する、そのトビラの奥には、わずか十数メートルしかない、暗闇の小路が続いている。通路の両脇でライトアップされているのは、香り立つような竹林(TOP画像)。ここは茶室でいうところの、客の出入り口「にじり口」の役割を担っているという。
戦国時代の茶室では、にじり口を通る来訪者は、どんな身分であっても、みな刀を外し、深くかがみこまなければならない。身分や慣習といった日常的なものは、ここで取り払われるのだ。MIND-CHANGING TUNNELも同様に、役職や立場といった、日常的なものを一度リセットする狙いがあると、桐原氏は語る。
デジタルガーディアン
MIND-CHANGING TUNNELを抜けると、和のしつらえのなかにハイテク機器が並べられた「OPEN HIVE」に辿り着く。壁に設置されているのは、チームラボが手がけた、大型タッチパネルサイネージ「Digital Collection Wall(デジタル・コレクション・ウォール)」だ。気になる画像をタッチすると、デロイト トーマツ グループ関連のサービス情報を、直感的に知れるようになっている。
モニターに向かって右側に設けられているのは、パーソナルモビリティ装置や感情認識ヒューマノイドロボットなどが展示されているスペース。サイネージを含め、最先端ガジェットに触れることで、マインドの切り替えをさらに促進してくれそうだ。

「OPEN HIVE」
約1000平方メートルの規模を持つ「Greenhouse」の間取りは、OPEN HIVEを中心に、さまざまな趣向を凝らした複数のワークショップに適した部屋や施設が、放射状に立ち並ぶという構成。そのもっとも奥まった場所に用意されているのが「サイバーインテリジェンス センター」のサテライトオフィスだ。この施設では、グローバル規模でクライアント企業のインフラを、サイバー攻撃から守ることができるという。折り紙をモチーフとしたSF風のオフィスチェアと、壁に備え付けられた無数のモニターが、デジタルガーディアンともいえる頼もしさを醸し出している。

「サイバーインテリジェンス センター」のサテライトオフィス
全体テーマは「和敬清寂」
複数ある部屋のひとつ「和の間(HALL OF HARMONY)」のコンセプトは、心の和、空間の和、人々の和を追求し、深い部分での和を求めること。そのための仕掛けとして、壁一面を覆う広大なホワイトボードが設置されており、自由で開放的な議論が実現できるという。また、椅子も固定されておらず、レイアウトは自由に変更可能だ。
また、この部屋の椅子すべてに背もたれがなく、中央の椅子とテーブルの配置は円形。これによって、職位や立場に関係なく、自由な場所に座って議論ができるという。
「日本企業は、座る位置ひとつ考えても、暗黙の決まりを重視する傾向がある」と、桐原氏は語る。「和の間は、そうした決まりを排除し、お互いの肩書きやポジションに関わらず、フラットで自由な議論や意思決定をする場だ」。

「和の間」
和の間に隣接する「敬の間(HALL OF RESPECT)」の狙いもまた、普段とは違った議論を促進することだ。その名の通り、来訪者が人を敬い自らを慎むことで、おごらず他人の意見に耳を傾けられるよう、工夫が施されている。
壁には大きなホワイトボードが備え付けられており、会議の進め方やアウトプットにこだわらず自由な発想を促す。「ホワイトボードに参加者が各々のイメージを書きながら会議を進めて、議事録ではなくその絵をアウトプットとすることもある」。

「敬の間」
「清の間(HALL OF SERENITY)」では、来訪者が心身を清め、軽やかに思考を巡らせることができる。白を貴重としたその空間には、清潔感が溢れており、シアター形式に椅子を並べることも可能だ。議論の前のブリーフィングにも向いている。
Greenhouseを訪れるクライアントは、基本的に自由に出入りが可能なほか、デロイト トーマツ グループ独自のフレームワークに基づいた、専門のファシリテーターによるセッションを受講できる。和の間、敬の間、清の間は、こうしたセッションで活用されるほか、ブレインストーミングの場として利用されることが多いという。

「清の間」
日本のブレイクスルーにも
Greenhouseを案内してくれた桐原氏が、一番お気に入りなのが「寂の間(HALL OF CALM/INSPIRATION)」だ。窓を覗くと皇居外苑から、江戸城跡や桃華楽堂、そして日比谷公園までを見渡せる。「ここでランチをする方が、レストランに行くよりもよっぽどリラックスできると思う」。
普段と違った形で議論したり思考することは、多少気疲れすることもあるだろう。来訪者は最後に、この寂の間を訪れることで、そうした疲れを癒し、またフレッシュな状態で日常に戻っていくのだ。

「寂の間」
「オープンから2カ月が経ち、クライアントのCxOの皆様からも、『また利用したい』という声が多く聞かれるようになった」と、桐原氏は強調する。「現在はクライアント企業のみに利用を限定しているが、所在地が霞ヶ関付近ということもあり、将来的には幅広い解放も考えている」。
Written by Kan Murakami
Photo by デロイト トーマツ グループ