マーケターやエージェンシー幹部に必要なのは、ブランドが危機に巻き込まれないことを願うことではなく、重要な問題に対するブランドのポジションをはっきり認識すること、そして「ブランドボイス」を明確にすることだ。ただやみくもに有料ソーシャル広告を一時停止して、沈黙を貫けば、それがかえって多くを語ることにもなりかねない。
激動の2020~21年初頭、さまざまな危機に対して、ブランド各社はソーシャルメディア広告を一時停止し、微調整し、さらには遮断してきた。
ブランドはしばしばリスクを嫌う。そんな彼らにとって、こうした戦略は目新しいものではない。だが、昨年以来、米国を襲ったのは、コロナ禍や、ブラック・ライブズ・マター(BLM)運動、米国会議事堂での暴動など、まぎれもない危機の数々だった。そんななかで、ブランドには単に一時停止ボタンを押す以外のプランが必要だと、エージェンシー幹部は確信するようになっている。
キャンベル・イウォールド(Campbell Ewald)のソーシャルメディアストラテジー部門でアソシエイトディレクターを務めるニック・マイヤー氏は、「消費者はブランドに自社の信念に基づいた行動を期待するようになっている。そのような状況下で、自社が文化的話題の二極化に引き込まれないことを願ったところで、どうにもならない」と語る。
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「ブランドボイス」の重要性
マーケターやエージェンシー幹部に必要なのは、ブランドが危機に巻き込まれないことを願うことではなく、重要な問題に対するブランドのポジションをはっきり認識すること、そして「ブランドボイス」を明確にすることだ。ただやみくもに有料ソーシャル広告を一時停止して、沈黙を貫けば、それがかえって多くを語ることにもなりかねない。その一例は、昨年夏のBLM運動だ。その最盛期、消費者はブランド各社に、この件に関する声明を出すか、その名声に傷をつけるリスクを犯すかの二者択一を迫った。
ソーシャルメディアの動きは速く、マーケターがしばしば追い求めるバイラルトレンドは、一時的な成功に終わりがちだ。通常は数カ月かけて練られるプランが、いまはわずか数時間で立てられていると、マイヤー氏は話す。また、信用性を欠く無神経な投稿を避けるためには、ブランドの信念を会社全体が理解することも重要だ。
「その企業が重視していると主張する問題が、巷の話題の文字通りすべてのトップトレンドを席巻している。もしそんなとき、その企業が自社の製品について語っているところを顧客が見ることは、どのような意味を持つだろうか?」と、デジタルエージェンシー、360iのソーシャルストラテジー部門でディレクターを務めるバレンティナ・ベティオル氏は語る。
社会不安と政治的二極化が渦巻く昨年夏、多くの広告主が一時的なFacebookボイコットに参加した。こうしたマーケターたちは、秋の出稿再開を念頭に置きつつ、Facebookがもっと積極的にヘイトスピーチを監視するようになってくれることを期待した。その後、TwitterやFacebookなどのプラットフォームは、米国会議事堂で起きた暴動のような暴力沙汰が再び起きないように、ドナルド・トランプ氏のアカウントを凍結している。しかしそれでも、ソーシャルメディアがかき乱された配信チャネルになれば、メディアプランに混乱が生じるおそれもある。
この危機を活用するべき
フレー・エージェンシー(Hooray Agency)のCEO、スティーブン・セガーズ氏は、今日のブランドは、長期のエンゲージメントに意味を持つやり方で、この危機を活用するべきだと話す。有料ソーシャル広告の購入に使われていたであろう広告費を、変化やエンゲージ、感情を重視した本物のコミュニケーション戦略の立案のために使うべきだと、同氏はいう。
マレンロウUS(MullenLowe U.S.)のシニアバイスプレジデント/グループアカウントディレクター、ケイ・パンチェリ氏は、過去数カ月が我々に示してくれたものがひとつあるとすれば、それは強いブランドバリューを持つことの重要性だと話す。もはや何をいうかが大切なのではない。何をするかが大切なのだと。
パンチェリ氏はある例を示してくれた。マレンロウUSのクライアント、ボストンの建設請負業社、サフォーク・コンストラクション(Suffolk Construction)は、自社のブランドパーパスの中心に「可能性の再定義」を据えた。「(クライアントの1社は、)コロナ禍が始まった当初には誰も考えてみなかった領域に、緊急のヘルスケアサポートを確立することに力を入れた」と、パンチェリ氏は語る。
この一手には、ブランドロイヤルティを獲得できる可能性が秘められている。「消費者は、広告の枠を超えて、対外関係と影響力を包含するこのレベルの行動に報いるだろう」と、同氏は話す。
最悪なのは「日和見主義」
しかしその一方で、今後も何も変わらないブランドもある。彼らが目指すのは、新型コロナウイルスのない、政治的分極化が進む以前の世界で流れる広告に対して、中立の立場を守ることだ。ウォンドゥーディー(Wongdoody)のCEO、ベン・ウィーナー氏にいわせると、それで問題はないという。
「社会的変化に対するコミットメントをDNAのなかに持つブランドで、そのコミットメントが本物なら、素晴らしいことだ」と、同氏は語る。「しかし、私が思う最悪のケースは、本物の証を何ひとつ持たないブランドが、ソーシャルコメンテーターになろうとして、それが見苦しいレベルにまで達したときだ」。
そう語るウィーナー氏だが、ほかのマーケターたちの意見にも同調している。同氏は、もはや出稿の一時停止や後づけの批判は、デジタルマーケティングに対する持続的なアプローチではないと考えている。同氏はブランドに、対応すべきことが数限りなく出てくるせいで「受け身」になってしまわないようにと警告する。ブランドに必要なのは、一貫性の維持と、明確なブランドボイスとブランドバリューで自信を持つことだと、ウィーナー氏は考えている。
フレー・エージェンシーのセガーズ氏は、危機のときには状況を「静観」し、信頼できるメッセージを発信して、ブランドバリューを高める努力をすべきだと、アドバイスする。「結局のところ、ブランドには表明された目的というものがある。その表明された目的とは、顧客が望む形で、顧客と商業的な目的でつながることだ」と、同氏は語った。
KIMEKO MCCOY(翻訳:ガリレオ、編集:長田真)